第353話 おしめΩ交渉
精霊に申し訳ないと思うような情緒や性格は無いようで何事もなかったように髪の中や首筋に入っていった。ルカリムだけはほんのり申し訳ない顔を見せたかな。オルカスは入る前に脇腹に突っ込んできそうだったので鼻先を指で撫でて止めた。
ジュリオンと戦っていたダースさんは腕がなくなっていたけど、治療の必要もなく金属をくっつけると戻ったそうだ。
復旧作業や怪我の治療も大事だけどスーリの処遇について決めよう。
立場上だろうけど止めてきたディア様の連絡によって、もしかしたら我が国の誇るレージリア宰相が出てくる可能性がある。それもマッチョなオーガモードで……その前に対処したい。
今なら『私の命を狙い続けるハイエルフを対処した』と言い分も出来よう。
箱に入れても箱を破壊して出てくるし……エール先生も起きたことだし、せめて一言謝らせたい。
ただ、スーリはどれだけ傷つけようとも体を再生させる。
うちの精鋭が交代して分解し続け、更に希少な金属で箱詰めにしたり魔導具で拘束も試みている。今のところ両手両足が万全でなければスーリの技量は活かしきれないようでうちの精鋭で対処ができる。
最終的に「なにか弁明をする気はあるのか?」と問うと、再生は無駄だと悟ったのか、それともなにか思うことがあったのか「話す機会があるのなら」とスーリは腕と足の再生をやめたそうだ。
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「まずはこちらに謝罪する気はありますか?」
「こちらの言う事を聞くのなら」
――――交渉のスタートでこれである。心が挫けそうだ。
こんな話ができているようで出来ない化け物、どうやって話せば良いんだ……。
溶岩に封じようとも、視覚的に制限の掛かりそうなモザイク処理が必要であろう処刑を超えた処置を受けてもケロッとしている。頭を潰そうが心臓を潰そうが意味がない。
こいつを放逐しても意味がなさそうだし、そもそもこいつはこちらを狙い続けてくる。最終手段を行う前に何故こんな騒動を起こした理由だけでも聞いておきたい。もしもこいつが自分の考えでこの凶行に至ったわけじゃない場合が怖い。エルフの国の誰かやライアームが黒幕の可能性だってある。
「言うことを聞く聞かない以前に、物事には順序があります」
「……よくわからない。何が目的?言うことを聞くのなら対価を払っても良い」
スーリにはこの騒動の一件において悪意や悪気すらないようだ。表情一つ動かない。
軽く深呼吸して話すことにした。話が通じない相手に怒っても仕方がない。対処する方法がないわけではないしね。
「そう、まずは……私は謝罪と賠償をそちらに要求します。そして貴方の目的を知りたい。この領地をめちゃくちゃに荒らし、私に言うことを聞かせようとしている貴方の目的を知りたいです」
「知る必要があるのか?」
「貴方の言い分を私が理解できて、更に私が納得できるものなら……貴方の目的達成に手を貸す可能性は無くもないです。エルフの国ではどうか知りませんが対価を差し出して何かを手に入れるのは普通のことです。ただし貴方の目的や対価によってはその願いに応じられるかはわかりません。こちらにも出来ることと出来ないことがありますから」
このエルフなら人の生死を無視して、要求ばかりしてくる可能性がある。
そういう要求ならそもそも対応できない。
「天使を殺してほしい。謝罪はする。賠償は国がする。人質は返す」
…………無理じゃないかな?
このハイエルフ、こいつも上位存在だけど、こいつが対処できないのならそれは倒せないと思うんだけど……。
と言うかエール先生とジュリオンはもう人質にならない。
「…………」
「もっと詳しく、詳細に……なぜ上位存在の殺傷をしたいのですか?」
何を言ってくるのか待っているのに、言いたいことは終わったとばかりに静かになった。
「天秤が傾いたから」
「…………」
「…………」
良くわからない言葉が出てきた。続けてなにか言うかと思ったが何も言ってくる様子がない。それで通じたとでも思っているのだろうか。
「…………続けて、もっと細かく」
「あれは人の月日の数え方なら4万年前……月夜がまばゆい日だった」
「もっと簡潔に、今回の一件について要約してください」
「わかった」
一体いつの話からしようというのだろうか。
よくわからないが情報は多い方が良い。要約されているようで全くされていない話を聞いていく。
世界が誕生し、そこに生まれた「枝」であるスーリ。エルフの国では何年も寝て、なにか問題があれば解決するようにしていたそうだ。たまに旅に出ることもある。
問題とは外敵からの攻撃が主で、基本的にエルフとは関係のない上位存在からの攻撃が多い。そして現在、エルフの里は火に包まれている。
いつもならエルフの軍や他のハイエルフで対処できるのだけど今回は無理だった。
結界があるし外に出なければ問題はないが、攻撃され続けているのは不快だしスーリが外に出ることにした。
スーリは燃えても元に戻る。里の外は炎に包まれていたがスーリは骨になって脱出。そして再生して里の外で火を使う上位存在を倒せる手段を探していた。
そこでクーリディアスの守護竜王を目的にしたが死んでいて、支配者であるリヴァイアスを感知。リヴァイアスが守護竜王を倒したのならリヴァイアスを使いたい。ちょうど契約している領主がいる。
とりあえず人の統治では願いを聞いて貰う方法もあるから奴隷になってチャンピオンになった。そのうち帰ってくるだろうと待った。この地にいればそれなりに力を持つ人も集まって来るしちょうどよかった。
ただ、その力がどれほどかを確認する必要もあった。実際会って、力を受けてみれば良い感じだった。
だから私の力を根源から写し取って使おうとした。しかしうまく使えなかった。それは別の上位存在がなにかしたからだとか……多分シャルルの精霊の加護だな。私が胎児の時に受けたやつ。
とりあえずオベイロスとの約定もあるし、人間とはいえ貴族である領主は殺すのは良くない。だから枝と同じ姿にしておけば悪くは扱われないだろうと姿を変えて放置した。
馴染むまで万全の力は使えないため、周囲には時間稼ぎのために洗脳。しかし結局力を使いこなすことは出来ず、ならばと力を使える私を使おうと目論む。
人に言うことを聞かせる方法。――――つまるところ脅しである。
「それで、こちらには人質がいる。返してほしければいうことを聞け」
…………杖に手を伸ばしそうになったが我慢だ。おそらくこいつに悪気というものは存在しない。
「エール先生も、ジュリオンもこうやって無事で、人質足りえません」
「人質は別。海で捕まえてきた」
「え?」
「オベイロスの血を引く二人」
――――……人質が、違ってた!!?
謎に海に行っていたけど、まさかそれが目的だったのか。
シャルルにとって従兄弟になる男女の双子の二人、しかも私よりも年下。
「それと一緒にいたのも、身分が高そうだった」
それは多分他国の姫君である。おまけで護衛もいるそうだ。
「だから言う事を聞け」
「聞くわけ無いでしょう。それより、エール先生とジュリオンに謝って……いや、違うな。もっと詳しく、わかりやすく、事情を順序立てて話してください」
なにかの知識で「IQが違いすぎると会話にならない」とあったけど、種族が違えばこうも違うのか。……しかしまさか人質がエール先生やジュリオンのことではなく、ライアームの息子たちのことだったとは。
海にいるオベイロス王の系譜を捕まえた。これを脅し、いや、スーリ的には「交渉材料」にして私を使おうとした。しかし言う事を聞かず、今に至ると。
「そうしたら言うことを聞くか?」
「それは貴方の事情次第です。じゃないと協力はありえません。貴方のことも教えて下さい。年齢とか」
「年齢は……8万歳ぐらいの若い枝。性別はない。そう言う機能はない。排泄もしない。技能は、特別何が出来るかということが聞きたいのなら『格闘』『収納』『模倣』『帰還門』『分裂』『精神干渉』『操作』……樹の力で『再生』も出来る。寝るのが好き」
確かに再生中に股間を見たけどついていなかった。つるりと何もなし。
それにしてもいくつもの能力を持っているようだ。
「あの体を割って出していたものは?」
「分裂、出したら相手を拘束する」
「あれに意識なんかはありますか?」
あの異形相手には致死性の攻撃を仕掛けた。
剣や槍、バルディッシュを使って何体かバラバラにした……だから聞いておかねばならなかった。
「あの劣化した葉には意識はない。出たら相手を拘束して、後は木になる。薬にも出来る」
スーリから生まれたスーリに似た異形は反抗すること無く、その場を動かなくなった。いや、正確にはその場で体を揺らして突っ立っているだけで拘束の必要もなかった。
そのうちそれらには根が張り、木のように固まってしまった。……お陰でユース老先生は除去に苦労している。
「命令は聞きません。しかし交渉はしましょう」
「交渉……?」
多分このままではよくない。
この邪悪の権化……いや、私にとっては極悪人だけど、悪意はないのだろう。かろうじて会話はできるのだからコントロールしたほうが良い。
王都から正式にスーリを「解放して」「言うことを聞いてやれ」とかいう命令が来そうな気がするし、その前に海底に沈めるなり……いや、沈めて封印なりやったほうが良いかもしれない。だけど「帰還門」とかいう技能があるらしいし、滅ぼせないし拘束できない存在だ。拷問どころか処刑されてもケロッとしているこいつを納得させないとまた襲いかかってくる危険性がある。安心して寝る事もできない。
「はい。交渉です。事情はなんとなくわかりました。貴方の目的、貴方の差し出せるもの、貴方が今後どうするかを決めれば、手伝うかもしれません」
「まどろっこしい」
「では、私は力を貸しません」
「だからこちらには人質がいる」
「私にとっては無視できる人質です」
これは嘘だ。
ライアームの息子たちは国にとって重要で、シャルルのお見合いに参加しようと集まった周辺国家の姫君は国際的に超重要だ。どちらが欠けても戦争待ったなしである。
だけど交渉は強く出よう。シャルルも私に命の危険がある提案だから交渉は決裂したと言えば……どうにかしてくれるだろう。ライアームもこの国の人間だし、他国の王族も上位存在のいる世界だし仕方ないと納得してくれるかもしれない。……シャルルの親戚にあたる見たこともない5歳以下の男女の双子に関係のない他国の姫君方の命と私の命が天秤にかかれば私の命のほうが大切である。……非常に、ひじょーに心苦しいが。
「なら、なにをすれば火を消してくれる?」
「交渉をして、その交渉がうまく行けば手伝う可能性はあります。交渉をしますか?」
「わかった」
本当にわかっているんだろうかこいつは。
「まず貴方はこちらに人質……オベイロスの血を引くお二人と他国の姫君、並びにその護衛を差し出すことが出来るのですよね?」
「そう」
「そして、火を操る上位存在を倒してほしい。もしくは里周辺の火を消してほしいというのが願いですね?」
「…………どちらかで良い」
「上位存在を倒す必要はないのですか?」
「そう、一度火が消えれば中の枝が対処できる」
「なぜ中の枝の方?は現在対処できないのですか?」
「仲間を巻き込むことになる。弱い枝に新しいエルフは全部死んでしまう」
「なるほど。では『帰還門』とやらができることについて詳しく」
ふと固まったスーリ、これまでにない反応だな。
「…………もしかして、領主は助けようとしてくれている?」
「…………………………はい、落とし所を……お互いが納得して解決できる道を探そうとしています」
引きつりそうになる表情筋に無理をさせて笑顔で答えた。
心の中では「いいえ、勘違いしないでください。海底に沈めることも視野に入れています」と言いたかった。しかし、この人の心とか無い存在相手に下手を言ってこじれることを防ぎたいしこらえる。
城で戦った時に水圧に抗えていなかったことから考えて最終手段として自然界の水圧、海底クレバスに落とすという方法もある。クレバスがあるかはわからないけど。
「そう。帰還門は樹に帰ることが出来る」
「それはどれぐらいの時間開きますか?また、何人ぐらいそこを通れますか?」
「門は数日開けられる。人数はわからない。開けている間は通れる」
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能力を聞き、こちらの安全を確約してくれることも決まった。謝罪と賠償も国を上げてすると……ただ個人的に納得はまだできていない。
賠償はエルフの国がすると言っている。人質を返すとも……。
しかしスーリの謝罪には誠意を感じない。スーリ個人から何かを引き出したい。
「今回、私はすごく大変で傷つきました。だからスーリから何かをください」
ちょっと交渉に疲れた脳でそのまま言ってしまった。
「自分から?…………それがあれば火を消してもらえるか?」
「話した通り、可能かどうかはともかく手を考えますし、安全圏から手を貸すことも視野に入れています。じゃないとこうも話しませんよ」
「…………寝かせてあげる」
「え、そ、それが対価ですか」
「――――ずっと寝てて良いようにする。食べ物、飲み物、排泄、全部世話をする。人の幸せ。食べさせる、飲ませる、尻を拭く。ずっとやる」
一瞬思考が停止した。
私はそんな年齢じゃない。前世年齢を足せば、いやそれでもそういう年齢でもないな。怪我や病気でもなければ絶対ありえない。
「それなら私がやりますから!?私の役目です!!」
「ちょっ!?エール先生?!」
「フリム様の世話は私がやります。お風呂からおしめまで!!寝かしつけも得意です!!」
「私もフレーミス様の世話をしたいぞ!?」
貧血でフラフラのエール先生だけどスーリに謝罪させるためにも横の長椅子で寝てもらっていた。
おそらく長時間の交渉で寝ていて、貧血に寝起きでまだ脳が回ってないか。もしくは洗脳の影響かもしれない。そしてなぜかジュリオンも競うように声を上げた。
「どう?」
「どう?じゃないんですよスーリ!!エール先生壊れちゃってるじゃないですかー!!!??ジュリオンも!!」
エルフの、いや、スーリの感性がわからない。
もしもそれをOKすれば、赤ちゃんフリムだな。おしめにおしゃぶりまでつけられてしまいそうだ。
「えっと寝ることが幸せなのは人によるかと……」
「なん……え??」
なんで驚いているんだこいつは……。
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|д゜)たまには普通のあとがきをいれねば……







