13 危機一髪
ちょうど彼が外に飛び出した時、銀河超獣らしき獣が男に飛び掛かっている時だった。それを目視した瞬間には、彼の眼前から閃光が伸びていた。
亜光速で発射されたビームは見事にも狼型銀河超獣の頭部をつらぬき、勢いそのままに吹き飛ばす。
「懸命な判断ありがとう。助けは僕だけでいい」
彼は一瞬のことに面を食らう男に素早く近づいてすれ違い様に男に声をかけた。さらに彼は銀河超獣にまだ息があることを確認するやいなや胴体の中心部にあるコアをビームで破壊した。彼が銀河超獣を仕留めるまでに至った時間など1、2秒かだ。
先ほどまでクレイブを襲い掛かろうとしていた元気な姿など想像も出来ないくらいにぴくりともしない。銀河超獣にとって、コアというのは生命維持装置なのだ。
「大丈夫ですか?」
「……は、はい。……なんとか」
彼は振り返ってクレイブを気遣った。一瞬のことではっきりと事態を把握していないだろうが、少なくとも助けられたことは理解していそうだ。
「た、助かりました。…俺には何がなにやら…。あれは一体…。動物というには、とても大きい…」
「ええ、最近増えてきているみたいですね。この前もニュースであったでしょう」
そう言われたクレイブは「ああ、あれか」と得心がいったような顔になる。危機は去ったのだと胸を撫で下ろす。落ち着こうと景色を見ようと周囲を見渡した時に目の端に何かを捉え、クレイブはそれを注視してしまった。
「ひぃ!」
怯えた声を上げて目をきゅっとつむって前にいた彼にしがみつくクレイブ。何か怖いモノを見つけたようだ。
「まだ物陰に何かいます!生き残り、かも!」
しがみつかれた彼はクレイブを背中に隠しながら物陰の何かに近づいていく。彼の服を掴むクレイブの手が震えているのを感じながら確認すると、それはまるで機械のジャンクだ。人間を象った人工生命体アンドロイド、その成れの果てだった。
「うーん、何だろう。壊れたアンドロイドかな」
そう観察する彼の言葉を聞いた途端にクレイブは込めていた力をを抜いた。少し前の恐怖体験が必要以上にクレイブの恐怖心を煽ったのだ。まだ顔に怯えを残しながらもクレイブは自分も確認しようと物陰に近づいていった。
「……な、なぁんだ、なら……大丈夫です。実はこう見えて大学で電子工学科だったんですよね」
自分のテリトリーの事柄だったという事もあって少し調子を取り戻したクレイブ。きっと気を紛らわすためにと他のことを考えようと必死なのだろう。そのジャンクとなったアンドロイドは、物陰に背を預け倒れていて、腕はもげ足はひしゃげ、かろうじて頭部が残っている異形。それも怖いとは思うのだが、クレイブが自分で言っていた通りアンドロイドはお手の物なのだろうか。
「ん?…あ、そうか。…でも…だったら……」
クレイブはその壊れたアンドロイドを調べていくうちに何かに気づいた。ちらちらと彼を見たりして少し動揺が見て取れる。
「何か気になることでも?」
「えー…ファイフ…アルム…なんだろう。でも照会すれば分かるかもしれませんが、……違法なヤツかもです」
「なんで分かるんです?」
そう彼から質問されたクレイブは、おずおずと彼の顔を見る。一瞬、沈黙がこの場を支配してふわりとした風が2人の頬を撫でていった。クレイブは唾を飲み込んでから意を決して口をひらく。
「…意外と知られてないんですが、正規のアンドロイドには目に刻印があるんですがコイツはないんですよね」
「ふぅん」
クレイブはさらに続けて。
「……それにあなたも」
そう言った時の声はかすかに震えていた。自分の救世主たる存在が違法存在だったというのはこの管理された世界の住民にとって受け入れられないのだ。感謝したい気持ちが不信感に上書きされ、ヒロイックな憧れが下劣な猜疑心に塗り替えられてしまう。
そんな危惧からクレイブは彼から目を背けてしまった。
「おや?そうですか?」
しかしすぐ彼の発言にクレイブは反射的に目を開けてしまう。そんな根幹を揺るがしかねない指摘を根が真面目な人間なクレイブは思わず反応してしまう。
「ありますよ、刻印」
「あれっ!?」
彼はクレイブに対し目を近づけて見せる。指をさして見せられた目の中にはしっかりとした正規の刻印と彼の名前があった。クレイブの動揺に彼の口元が緩んで、どことなく恐れを感じる。
それに気づいたクレイブは慌てて飛び上がって後ずさりして、とにかく急いで謝罪をした。
「し、失礼しました!見間違いで、命の恩人にとんでもないことを…」
「いえ良いんですよ。こっちの彼のことは僕がなんとかします。ほらお友達も心配しているでしょうから無事を伝えに行ってください」
「はい!すみません、またすぐ戻ってきますので!」
クレイブを見送った彼は、残された男のそばで独り言をつぶやく。倒れている男は完全に気を失っているので何かを聞かれる心配はないようだ。そういうところは抜け目ない。
「下等アンドロイドの特徴なんてあったんだ。…お姉様、起きたんだ。ごめん口が悪かったね。普通の、よくいるアンドロイドね」
物陰のアンドロイドに目を向ける。違法だと言われ、悲しき存在だ。だが彼の窮地を脱する手助けをしたのも事実。また口に微笑みをたたえて。
「うん、今の人間も良いやつがいるかもね。…はぁ全く、男の同僚が欲しかったよ」
◆◆◆
「これでふたつ目か」
円卓に座る誰かがそう言った。
「立て続けに観測出来ているのはウユカヤ地区だという事らしいな」
円卓会議はいくつも空席があって、4人が適当に座ってあるいは足を机の上に投げ出している。
「よりにもよって俺かよ」
そのうちの1人、30歳手前くらいのどこにでもいそうな男。身だしなみはそこそこだが、机に足を投げ出しているのはこの男で行儀が悪い。どうやらウユカヤ地区を管轄しているらしい。
「何か良くないことがあるかもしれない。調査して、もし利用できそうなら捕縛してもいいだろう」
「へぇへぇ。謹んでお受けいたし奉りますですぜ」
慇懃無礼に返事をした男はスマートデバイスに指令を受け取ると、ドカドカと音を立てて会議室を出て行った。
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