第341話 成長_ゴーガッシュ
パキスの成長には驚いた。
仲良くなれる気もしなかったし、いつか私の知らないところで適当に生きていてくれ程度に思っていたはずなのに……いつの間にか成長していたようだ。
パキスは多分だけど素直じゃないタイプの男の子だ。
前世の経験からわかる。私にも年の離れた弟がいて、奴にも反抗期の時期があった。
今でこそ言うことを聞く素直ないい子だが、反抗的で物を投げつけてくる時期もあった。
時間をかけて丁寧に諭そうとして、それでも反抗してきて、母さんを泣かすようなことをしたから最後は年が離れていたこともあって体格の差で分からせてやった。ちょっと大人気なかったかもしれないが。
素直に謝ればいいのに素直になれなかったそうだ。
そういう兄弟や姉妹、家庭は意外と多い。
家族だから仲が良いとは限らず、憎しみ合ってるような関係の家族もいる。
パキスについては個人的にあまりにも良い印象はなかったとはいえ、報告書ではレルケフを打倒していたし、その後も努力を続けていた。
自身が受けた扱いや暴力は忘れていないが……今でも数発殴っても許されるとは思うが…………私は大人である。子供の過ちには寛大にもなろう。
なぜなら私にだって子供時代があり、それなりに親や大人、周囲には迷惑をかけてきたはずだから。……いや、フリムちゃんはこっちでは子供だけれども。
まぁ、ここでパキスに暴れられても「今の私じゃ敵わないかもしれない」とか「今後パキスが変な方向に成長されても問題になる」とかも頭をよぎる。
だいたいパキスは誰かに褒められるような生き方をしていない。なら、なおさらねじくれた人になるかもしれない。
まだ私に撫でられてプルプル震えて首筋や耳が赤くなって……多分恥ずかしくなってるパキスならまだ矯正可能のはずだ。
ひっぱたきたい気は抑えて撫でておく。……私は大人ー私は大人ー。
ん、あれ、なんだコレ。
「<キュー!>」
「わ、ヅラ!!?」
「…………」
パキスの頭には何故かミィアの精霊がいた。
……髪の下から何かが盛り上がったような外れるような感覚がしてヅラかと思ったが精霊だった。パキスはヅラではなかったようだ。
黒っぽいイタチのような精霊はどこかドヤ顔で長い胴体を二足歩行にして手をあわせて可愛い仕草をしている。私の足に頭を擦り付けてから、リューちゃんを見てパキスの髪の中に戻った。
「……これからどうする?俺は王都に戻ったほうが良いように思うが」
頭を撫でていたはずが不思議な空気になった。
パキスは頭を掻いてこちらをまっすぐ見てそう言ってきた。
その目には私の印象に残っていたように荒んだものはない。敵意も殺意もなく、私が彼の目を見るとパキスは少し目を逸らした。
「ゴーガッシュのもとに行きます。それよりパキス」
「……なんだ?」
きっとまだ後ろめたいのだろうな。
「私はパキスの更生を嬉しく思います。できれば両親や自分に誇れるように生きてほしいです」
「……そうか」
……私も成長したなぁ。
前世なら聞かなくてもいいことは聞かずにいたほうが人間関係は円滑だったかもしれないけど、この件に関してはズイズイ切り込んだ。
年齢を重ねると余裕が生まれ、子供の頃よりももっと深く物事が理解できるからかもしれない。きっと、この対応は余計なお世話な部分もあるだろうけどパキスにとっても私にとっても必要なものだったはずだ。
「その、悪かっ……悪かった!」
ゴーガッシュのもとに行こうと歩き出した私の前にパキスが回り込んできた。
言葉がつまりながらも思い切り頭を下げてきた。
「はい、謝罪は受け取りました。ついてきてください」
「……おう」
ちょっと子供の成長に笑ってしまいそうになるのを我慢する。
パキスは10にも満たないし、子供の成長はやはり嬉しいものだな。まだ素直にはなれなさそうだけど。
とりあえず移動しながら隠れるなり逃げるなりの提案をされたが先にゴーガッシュをあたってみよう。
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会いに行くと……めちゃくちゃ怖がられた。
「…………スーリ様、そろそろわたくしめを解放していただけませんか?」
予想外の反応。
予定では「3日後に会えるはず」だったがあれから5日は経っている。オベイロス南方からの移動だし数日ぐらい日程がずれるなんて当たり前だけど……それはともかく誰かに暴行を受けたのかゴーガッシュの全身はボロッボロでとても薬草臭い。スーリにやられたのか?
「私はフリムです。わかりますか?」
「なんと……姿や声はスーリ様ですが、まさかこんな……ささっ!失礼しました!お座りくださいませ!!」
「はい、あの……解放ってどういうことでしょうか?」
「いやはや……どう話せば良いものやら」
話を聞くとスーリはゴーガッシュの商店に突如として現れた。そして自分は戦闘奴隷だと言って、そのまま居座ってしまった。
意味不明だし、追い返そうとしたのだが……頭に触れられ、気がつけば数日が経過していた。違和感もなくスーリがいるのも当たり前になっていて、そういうものだと思ってしまい、いつの間にかこの商会の看板戦闘奴隷として役に立っていた。
「そもそもうちはリヴァイアス領では南方から毛皮や作物を運んで商いをしておりまして……奴隷売買は行っておりません。フレーミス様は奴隷を集めているようですが、御存知の通り私はクーリディアスで家臣のワー様の前で失言をした結果、フレーミス様の臣下に睨まれております。そのため、奴隷を集めるような目立つ行動は避けておりまして……あ、でも元々リヴァイアス領の領民だった奴隷がいれば情報をワー様に流しておりますが」
必死そうに汗を拭いながら床に座って言い訳をしているゴーガッシュ。
あの時は裏切りとも取られない言葉を吐いたこともあって……今でもうちの家臣から睨まれているようだ。もしも自分の手元にリヴァイアス出身の奴隷が来たタイミングでその奴隷が死にでもすれば責められかねない。
彼も洗脳かはよくわからないが、違和感無くスーリを奴隷にしていた。今回、そのスーリの私に対する行いが「ゴーガッシュの命令」だと思われれば今度こそ一族郎党首切りになるだろう。ゴーガッシュも必死のようだ。
「どうして違和感に気がつけたのですか?」
「おそらく……家内に殴られた際に頭と腰をやりまして、その時からなにかおかしいなと」
「何したんですか……腰は治しますね」
「ありがとうございます」
どうせなので壺漬けにして治療しながら話を聞いた。
超魔力水はいつもの数倍負担にはなったが、彼ならこちらの味方になってくれそうだ。
「記録によればスーリは私の寝所に数日通っていたようです。ですので、何かしらの魔法をわたくしにかけたのではないでしょうか?あ、勿論家内を裏切るような事をした記憶はありませんが」
「なるほど……」
彼の怪我の原因は南方に戻った際に奥さんからぶん殴られたからである。
従業員の中にはゴーガッシュよりも奥さんに忠誠を誓っている人が居て、スーリのことを「旦那様がエルフを寝所に招いた」と奥さんに報告した。そして仕入れに実家に帰ったゴーガッシュは猛烈に奥さんに責め立てられたそうだ。可哀想に。
しかし、衝撃によってスーリの術が解除まではされなくとも少しは軽減される可能性があるとわかった。一般的な兵士でも……ジュリオンでも、私の言葉が言ってることと聞こえてることが違ってる場合もあったからこれはいい情報だ。
「では、アモス様かジュリオン様、もしくはエール様かドゥラッゲン卿にお伝えしましょうか?」
「私の言葉は聞こえてなかったり、別の言葉に聞こえるようで……ジュリオンとエール先生には拒絶されました」
エール先生とジュリオンは普段から私と寝室を共にしている。そう考えれば、より強く催眠だか洗脳がされていてもおかしくはない。アモスとドゥッガも寝室ではなくとも仕事上必ず接点があるはずで頼りになるかと言えば怪しい。可能性はエール先生とジュリオンよりも低いが、あの二人ならいきなり攻撃してきてもおかしくはない。
誰か良い人選はないか……。
「フリムは一旦ここにいろ。ゴーガッシュ、テメぇわかってるよな?」
「はい、我が商会の総力でお護ります。……ただ、我が商会はあまりリヴァイアス侯爵家から良いように思われていませんしあまりここに戦力は置いておりません」
「……わかった。ちょっと行ってくる」
パキスは何処かに行ってしまった。
ここに来るまでに言われていた彼の提案を蹴ってしまったが、なにかするつもりのようだ。
仲の良さそうなモーモスあたりを呼ぶのか、それとも他の伝手でもあるのか……今更裏切って攻撃してくるとかはないはず。多分。
執筆やタスク量の多さでウワァァァンとなりつつも感想を見てニヨニヨしています。いつもコメントありがとうございます!
それにしても1月27日発売予定のコミック2巻、感慨深くて……まだ先だと言うのに何もなくてもソワソワして胃が痛くなります。(/>ω<)/よろしくお願いします!







