第286話 リュビリーナ の 調査
下衆騎士はシャルルが対処しているが……あとはリュビリーナさんなんだよなぁ。
クラルス先生の調査でも、こちらでやっているワーの調査結果でも……モーモスたちに任せた貴族師弟たちからの噂程度の調査でも――――王宮内でのリュビリーナさんは真っ白だった。
あくまで主犯はリュビリーナ配下とその配下の兄である。
シャルルによると数年牢獄に入れてから処刑の予定だとか……本当に屑な人が多いな、この国は。
「どうかしましたか?シャルル」
「いや、なんでもない。……すまんな」
「……?」
シャルルは、今までに見たこともないほど難しい顔をしている。
何かあったのだろうか?
宰相のために水が欲しいそうなので多めに作っておいた。わざわざ言ってくるってことは仕事のし過ぎか、倒れでもしたのだろうか?いつもよりも多く水を運んでもらおう。
王宮でも私を襲った事件については周知されていて私を含めて私の仲間は武装オーケーとなった。周りのゴミは猛反発したそうだが眉間にシワを寄せたシャルルが許可を出してくれた。そんなに責任に感じているのだろうか?なんだかいつものシャルルとは違う気がする。
心配をかけたエール先生やジュリオンに甘やかされまくって試験再開を待っているが……一つ困ったことがある。何故か丸い玉部分以外地面に埋まっていたストーカー杖が離れてくれない。
身体の後ろ、数ミリ先にピタリといるそいつは……正直言って邪魔である。
揺らすだけで体は数ミリぐらい普通に動く。なのにいつもいて、当たる。うん、ストーカー度が増した。風呂なんかで湯船につかるだけでも手に持っておかないと風呂釜に対して圧をかけてくるし超がつくほどに邪魔である。
怖い思いはしたにはした。が、それよりも思わぬところで前世ファミリーと会えたしなんかもうどうでもいい気がしないでもない。
夢通信はたまにポヨ令嬢がやってくれることが決まった。こちらの世界でのみの夢通信と違って家族の誰かが寝ている時に精霊が合わせてくれていて……時間の流れがこちらの世界とは違うっぽい。
父さんと領地改革の話をすると貴族って凄いなとか呆れられた。初めは路地裏で殴られて生活してましたとか言えない。
「見た目通りなら子供だと思うんだけどなんでそんな仕事してるんだ?そちらの家族はどうしてるんだ?」
「私以外全滅してて」
「えぇ………」
ハーバーボッシュ法が出来ないかと教えてくれたが……正直説明されてもわからない。絵で描いて欲しい。いや技術は描かれて説明されて、それを理解したとしても再現可能かはわからないんだけどね。
リュビリーナさんは調査によると白である。しかし、その派閥当主であるガーレールさんは事情聴取のためか捕まったらしい。素直に出頭しようとして、途中具合が悪くなって倒れたのだとか……なにか陰謀を感じる。
しっかし、リュビリーナさんは毎日なにかしらの珍品を献上してくる……一体何がしたいのだろう。取り巻きがやらかしたことに対する謝罪という名目で色々贈ってくるが明らかに様子がおかしい。
一応父親含めてどこまでが関与しているかわからないため正式な謝罪は出来ないがせめて受け取ってくれとのこと。裁判前提で何かしらの心象を良くしようとしているのだろうか?貴族的な暗黙の了解とかなにかかな?でも周りもどうしてたら良いのか困ってるようだ。私も困る。
調べによると彼女は、とてつもなく評判が良い。私も何故か『聖女』と呼ばれるが彼女もそう呼ばれることがある。
王宮では高級な宝飾品や服や鞄を見せびらかす高飛車な部分もある。財力に自信があり、貴族であっても手に入れられないような品を惜しみなく身につける。貴族の中でも一目置かれた存在である。
しかしワーたちの調査では下町では聖女。孤児院を運営し、子供に優しく、自ら教育を施し、絵本の読み聞かせまで自らする。
父である『商売貴族』は年中有力貴族への贈り物を絶やさないし、貴族社会の中でも人気で人望もある。
一般的な商売の面で見てもオベイロス有数の商会で商売としても生産者から買い叩くような商売もしていない。売り手も買い手も損をしないようなかなり良心的なやり方をしている。王宮に納品される物品も品質が良い。
さらにガーレール商会は孤児院も運営していて慈善活動もしている。――――……こっちの世界の道徳観で考えるとありえな………………やっぱり報告してくれてる人みんな賄賂もらってるんじゃないかな?たくさんの報告を見ても私に向かってきて集団で罵倒してきた印象と違いすぎるからか頭が混乱してきた。
お見合いに参加しているローガンやミキキシカたちの情報も噂レベルかも知れないが有益そうなものもあった。
仕切りたがりと呼ばれるセルティー・ラース・デンレール。彼女はリュビリーナ・レンドリュー・デ・ガーレールさんと故郷が近い。家名であるガーレールとデンレールは大昔に領地を分けた兄弟の名前らしく、その縁から2人は幼馴染として凄く仲が良いらしい。
リュビリーナさんはいつもセルティーさんを振り回すお調子者な面はあるものの弱者への施しは絶やさないし、孤児院にいつも通って孤児たちの世話を率先している。セルティーさんは気苦労が絶えないながらもやれやれと世話をしている。
……どう考えても報告自体が怪しいな。賄賂も貰っているみたいだし、贔屓して書いてる可能性もある。
私には「令嬢を調べる」という役割もあるし、難しい顔をしているシャルルから察するに何もしなかったらあの子も処刑されたっておかしくない。
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というわけで見に来た。
リュビリーナさんが定期的に行っている孤児院への巡回の日。
エール先生によるとエール先生やキエット、ドゥッガのみならずうちの家臣のほとんどにガーレール商会は贈り物をしてきていたようだ。
引き抜きをしようとしているようだがちゃんと報告が来ている。というかガーレール商会からのみ賄賂をもらっているわけではない。
うん、うちの内部での賄賂は駄目だけど外の人から貰えるものは貰うと良い。……受け取らないと「こいつは役に立たないし、こいつが死んで別の人間がその役職につけば賄賂が通用するかもしれない」と判断されれば危険なこともあるそうだし、受け取っておいて相手の動向や何が知りたいのかを報告してくれるだけでありがたい。
賄賂をもらった後はうちの家臣たちはうちの領地改革なんかでこっそり使ったり、部下をねぎらったり、私が好みそうなものを探したり、高価な魔導書を買って勉強したり、なにかの工作費にしているそうな……ある意味健全なんだか不健全なんだかわからない。
「賄賂」は当たり前にある。だからこそ調査が、私の部下がどうにも怪しく感じてしまう。
――――……だからこその調査だ!
杖は頭の部分以外を全部石で埋めれば動かなくなることがわかったし、最近邪魔なので意思があるかはわからないがお仕置きも兼ねて特製ケースにいれた。ジュリオンに全力で止められたが子どもに変身出来る魔導具があったので渡すとついてきてくれることに、私は猫耳がつく魔導具を使い、髪の色も同じく変えた。尻尾は後付である。
獣人の子供は最近どこぞの海に面する領から来ていることもあって珍しくはないそうだ。
ガーレール商会はシャルルのお怒りによって大人しくしているそうだし、その隙をついて警備も配置した。更に今日はリュビリーナさんの孤児院巡回の日である。査察にはこの上なく良い日である。
まだ時間もあるし……広場にいるガーレール商会に出入りしている見習いの子たちに聞いてみよう。
彼らは噴水前の広場で一緒になにかを食べていた。
「リュビリーナ様ってどんな人ですか?」
「リーナ様優しいよ?」
「だよね。いつもお菓子くれる」
「絵本読んでくれるの!」
子供に聞いてみると正直に答えてくれた。嘘をつくときの後ろめたそうな表情は一切なかったし本心であるようだ。
プロパガンダとして外向けにだけ装っているわけじゃなさそうだ。
「何だよお前、このへんじゃ見かけねぇな」
少し大きめの男の子に訝しげに言われた。
子どもであっても完全に無警戒というわけじゃないようだ。
「炊き出しもしてる素敵な人だもんね!だからちょっとお話聞いてみたかったんだ」
「そ、そうか」
ちょろい。褒めると一瞬で照れたのがわかる。
「よかったら話聞かせてよ!私御駄賃に貰った飴があるんだ!」
「何でも聞いて!」
「わー!おいしそー!」
「俺これが良い!」
主の一族を褒められてか少し嬉しそうにしている少年。瓶に詰めた飴玉をあげていくと皆色々教えてくれた。
彼女は時々孤児院に来てご飯作りから寝かしつけまで行う。我儘な貴族や商会からの嫌がらせも真っ向から立ち向かってくれる。
取り巻きの人には止められるが洗濯なんかもしようとする。時々何をするかわからずに怖いこともある。
彼らはこの後、いつ来るかわからない大事なお客さんの馬車から荷物を卸すのに待っておかないといけないとかでここでそのお客さんの馬車を探しがてら待機することを命じられている。
時間があるようで、色々と話を聞いた。…………おかしいな、凄く良い人なんだが?
「でもあれ、『強くなるための教育』がちょっと嫌だ」
「強くなるんですか?」
「そう、体じゃなくて心を強くするってのがあってさ。リーナ様に向かって『お客様だからって何しても良いわけじゃないんだぞ!出ていけ!』って言うんだ」
「えぇ……」
「困るよな。でもこれリーナ様がやるように言ってきてるんだ。『私ほどの貴族に強く言えるなら他の貴族にも言えるでしょう?練習よ練習。ほらもっと強く言ってみなさい。子供が怒ったところで大人はそんなのじゃビビらないわよ』って」
ちょっと変わった訓練である。でも子供のことを考えての訓練っぽい。
ただ、それまでリュビリーナさんをリーナ呼びが許されているほど親しくなった子どもたちはこれを凄く嫌がる。リュビリーナさんに拾ってもらった孤児の子なんて泣いてしまうこともあるそうだ。
なんか変装して話を聞くって少し悪いことをしている気分でもあるが……楽しいな。間違いなくいつもの私なら警戒されて出来ないだろうし、シャルルもこんな気分なのだろうか?
しかし、うーむ……リュビリーナさんは私に対してだけ筆頭婚約者の1人として敵対してたってことなのかな?
水ぐら3巻の書籍化作業に集中するかもなんで更新頻度減るかもです。
Web版とは別の展開考えたりするのも結構楽しい(*´ω`*)コメントいつもありがとうございます!!