第331話 文化⁙謎
チョコは大至急作りたいところだがそうも行かない。仕事は山積みだ。
遠方から恵みの雨の被害報告がやってきた。
リヴァイアスによる恵みの雨は住民にとって恒例行事でもあるためそれなりの対策はされていた。
何処の村も大きな被害はなく、問題があるとすれば道と田畑が草で埋め尽くされたため、また収穫と草刈りが必要なぐらい。
一番被害が大きかったのが大型魔獣の群れと戦ったアモス率いたリヴァイアス軍。とはいえ兵数人が軽症、そこそこの傷が一人だけ、その彼も命を脅かすほどの怪我ではない。防衛に使われていた壁と建物、それに田畑は荒らされたものの……村人は地下に避難していて人的被害はなし。
あの大きさの魔獣を相手にしてこの被害規模は快挙らしい。
アモスが戦っていた巨大な牛のような魔獣。あの個体は魔獣の域を超えて怪異のようなものでもあったようだ。トドメを刺したアモスは新鮮な内に領都に急いで持って帰ろうとしたそうだが……移動中見る間にしぼんでしまって、ほとんどが空気に溶けてしまったらしい。
『怪異』は人にとっては謎の存在で、幽霊や怪物のような扱いをされている。人が全く踏み入れないような山奥や、上位存在がいる領域と人間の領域の境界で見られることがある。
実体があるかも不明で人の目には半透明の蠢く何かや幽霊のようにも見え、接触すれば何が起きるかわからない。しかしそもそも目撃情報も少なく、意思疎通が取れるかも不明。
牛型の魔獣はその何かが影響したのではないかと推察された。極々稀に起こる現象であるらしい。……そりゃそうか。あんな建物サイズの魔獣が頻繁に出てくれば世界が滅ぶ。
アモスは大きな角と魔石、それにお肉に毛皮を切り取っていて、それを持ち帰ろうとしていたがそれらはしぼんでしまった。
そのため何か肉を用意してほしいらしい。
アモスは巨大な肉を持ち帰ろうとする前に「この肉を領主様に捧げるぞ!!きっと美味いしこの量だ!皆で祝おう!!」なんて宣言したそうだ。……なのに帰る途中に肉は完全にしぼんで消えてしまった。他にも狩っていた牛の魔獣は村においてきたそうで、凄く締まらない状態になってしまっているらしい。
苦笑してお肉の手配をしてもらう。
王都でも伯父上が大きな魔獣を狩ってパレードをしていたし、しぼんでも消えなかった角がある。しぼんだとはいっても人よりは大きな角を持って帰ってくる。
討伐した証明になるだろう、褒めるのにはピッタリのはずだ。お祭りにしたって良い。
他の情報を調べると……ディア様から手紙が来ていた。
リゾート地は心地よく、たまに貴族同士で喧嘩もある。最近の変化といえば近くで行われている騎獣の競技が楽しくてたまらないらしい。
騎獣の競技……競馬場みたいなのを作ってレースを推奨していたがそのことだろうか。
コロシアムで行われているボクシングのように、競馬場で行われている騎獣レースも大人気らしい。
飛行できる騎獣や、荷運びが出来る騎獣、速く走れる騎獣、障害物をものともしない騎獣などなど――――外国の商人が様々な騎獣を連れてきてレースは行われる。
商人もレースに勝てば宣伝をする時間や看板を立ててもいいし賞金も出る。当然レースは賭けにもなるし、民衆にとってはストレスの解消にもなる。
様々な騎獣は人の生活を支える……いわば益獣であり、良い個体がいればリヴァイアスでも繁殖すれば良い。それに国によってどんな騎獣がいるかわかるため、攻め込まれた時の対策ができるのも良い。
レース会場はリゾート地にそれなりに近く……たまにお見合い参加者は見に行っているようだ。集団行動してくれるなら良いけどさ。
問題はお見合い参加者は基本若者が多く、珍しい賭け事に興味津々で……手元のお金を超えて賭けをした。実家の宝物まで賭け始めて手が付けられないらしい。
賭けは公共事業であるため金銭を持ち合わせていなければ賭けは出来ないようにしたはずが…………彼らはまさかのお見合い参加者同士で賭けを行っているそうだ。
それは私には止められないし……人によっては賭けが過ぎて――――『杖もローブも持っていかれた』とかで夜な夜な抜け出してバイトをしているらしい。あぁ全部持っていかれたのね。
お金がなくても最低限の衣食住はこちらで提供しているし、生活に問題はないはず。なのに、一部のお見合い参加者は下手な変装をしてレースに出ていたり、レース場の清掃や整備を行っているらしい。
そんな奴ら、縛って王都に送り返してほしいと内心思うが心の中のシャルルが出てきて受取拒否するイメージが浮かび上がってきた。何処も引き取りたくないよね。
…………現実逃避してしまった。
い、いや……領主は私であるけど彼らへの監督責任まで私にはないはず!
あと、手紙によればライアーム息子たちの位置もわかったそうだ。
最 後 の 情 報 が 一 番 大 事 で し ょ う デ ィ ア 様 !!?
まだ遠くの海の上らしく、到着に時間がかかるためお見合い参加者に揃ってお出迎えする練習をさせておくという報告があった。ちゃんと監督と教育して欲しい、特にその抜け出している不良貴族たちを。
「……はぁ、ろくなことしないな。良い報告はないんですか?」
「そうですな。文化は育ってきていますぞ」
「お、良いニュース!詳しく!」
「にゅー……?商業ではないのですし、利益になってはいないのですが……」
「あれ?私は経済も好きですが文化も好きですよ?」
テロスには経済政策の話ばかりしていたからか、私に報告しにくかったのかもしれない。
いや、私が経済をメインにしていたのは人が飢えないようにするためだったし……そういう見方をされていても仕方ないか。温厚で誠実な方針の社長でも着任してすぐに人員整理していればそういう印象を持ってしまうようなものかもしれない。
とりあえず聞いてみると――――……呼んでくれた。
「にゃー!にゃー!」
「「「「にゃーにゃ♪にゃーにゃー♪」」」」
「にゃー!にゃ!」
「「「「にゃーにゃ♪にゃーにゃー♪」」」」
「…………」
フリムちゃんどんな顔していいかわからない。
部屋に入ってきたのはベスにヴァンディアズル。
ベスはダンジョンのある砦の責任者で大きくガッチリしつつもまるっこい部分もある猫人だ。彼の号令で狼人ヴァンディアズルたち、ムッキムキの戦士が海猫族のように踊っていた。
海猫族のダンスは青い猫が踊っているようで超かわいい。
だけど彼らはちょっと厳つい顔にマッチョな体つきで……可愛らしいダンスをやってくれている。
ヴァンディアズルは可愛いポーズでノリノリに視線を送ってきているが、どう反応していいかわからない。
「どうですかな?姫君が『海猫族の舞踊を気に入っていた』という報告がありまして、猫人族に伝わる舞踊が領内で流行りつつあります」
「そう……ですか、良いんじゃないですかね?」
攻撃的ではない文化が育っているのはとても良いことだが、凄く……可愛くない。
そもそも君たちは猫人じゃないし、野太い声でニャーニャー言うのはおかしいだろう。
容姿も振り付けも可愛い海猫族のダンスと違って、きっとかっこいいダンスをすればかっこよく見えるはずなのに……わざわざ体を丸めてゴリゴリのマッチョ集団が愛嬌を振りまく姿は、見ても良いものかすら迷う。
練習したのはわかるし、喜ばせようとしてくれるのもわかる。
ここで褒めても、落胆して見せても……メリットもデメリットもあるが、彼らの視線から察するに感想を期待されているみたいだし、今答えを出さないといけない。
「ええと、アリガトウゴザイマス」
「その一言で頑張って練習した甲斐がありました!」
「私はそれぞれの文化を尊重しているので、舞踊もそれぞれにあったものが発展したり、伝統として続けばいいなと思っています」
ジュリオンがいれば任せていたかもしれないな。早く帰ってきてもらいたい。
リヴァイアスで開発されたものなんかも見せてもらうと……面白いものも増えていた。
アルキメディアン・スクリューを以前ボルッソに教えたことがある。あれは水を高い位置に運ぶためのものだったが、説明した時に活用法として船のスクリューを教えていた。
一応それらしいものはできたそうなのだが、これでいいのかと不安そうに出来たものを提出された。
小舟に使うことで波には流されるが僅かに動くそうだ。実用性は現状ない。
力のある亜人たちにとって櫂で漕ぐ方が遥かに速いし、なんなら海の種族が船を引っ張ってくれる。
たくさんの品も運ばれてきたので目を通していく。
美術品は……ミニフリム像なんかが増えたそうだが、それを美術品と認めたくないのでスルーした。
料理で最近人気の道具があるそうで見せてもらうと……それはもうメイス、もしくはモーニングスターだった。
前世ではスーパーに行けばある程度切り分けられたお肉が提供されてパック詰めされていたがこちらでは塊で売られる。もしくは生きたままだ。
しかも、亜人は種族にもよるが顎が強く、筋っぽい硬い肉でも楽に食べられる。だから市場にもそういう肉が並ぶのは珍しいことではない。しかし外から来た商人にすればその肉は珍しくて食べてみたくても硬い。
だから棘付きモーニングスターや鋭角な金属板が取り付けられたメイスで、塊の段階から叩くそうだ。
…………肉たたきの大きなものと考えれば割と良い気もするのだけれども――――どう見たって武器だ。しかもかなり攻撃的なやつ。
なんだかなぁと思っているとテロスは私の機嫌を損ねたとでも思ったのかとっておきを出してきた。……出してきやがった。
いつの間にか変なものも出来ていた。
防御力がある新たな装備としては画期的なゴムを使った装備。私も薄いものだが下に着ていたりする。
防具や魔導鎧として活用される前にも競泳水着のようななにかが作られていた。ジュリオンが以前ゴムを使った布でスクール水着のようなものを作っていた。
それらは時間が経つにつれて布からゴムがぼろぼろと外れてしまい、耐久性に難があったそうだが……そこから発展して水精石を砕いた粉をゴムに混ぜて変なものを作っていた。
見た目はまるで『紺色のスクール水着』、前世を思い出す色合いである。
そして着ると着用者の魔力を吸ってじわじわと水が水着から滲み出す効果があるそうだ。
なんか陸地で濡れるだけの水着とかなんかの妖怪みたいだなと思ったが利点はすごくあるそうだ。水の中を泳ぐと水着から水が出てちょっと速く泳げるそうだ。なお着心地はそこそこ悪い。
海の種族に人気の装備がうまれていたようだ。まぁその点は良いんじゃないと思う反面、微妙なこともある。
私にあったサイズのものが、私を模した像に装着されて、水の滴っている状態で献上された。
…………なんか既にゴムの開発に関わっていることもあって、その存在を知っているユース老先生が欲しがっているそうだ。やめてほしい。ラズリーとリュビリーナもである。キモい。
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