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彼は宇宙病患者  作者: ののの
アーサー伝説 2
15/17

15 2人の訪問者


 とある日、彼が出勤するとまたマニカに擦り寄られていた。基本的にフレックス制度が導入されているため、朝早くからいるのは彼だけだ。そのこと目当てにたまにマニカが早く出勤していることもあって、今日はたまたまそういう日だった。

 今日はマニカが彼がデスクについて座ったあとに話しかけてきた。彼を逃がさないように自分の椅子まで持って来るほどである。


「これ!見てください!前の19番道路が何か事故でぐちゃぐちゃになってるんです!これってミステリーですよねっ!」


 内容は巨大不明光学現象と空間のねじれの観測がニュースとして取り沙汰されているというもの。現場周辺は、争った跡も散見されるため事件性が高いのではないかと囁かれている。マニカとしては、彼にニュースでもと(たしな)められたことで、最近は野次馬ばりに様々な情報を集めて、彼に褒められようとしているのだろう。

 その彼はといえば、自分が起こした現象であることを理解しているので適当に話を切り上げることにした。


「…軍事演習とかじゃないかな、平和になって久しいけどあるにはあるでしょ」

「実は……、それがそうでもないらしいですよ?」


 珍しくマニカが得意げな顔をして、手元のインタフェースから何枚かの画像を取り出してきた。それは昨日彼と銀河超獣が戦ったあとの道路の地割れや熱で変性したライトの写真だった。

 さしもの彼もこれには少し驚いてしまう。マニカは彼の表情をめざとく盗み見て得意気だ。


「ね!すごいですよね!こんな狭い範囲でここまで影響を及ぼせるものなんて考えられないんですって。これって地球の新兵器じゃないですか!?逆に超古代兵器とか!」


 やけにマニカのテンションが高いのが気になったが、彼としては一般に流通していい情報なのか疑わしかった。見る限り、編集された痕跡も見当たらないので、事件現場を意図的に流した者がいることは明らかだった。

 そしてその彼の疑問はとある訪問者によって氷解することとなる。


◆◆◆


 彼のその疑問から1週間ほど経った頃、昼食休憩の後の彼に訪問客があった。ウユカヤ復興資料館としてはスタッフルームまで客が来る事は珍しく、特にアポイントも無かったのでその場にいる誰もが困惑の表情をしている。


「次長、なにか知ってます?」

「いや僕も聞いてないよ」


 フランネルが疑いつつも扉を開けてすぐ姿を見せたのは中肉中背の中年男性だった。現在の技術により髪の毛のメンテナンスは見事に繁茂の様相を呈していて、出発前(・・・)に比べて異常な増え具合が良くも悪くも笑いを誘う。その男性はいくつもの大きな荷物を置いて、適当な椅子に腰掛けると大きく溜め息をついてから口を開いた。


「ただいま戻ったよ諸君。俺がいない間なんもなかったか?」


 その場にいる誰も男性の頭部を見ている。顔を抑えて笑い声を堪えていたり顔を背けているものもいたり。唯一無事そうな彼が仕方なく返事をした。


「……おかえりなさいミシマ副館長、特になにも。……それにしても少し…」

「お、どうした?どこか気になることあるか?少しなんなんだろうな〜?」

 

 瞬間、妙な緊張感が場を支配し、沈黙の時間を一拍置いて彼が口を開く。


「……少し、日に焼けましたかね」


 彼の一言でこの場の緊張感はついに決壊し、ミシマと呼ばれた男も大笑いする。当の彼はといえば、自らが起こした笑いの渦に苦笑いするだけだったが。


◆◆◆


 頭髪を再生させスタッフルームで荷解きをしている男は、この資料館を全てを統括する汎用AIのクラークの次に偉いミシマという男だ。現在は40歳を半ば過ぎた頃の発掘調査を主とする復興資料館の学芸員である。

 そのミシマは一同と一通り大笑いしたあと、ふと思い出したかのように彼に向けて話を切り出した。


「そうだ!そういえば君に来客だったぞ」

「僕に?」

「うむ。表で待っていたんで、入館許可は出しておいたが」


 そうミシマが言った時、事務所の扉からノックの音がした。ミシマの頷く顔を見た彼は扉を開けた。扉を開けた先にいたのは中年の男性と少女であった。


「やあ副館長、随分と待ったよ」

「……ああ、すみませんうちのミシマがご迷惑を」

「おっと、人違いか」


 男性の方がノックをしていたようで、挙げた手をふりふりと振って彼の注意を引いている。少女の方は、男性より一歩引いて無機質な瞳を彼に向けている。そしてその少女が唐突に口を開いた。


「これ」


 少女が彼を見た瞬間のできごとであった。ほとんど蚊の鳴くような声で、実際彼は聞き取れてはいない。

 唯一、聞こえたのは手前にいる中年男性。少女の反応が予想外だったのか、少し表情が変わっていた。さすがのそれには彼は気付けた。


「どうしました?」

「いえ、ね。こちらに来たのがそもそも先の事件での目撃者を捜索しようという話だったんですがね。…あなた、少しお話し聞かせてもらいたいんですけどいいでしょうか?」

「……もし断ったら」

「残念ですが拒否されるとこちらとしても…ね?」


 男性と少女に不穏な気配を感じとったのか、彼が一歩片足を引いた。

 瞬間、彼は悪手を打ったと気付く。無意識であろうと逃げ出そうというポーズをとってしまったと心の中で考えてしまった。これでは何かあると悟られてしまうのが道理である。

 そしてその逡巡は、彼らを傍観するミシマにも伝わってしまったようだ。

 

「どうせ暇だし行ってきてもいいぞ、それに一般市民は警察に協力的であるべきだ」


 ミシマはたじろぐ彼を見やってそう言い放つ。ミシマが招いたのは警察の捜査官、入館許可も捜査だから一発OKだったのだ。ミシマからの援護射撃に捜査官も彼も風向きが変わったことを感じた。

 

「……どれくらいかかるのでしょう」

「あなたの態度次第ですかね」


 ついに諦めて誘いに応じた彼は中年男性の方へと歩み寄る。男性はミシマに会釈だけで彼の身柄を預かる了承を得てから部屋を後にした。


 男性に続いていく彼は、そばにいる少女を特に何の感情も抱かない冷たい視線で観察した。兄弟姉妹とそれ以外で区別している彼としては、同僚であれ初対面であれ大した感情を持たないのだ。

 お互いに一瞥した両者では少し反応が違うようだった。彼はいつも通り興味なさげに、少女は少し驚愕したような納得したような、そんな表情だった。

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