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彼は宇宙病患者  作者: ののの
アーサー伝説 2
11/17

11 生真面目な男


 ウユカヤ地区の教会、兼市民会館の会議室。今はとある団体の例会中だ。ドアから入って手前から椅子の席が奥まであって、その先に壇がある。全体的に白を基調としたホールで清潔感を感じさせる。

 そして壇上には演台があってそこでひとりの男が何やら話している。

 後ろの壁にはおそらく属している組織の旗と国の旗が掲揚されていて、男にはどこか誇らしさすら感じられる様相だ。


「西暦6839年、我々人類は前大戦を薄氷の上とはいえ勝利で飾り、今では3000年弱が経過しました」


 壇上で演説するのはクレイブ・バルデルという20代くらいの若者だった。マザーアース財団の地方理事であり、親類筋も財団の上役を務める選ばれしエリートである。


「大戦当時、地球は卑劣な侵略者によって堕とされた巨大質量隕石爆弾によって地殻をはじめマントルまでも露出させてしまい、場所によっては外核が(えぐ)られた部分もありました。さながら子供が遊びに使うホーリーローラーボールのようなぼこぼこの地球は瀕死の重傷といえました」


 壇上のクレイブは手元に持った軽い素材でできた安っぽいオモチャを掲げてみせる。ホーリーローラーボールというものを実際に見せているのだ。クレイブはこれを前に座る会員に、確認したあと後ろへ回してもらうような仕草をして神妙な顔をして話を再開させた。


「…ここで我々人類が初めて地球の内部を目にしたのです。推測でしかなかったマントルのさらに中心部、地球のコアと呼ばれるそこは青かった。当時の人々はその事実に目を奪われました。おそらくコアは数千℃の白熱化した流動体だと思われていたのですから無理もないでしょう。地球は自らの秘部をさらけ出したのです。しかしそれは同時に人類への警告だったのです」


 クレイブは一旦ここで間をおいて目の前に座る会員達をちらりと見たあと話しを続け。


「なぜ私を守らないのか、なぜ私を傷つけるのか。そういう意思を当時の人はひしひしと感じ取ったと聞いています。なぜなら地球は我々人類の母です。人類だけではない、全ての自然を生み出した神と言えます。その事実に思い至った人類は一致団結し侵略者達を迎え撃ち、ついには勝利しました」


 時にはボディランゲージを使って眼前の観衆に自分の演説を上手く伝えようとしている。そして最後にクレイブの真後ろにある旗を手で示しながら言葉を続け。


「ここで私の祖先でもあるこの第4620地区ケアリークラブの初代会長カーリー・バルデルが立ち上がって人類を一致団結させた言葉があります。『母たるを助くは誰ぞ──"Who aideth the mother?"──』。これは現在でも第4620地区の地区目標でもあり『保全を通じての交歓』というケアリークラブ全体の標語ということもあり、我々は決して傍観者ではなく、主体者であると決意を持って日々の活動に注力してゆかなければならないと私はそう思います」


 そう言うとクレイブは発表終了の旨を告げて、観衆による拍手の音を聞きながら席についた。その拍手は次第に散発的になりすぐに静かになる。すると司会が次のタイムスケジュールの専門知識発表に移るように案内して、また誰かが壇上に上がって何かを話し出していく。

 クレイブは自分から意識が逸れたのを肌で感じ取って、隣にいる副会長のマートに小さく愚痴をこぼした。


「事務的な拍手だったな相変わらず。みんな好きだろ、偉人と自分の関係性ってやつ」

「クレイブ、例会ってのに意味なんか持ってるやついねーよ。回数実績をこなしてパトロンから運営費をいただくことしか考えてないね」

「俺は一応考えて会長の挨拶に臨んでるんだぜ?よその会長の挨拶なんて近況報告とニュースに意見をちょろっと言う程度の質だからなあ」


 2人はケアリークラブという国際青年奉仕団体に所属する会長と副会長。18歳から40歳まで所属できる奉仕を通じて地域の未来を担う次世代リーダー達が相互成長できる誇りある団体だ。

 ただマートがクレイブにこぼしたように、ガワ(・・)だけが立派で中身が伴っていない会員も多く、奉仕意識の高いクレイブにとって悩みの種である。

 その後のプログラムもつつがなく進み約2時間の例会は終了した。

 

 閉会の挨拶を済ませ今日の日程を終えたクレイブは、次回の例会準備にとりかかっていた。事務所の机から取り出したものを一緒についてきたマートに見せた。


「次は復興資料館だな」

「毎年、それのあとの懇親会目当てにするやつが大勢いるやつね」

「ははっ、お前もだろ」

 

 ケアリークラブの活動は例年どおりを辿る場合も多く、悪く言えば手抜きだ。運営側は楽なので良いし、資料館に行くという建前は世間体も良い。長年在籍している者にとってはいつも通りのイベントがあんな事件になるとはまだ知る由もない。

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