第344話 大迷路Φユースス
「予定通りにやるでな!」
「お願いします!」
予定通り、この城を作ったユース老先生によってこの城の形を変えてもらう。
いくら兵士がいても、目的地が定まらなければここに来ることはできない。
「<土よ!壁よ!不変を願い創りし堅城よ!>」
ユース老先生は普段遣いではない長杖を両手で持ち、床に丸く擦りつけて詠唱した。
部屋が一瞬強く揺いだ。
「ユースス先輩、この場は広くお願い致します!」
「承った!<我が想いに姿を変えよ!!>」
婆やさんがユース老先生になにか言った。
ユース老先生と婆やさんは親交のある関係のようで婆やさんがエール先生を抑えると話した時、ユース老先生がそれが良いと太鼓判を押していた。
他にもこんな問題はさっさと終わらせたいと参戦を申し出たブレーリグスや、ジュリオンを目標としている角のおばさん……ダースさんがいたのにも関わらずだ。
婆やさんは確実に勝てると言う自信もあったようだけど、簡単にエール先生を抑えることは出来なかったようだ。
「見つけた!止めるぞ!」
「ここだ!ワォォォォォン!!!」
「グルルル!」
ユース老先生が城を大きく変えたが、弱点もあると言っていた。
強い魔法使いや加護持ちがいるため、密封空間にしてしまうと一気に異界になることがあるそうだ。それを防ぐために外部とのつながりが必要であること。そして魔法を使ってる最中、ユース老先生は動けないことだ。
そのため、この部屋は外部とのつながりのある。
城は姿を変えて巨大な迷路となっているが……今頃城の中にいた兵は出口や入口が存在しているかもわからない状況に右往左往していることだろう。
「「「あっ」」」
まぁ、城全体を動かしているユース老先生がこちらにいる。突入してきた彼らの足場が消失し、彼らの姿は見えなくなった。
「爺!そろそろ吾輩も合わせるぞ!」
「応!手筈通りにの!」
「吾輩自慢の魔法<モール・モーラー!溶岩よ!レレイキサー!熱よ!噴き出せ!包め!爆ぜろぉ!!!>」
杖を床に差し込まんとばかりにまっすぐ杖を持つユース老先生の横であぐらをかいて短杖を床にもう片方の手の甲を床につけてラズリーさんも詠唱した。
打ち合わせどおりなら建物の外側や迷路の一部に溶岩を展開したはず、これで人海戦術を使った破壊や突入は難しくなる。……ただ、爆ぜないでもらいたいが。
大きくなった部屋の中、離れたエール先生を見ると婆やさんと空中戦を繰り広げていた。
このままエール先生だけでも正気に戻ってもらって回収&撤退したい気もする。
だけど、肘の攻撃はかなり強く入ったように見えたし、もう後もう一歩かもしれない。婆やさんはエール先生であれば「完璧に一人で対処出来る」と言っていたけれどどれほどの衝撃で私の言葉がまともに届くようになるのかわからない。ましてや城の兵のように、他の人よりも強い影響を受けているのなら解除されない可能性もある。
このままだと危険だし私も参加しようかと思っていたら――――壁が外から破壊された。
「スーリ!貴様ァッ!!!」
「おいおい、どうなってやがる」
「…………」
「ちょうど良いわい!」
ジュリオンとドゥッガ、そしてスーリが壁を破壊して入ってきた。
他にも数人ほど兵が入ってきたけど兵は床や壁が意識を持ったかのように彼らを飲み込んで行った。
素早く床を動かし、後ろの後続を断ったユース老先生。この部屋自体も動いているようだ。
元々ジュリオンとドゥッガは城に居たことは知っていたし、どうにか説得しようとしていた。この空間に来てくれて、更に兵の邪魔も無いのならたしかにちょうどいいはず。
ただ……問題はスーリだ。
海から帰ってきてないと思っていたけど帰ってきていたのか。
「トカゲ女、わかってると思うけど……貴女の相手はこの私よ」
「――――貴様に用はない」
「こっちにはあるんだよねぇ!!」
ジュリオンは殺気を込めて私を見てきている。
猛烈な勢いで殴りかかりに行った角のおばさんことダースさん。
その場で剣を抜き、袈裟斬りにしようとしたが、ユース老先生はそれを見越していたのかジュリオンのいた床が揺らぎ、踏め込んだ足が沈んだ。
ジュリオンの振るった剣はダースさんに当たらず、床に剣がずぶりと刺さった。
その剣も、もう一本の腰に挿したままの剣も、いやそれどころか下半身まで床にのみまれたジュリオン。
床から脱出しようと手をやるもその手も飲み込まれていく。
斬撃に対してか地形の変化のためか一歩下がっていたダースさんが飛び込んだ。
胸から上が床から生えているだけの無防備な状態のジュリオンの頭に拳骨が炸裂し、ジュリオンはお返しとばかりに炎を吐いた。
そのままジュリオンは沈んでいった。
「<水よ!>」
「ありがとね!行ってくるわ!!」
ダースさんが火達磨になっていたので私が水で消化する。
ニカっとこちらにお礼を言って彼女はユース老先生が開けた穴に入っていった。予定通り彼女とジュリオンと一対一の場を作ってくれているのだろう。ユース老先生流石過ぎる。
「ドゥッガ、再戦だ」
「あぁん?てめぇ、もう裏切りやがったのか?」
「裏切ってねぇ、目を覚まさせてやろうと思ってな」
「なぁに言ってんだ?その角叩き折ってやらァ!!」
ディーンも両手を構えて前に出た。
ドゥッガは城の変化を緊急事態と思ったのか、船団を一掃した長杖のような戦鎚のようなリヴァイアスの魔導具を持っていた。
レーザービームのような水を出すことが出来るそれをディーンに向けたが――――ディーンの影からパキスが飛び出した。
「んなっ?!」
「クソ親父!わりぃな!!」
おそらくそこは戦鎚の射線、息子であるパキスがそこに出てきて驚いたのかドゥッガの手が止まった。
パキスは出てきて泥団子のようなものを投げた。
ドゥッガは両手で超重量かつ両手持ちの杖を持っていたからか、体をねじって顔に当たるのを避けた。同時にディーンが前に出て大きな杖のようなそれを打ち払った。
ドゥッガの手から落ちたその杖から僅かに水が放射され、壁に強い水流が放出され、壁にヒビが入った。
「危ねぇなっ!?」
「チィッ!余計なことしやがって、このドラ息子が!!」
パキスが棒手裏剣のようなものを何処かから出し、ドゥッガに投げつけた。
ドゥッガは苛立ったように半身でそれを避け、拳を振りあげた。
「はん!父親からろくに育てられてねぇんで、なっ!!」
「生意気言いやがって!ちょっと来い!!」
パキスにドゥッガが拳を振り下ろすよりも先にパキスは離れた。
パキスはドゥッガに対して時計回りに走りながらさらに数本投擲するとドゥッガはその場でマントを使って打ち払った。
パキスは机の上に立ち、腰からドゥラッゲン家の家紋の入った鞘を、短剣を抜いて頭上に構えた。
「息子ばかり見てて良いのか!オ ォ ル ァ ア ア ア ア ア!!!!!!」
「ぐぁっ!?」
ディーンが突っ込んだ。
私から見ればディーンはするりとドゥッガに接近していただけだが、おそらくパキスとディーンは打ち合わせしていたのだろう。
パキスは目立つように攻撃したり、ドゥッガにとって思い入れのあるドゥラッゲン家の家紋入りの鞘から短剣を抜いたりとドゥッガには無視できない行動をしていた。
ドゥッガは一瞬ディーンから意識が外れたのだろう。至近距離からいきなり現れたように感じたかもしれない。
ディーンはその体格に見合わぬ速さで突進し、壁を破壊して別の部屋にドゥッガを押しやった。
離れた場所で……エール先生と婆やさん、ジュリオンとダースさん、ドゥッガとディーンとパキスで戦闘が続いている。
この場にいるのは私と私を抱えるエルストラさん、魔法を使い続けているユース老先生とラズリーさん。
そして私の偽物であるスーリと、スーリに対して最大限警戒しているブレーリグスがいる。
「お嬢様、離れませんよう……できればその小娘は無視してここを離れませんか」
「フリム、離れないように」
「はい」
エルストラさんが私を抱きかかえたまま、一人になったスーリの前に行ってくれた。当然私達の前に出ているブレーリグスも、前に出る。
ブレーリグスからすれば最悪の出来事だろう。
だけど、ここに来る前にエルストラさんはブレーリグスさんを脅した。
エルストラさんは他の従者と信頼できる人に手紙で「もしもわたくしになにかあったらそれはブレーリグスに迫られてのことだ」という恐ろしい内容で配ったらしい。そして、フリムになにかあれば私は短剣で喉をつきますと散々ブレーリグスを脅した。
……結果ブレーリグスは渋々、ここまでついてきて味方してくれている。
エルストラさんいわく、ここまでしないと私かエルストラさんのどちらかを土壇場で気絶させる可能性があると。
スーリもこちらに近づいてきた。
「そこで止まれ!!」
パリリと音を立て、ブレーリグスがスーリに警告した。
スーリは素直に警告に従い、その場で立ち止まった。
「私の大切なもの、みんな――――返してもらいますよ!スーリ!!」
「…………」
私に見える、私の偽物。
ただ、何がしたいのか……後ろに浮かんでいる杖を持つでもなく、不気味にこちらを見てきた。
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