第170話 敵襲……。
チャーハンは好評だったがそれはそれとして部屋を抜け出していた事を注意された。
それからジュリオンは私を監視しているように思う。
「なにか?」
「いえ、ベスさんを含む怪我人を連れてきていただけますか?ボルッソの子どもたちで余力のある子も数人もお願いします」
「はい、しかしお休みになったほうがよろしいのでは?」
「休みながら魔法を使うことにします」
ボルッソの子供たちはよく働いている。働かないと家族の誰かが傷つくかもしれない状況となっているのだから仕方がないのかもしれない。
もう全員寝ているのかと思ったが施設を回って割れた階段や壁のひび割れなどの修繕作業を数人で行っていた。
魔法を使うよりもどちらかというと移動が疲れたようである。……数の力ってすごいな。
一階で排水しやすい部屋を選んで人が入れるサイズの大きな壺を作ってもらう。学校のプールのようなもののほうが一気に人を治せるんじゃないかとも思うのだが傷の再生中は痛みもするし、くすぐったいやちょっとよくわからない状態となる。漏らしたりもするし傷口から血液などの体液も出る。
感染症予防も考えて一人一壺だ。大きさと頑丈さを重視して作ってもらう。寝転ばせた方が良い気もするが人は浮いたり沈んだりする。たしか筋肉量が多いボディビルダーは水に沈みやすい……はず。トマトも糖度が高いと沈むし、昔のお米の作り方で米の選別に塩水や泥でより沈みやすい実を植えることで厳選して収穫量を増やした。もしも患者をベッドのように水平な状態で水に沈めたとして寝て溺れる可能性もある。どうにかして改善できないか……?なにか思考がおかしい気がする。疲れているのかもしれない。
「うーん、うーん……」
「フレーミス様、人が集まりました……フレーミス様?」
「じゃあ脱いで壺に入って行ってください」
「聞いたな?さっさと脱げ!貴様ら!!」
「がぁう!」
「しかしご領主様の前で」
「だすだす」
「治療だ!さっさとしろ!!」
「はいぃぃ!!?」
だから壺に入ってもらってビクビクと反応するようなら体をロープで固定。汚物も出るので高さを調整する。……溺れて死んでしまっては元も子もない。ゲラゲラ笑う様子も見られたくないなどもあるだろうし口元の空いた蓋もしよう。治癒中の体の反応もまだ臨床結果も少ないしわかりきってない。もしかしたら溺れても何も出来ずにそのまま沈むかもしれない。人が多くいても気付かないと言う場合もあるかもしれないし食べさせたり世話をする人も常駐してもらう。そう言えばトルニーは呼吸器のあたりが良くない、水で治そうにも肺は水が入っちゃいけない。喉側だとすれば飲ませたほうが良いのかな?この治療法も国の内外から危険視されるかもしれない。既得権益的には使い手の少ない光魔法の領分を犯すが怪我人や病人の多さから治療できる人間は重宝されると……良いなぁ。治療は1に光魔法、2に魔法薬、3に魔法で作った水のはずである。光魔法は使い手が少ないが魔法に含まれる謎の光が体に良く副作用もない。魔法薬は私も体験したが気絶しそうなほどに酷い味と匂いで強い副作用もあるからそうそう使えない。水魔法の水は光魔法や魔法薬よりも効果は段違いに弱いが健康に良い程度の効果がある。光魔法は私には効果が薄かったし、水魔法の方が治癒効果がある可能性も――――
「……レーミス様、フレーミス様。準備が整いましたよ?」
「あ、はい。少し考え事をしていました。……こほん<水よ。彼らを癒せ!>」
水の中の魔力を凝縮するように超魔力水を作って注いでいく。ちょっと気合と魔力を込めていつも作る魔力水よりも一段の上の超魔力水は……やっぱり光る。
この水の中の謎の光る何かが体には良いもののはずだ。
「ひゃっ」
「冷た」
「……だす」
「ピリピリしますね」
「料理も作ってもらってるのでガンガン食べてください。出すものも出しちゃって大丈夫です」
ん、あれ?ジュリオンのように瀕死状態ではないからトイレも自分で行けるか?いや、しかし、超魔力水のよる治癒中に途中でやめればそこで治癒が終わってしまうんじゃないか?
………要実験だな。比較的怪我の程度が軽い人に協力してもらうことにしよう。
私は突っ立ったまま魔法を使い続ければ良い。超魔力水を作って注ぎ続ける。汚物が出たと感知すればそれを流す。……それだけだ。魔法を使い続けるというのはクーリディアスとの戦いで慣れた。
精霊と何かしらの縁を得ると体の構造が変わることがある。私のアホ毛もそうだが疲れ方も変わったのかもしれないな。……不思議とこの魔法なら使い続けられる。
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「…………」
「馬鹿が溺れたぞ!!?」
「何をどうしたらああなるんだ?!」
「溺れてるぞ!引き離せ!!?」
「フレーミス様、ちょっと一度魔法をやめましょうか?」
…………あれ?
半日は経っていただろうか?仕事や運転をして気がつけば時間が経っていたときのように、集中しているともう日が登っていた。
なんかいつのまにかジュリオンに抱っこされていた。……それはそれとしてなにやら大惨事となっている。
壺に注ぐために空中で作っていた超魔力水。その大元の大きめの水球に頭を突っ込んだトルニーがなぜか空中で溺れていた。
「何考えてるんだこいつ?!」
「あと外が森になってます!!!?」
「領主様!こいついきなり入ってきて自分から溺れて?!」
「敵襲か?!」
「兵を集めろ!今すぐだっ!!」
意味も状況も分からないが、とにかくすぐに杖を振ってトルニーの口から水を取り出す。
超魔力水をできるだけ彼の体から排出する。私の水は混じり気のない水ほど操りやすい。体液と混じって取りにくい分以外は可能な限り取り除いた。しかし、なんでわざわざ溺れに行ったのだろうか?
光魔法と違って水魔法の超魔力水には治りやすい謎のなにかの入っている「水」だ。
当然、肺に入れば溺れる。
「なんでこんなことしたんですかトルニーさん」
「ごッフ!!……エフっ!…………自分のからっだが、ごほっ……治るかもしれないのに、もうこれしかないと思って」
全部は抜けなかったのか苦しそうであるが肺への処置なんてわからない。しかし段々と治癒効果は出ているのだと思う。
周りではなぜか兵士が慌ただしく動いているが……とりあえずトルニーからゆっくり話を聞いてみると壺漬けにされたベスや他の兵の部位欠損、獣の耳が再生してるのを見て「自分も」と思ったそうだ。
しかしレルケフのこともあって容疑も晴れていない自分にはこんな大魔法使ってもらえる機会は無いと考えた。トルニーは自身の病気を治す為に10年以上国々を回って治療法を探していた。だからもう機会が自分に訪れないかもしれないと焦り、無茶を覚悟で超魔力水に飛び込んだらしい。
レルケフが裏切ったということは父であるドゥッガも裏切った可能性もあると考えたと……なるほど。
「しかし、肺に水は毒ですよ?大丈夫ですか?」
「えフっ!……ちょっと今はよくわかりません」
「でしょうね、それはそれとして敵襲とはどういうことでしょうか?誰か分かる人はいますか?」
「現在調査中です。砦のすぐ近くの木が一気に大きくなったそうです。壁が一部壊されているようです」
草木や樹木の魔法はレアと聞くが私を狙った襲撃だろうか?しかしここには結構な数の兵士が居るしきっと大丈夫だろう――――……本当にそうだろうか?もっと大きく考えるんだ。
ここの近くには他に建物はない。地形や位置から考えると、ここを襲撃できるのは村の人間、内部犯にクーリディアスからの刺客――――そして外から来た商人や貴族たちだ。
しかもここは陸の孤島のようにすぐに援軍が来られない場所である。誘われた?もしも橋が壊れたというのも私を誘うためだというのなら念入りに準備された襲撃ということになる。
となれば相手はこの砦の人間全てを倒すことも計算した上で来ているはず。この砦には近くの村から来ている非戦闘員の子供もいる。
だとしたら戦力の計算を狂わせる必要がある。
「――――私が前に出ます。砦の人間を護りましょう。……ジュリオン、私はここの人間の顔を知りません。伴をお願いします。敵は排除します!<水よ!>」
「はっ!フレーミス様の周りを固めろ!!絶対に傷つけさせるなっ!!」
計算を狂わせるなら脇をジュリオンたちで固めて私が出た方がいい。
威圧のために水龍を浮かせておく。……周りへの被害を気にしなくてもいい砦なら思う存分に力を振るえるだろうし敵の考えてる盤面ごとひっくり返せる!
水龍を見て一瞬でも警戒するようならそれが隙になるかもしれない。
杖を持って砦を移動する。ここは排水のしやすい一階外側に近い部屋である。
曲がり角ごとに亜人の兵が先を行って確認してくれる。砦の上から状況を確認することにしよう。もう日は昇って明るいから闇魔法のように姿を隠しやすい状況でもないし亜人の皆さんは鼻が利くから索敵は有利のはずだ。森と山に囲まれた砦であるし周囲に敵が潜んでいる可能性はあるが。
黒い狐人のワーも呼んだ。諜報に長けているということは近辺の警戒すべき二つ名持ちのような考えられる敵の情報、それにこの周辺の事情にも詳しいはずだ。
砦の上、空も鳥人トプホーが率いる部隊がいて制空権は確保しているが敵の姿は見つかっていない。
屋上から外を見てみると、砦の横にある壁の一部が確かに崩れていた。
異常に育った木の根が見て取れるし、砦の外の木々が一方向から大きくなっていて………………ん?あれ?
私が作業してた場所が近い。
排水した方向は、向こうだよね。ある程度水は操作していたから方向はわかる。
「フリム様…………あれってもしかしてですが魔力水が原因では?」
「わーも見てきた!光る水流してるとこの草、すごい育ってた!すっごいおっきかった!!」
エール先生が空から降りてきて困った顔をしていた。その横でワーはこんなにおっきいのがあったと興奮気味に両手を広げて教えてくれた……。
超魔力水は生物の治癒だけではなく、木々の急成長にも使えるようだった。
少し離れた兵が「敵襲だ!」「探せ探せ」「警戒を怠るな!!」なんてと走り回ってるのが聞こえる。
でも犯人私だし……周りの視線が痛い…………考えすぎだった私は恥ずかしくて耳まで熱くなっているのを感じた。
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