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彼は宇宙病患者  作者: ののの
アーサー伝説 2
12/17

12 力の一端


 ウユカヤ復興資料館の奥の奥。普段は誰も立ち入らない場所に物理ボタン式のセキュリティドアがある。現代の価値観からみても前時代的で、しかしそれ故に突破しづらい堅牢さがうかがえる。


「…まだ、開かないか」


 実は彼がこれを見つけたためにこの資料館に就職したと言っても過言ではなかったりする。もっとも彼の能力なら簡単にぶち抜ける扉だが、彼はそのつもりはないらしい。平和的に攻略するつもりのようだ。


◆◆◆


 日は変わって、今日は世界中にいくつも支部が存在し地域に根差すグローカル団体、ケアリークラブが見学に来る日だ。毎年恒例のツアー企画で、毎年出来るだけ趣向を変えようと気が入ってしまうのはクライアント側もホスト側も同じ事だった。

 前年度が古代だった事もあり、今年度は近代を紹介する事になっていた。


 朝の10時、続々と資料館に入ってくる人達を迎える彼。これから2時間ほど館内を見て回るツアーとなっている。しかし目当てはこの後の懇親会のようでダラけて見える人の方が多いように見える。


「まず、近代で最も発展したものは管理システムです。今では統制社会と言われすべて国民は管理されています。しかしこれは決して悪辣なシステムではなく人間が根源的に幸福になれるのです」


 受付で渡されたスマートグラスからアナウンスが流れて歴史ツアーが行われる。まるで映画を見る感覚で没入できるプログラムなのだ。そして移動して資料のレプリカを触ったり嗅いだりするのが復興資料館の名物、擬似体験パックと呼ばれるものだ。職員は大して手を出さなくて済むのであまり人員がとられなくていい。

 

「あれ、そういえば1人少ないように見えますね」


 後ろから追従して見守っていたマニカがそう呟いた。隣にいる彼はその言葉を受けて前の集団を注視する。


「確かにいないな、しかも1人じゃなくて2人だ」

「え!大変!」

「ちょっと探してくるよ、マニカちゃんはこのままでお願い」


 休憩に行ったのかどこかに潜り込んだのか、彼はそう考えながら一般客が入れそうな場所を見て回る。いくつか見ても誰も見当たらないようだ。


「面倒だな。こういう迷惑されるのは」


 彼は一度瞬きをする。すると彼の視界はストラクチャー構造のように周りの世界を透過できるようになった。熱探知もできてそれが壁に阻まれていようと判別できるようになる。生活だけには到底必要にならなそうなこの機能は、やはり彼は自称するERSAar(アーサー)だからという事だろうか。


「これを使ってもあの扉の向こうは見えない。いや今はそれどころじゃないか」


 この便利な視界の端に熱探知の反応を彼は見た。どうやら抜け出した2人は外にいるようだ。ただ1人はうずくまり1人は棒立ちになっている。そしてその棒立ちしている1人の前にふよふよと何かが浮遊している。


「これはまずいな!」


 その異常事態を察知してすぐ彼は駆け出した。


◆◆◆


 少し前のこと。

 1人のメンバーが暇だと抜け出して外でタバコを吸っていたのを注意しに行くのがクレイブという男だ。クレイブ自身も何回目かになるこのツアーなので、抜け出す気持ちも分からない訳でもない。だからこそ話を聞いてやれると考えているから後を追った。

 その行動は褒められるべきである。とても献身的で思いやりある行動だ。


 しかしクレイブが着いた頃には事が起こった後だった。


「お、おい!シモン、どこで寝てるんだ!」


 最初にクレイブが見たのは、地面に突っ伏しているシモンという男だった。手には火のついたタバコがつままれ地面に倒れた時になのか灰が折れて短くなっている。

 何で寝てるのかとかどういう状況なのかと、二の句を継ごうする時に、クレイブは物陰から唸り声を聞いた。

 瞬時に彼も判断できた。普段、自然と隔絶された世界にいる現代人達は生まれてから死ぬまで動物をデータの中でしか見ない。彼らにとってみれば、我々における恐竜のような存在で姿形と生態だけを知っている未知なるモノ。


「猫…?犬…?」


 クレイブが見たソレは図体は5メートルほど、針のような短めの体毛を持った狼だ。暗がりで赤い目を光らせ歯を剥き出しにし涎は隙間から漏れ出している。体は前傾姿勢で、それに気づいた時にはもう眼前にきていた。

 クレイブはあまりの恐怖にグッと息を呑む。叫ぶとか逃げるとか、そういうことが出来ない。足はすくんで前から迫る獣から目を離せず、クレイブは呼吸すらも忘れて眼前から迫り来る獣を見るだけしか出来ない。ただ頭の中では多く考えが巡っている。


(怖い。逃げなきゃ。動けない。死ぬのか。終わるのか。シモンは、どうしよう。助け、助けを)


 ほんの数センチ。クレイブはどれくらいの時間に感じただろうか。獣の口の中、喉奥までを凝視して獣の体温すらも幻視した彼は最も死を意識した瞬間だったろう。

 クレイブにできた事はその現実から目を背けるために目を瞑ったことだけだった。

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