第117話 シャルルにもらったご褒美?
シャルルの自室に呼ばれた私はひとまずほっぺをひっぱられそうになって……引っ込められた。後ろの杖を気にしたようだ。
「あいたっ?!」
ほっぺを引っ張られなかったことにフフンといい気になったのもつかの間とおでこをつつかれた。
むぅと思ったがすぐに抱き上げられた。
「うむ、成長しているようだな」
………それは重くなったということだろうか?レディーの扱いがなっていないんじゃないかな?
ちょっと、いや、かなり微妙な気もしたが人払いがされて報告をする。
今回の一件は他国から雇われた人間によって起こされたもので狙いは私ではなくこの国、シャルルであったことを素直に伝える。
私が沈めた風の魔法使いは主犯であるオルゴの腹心に当たる人間だったようで細かく知ることが出来た。
シャルルを狙おうとして騎士団に賄賂を渡したり、秘密の通路を使おうとしたのだが失敗、以前の襲撃からシャルルも王宮の改修工事をし、更に騎士団をギレーネの暴走も含めて2度も引き締めて王宮や大貴族への防犯対策はバッチリであった。
その結果、人員の整理で混乱している末端部、学園が少し手が空いた隙に神殿の人間が手引をして私が狙われたそうだ。
私にもヒョーカとエール先生がつけられていたし学園の警備システムもその辺の貴族を超えている。問題はない……はずだった。
今回はライアームではなく他国からの侵略ということで収まりそうだったが………どうしても言いたいこともある。
「言って良いことかわからないんですけど……」
「なんだ?」
「その、ライアーム前王兄殿下と和解は出来ないんですか?今回、私は大丈夫でしたが死んでいてもおかしくはなかったですし、私の部下も危なかったです」
「伯父上か……、俺もどうにかしたいんだがなぁ………」
私が知らなかった王家の事情を話してくれた。
ライアームの祖母は西の隣国アームリアヴィスの高貴な血を引いている。
ライアームは動向を見るに隣国の王家に頼る気はないそうだ。理由は自分が将来手に入るかも知れない領地が減るからである。しかし、このまま追い詰めればライアーム派閥は隣国の力を借りて攻め込んでくるか、もしくは隣国に逃げ込む可能性がある。
隣国に逃げられてしまった場合、数代後にオベイロス王家の血で精霊が加護を与えてしまうかも知れない。そうなればオベイロス王家の面目はなくなるし国難となる。
更に戦力はシャルル陣営も改善されてきたとは言え、ライアーム派の方が優勢らしい。人によって分析は異なるそうだし一概には言えないが軽く見積もってはいけない相手だ。
ライアームは全力での戦争になれば王都を無傷では取れないからシャルルや重鎮、そして私のような重要人物を暗殺するような動きをしているようだ。……水の大家ルカリム家が向こうについている以上、シャルルの陣営は水の魔法使いが不足しているのもある。
「しかも伯父上のもとでは岩塩がとれる。塩がなければ人は生きていけん、他にも塩の鉱脈はあるが伯父上のいる領地のほうが断然良質なものがとれる。……俺はルーラから加護と王位を授かったがそれでも伯父上はこの国で絶対に無視できない勢力であるのも確かなのだ」
「なるほど」
ままならないものだ……。
しかし、一度決まった情勢はシャルルに有利となっている。時間の経過でライアーム派は人数は減るし、このまま行けば何も戦争とまでは行かずにライアーム派閥が何も出来ないまでに弱体化してくれる可能性もある。
何なら未来がないと見たライアーム派閥の貴族が寝返ってくるのにライアームの首か身柄を拘束して連れて来る可能性もある。
「そこで、今回フリムに役職と領地をやることにした。ありがたく受け取るが良い」
「はい……はい?」
リヴァイアスの領地は海に面していて海塩が手に入る。塩が手に入るのならこちらが攻めにくい理由の一つも減る。それとなんか役職だ。役職があれば国でこういう役職についているという「権威」がつく。伯爵だけでも充分だと思うが分家の伯爵で急造のものだし刺客にとって手を出すのをためらう程度のものがあれば少しは抑止できるかもという判断らしい。
「王家の相談役というのはどうだろうか?」
「学生と伯爵と事業だけで手が一杯なんですけど……」
「ハハッ」
「やれってことじゃないですかー!もー!!」
いつもやられてるやり返しにほっぺを引っ張ってみた。ヒゲがなくてすべすべである。
家族以外の男性の頬を触ったことがなかったのだが不思議と照れることなく触れることが出来た。弟の頬ぐらいすべすべである。
「むぁむぁ、理由もあるからな、許せ」
そう言われてほっぺを引っ張る手を離してあげる。
「ほら外を見てみろ。ここ最近雨が多いだろう?」
「多いですね………ん?」
「王宮魔導師によるとどこぞの精霊が関与しているらしい」
ときどき晴れ間はあるがそれでもこの時期に珍しいらしい長雨。
どこぞの精霊様がお怒りかもしれんとかそういう噂は聞いていたが……そう言えばこの杖に認められてから雨が増えた気がする。
………
………………
………………………
「わかるな?」
「……はい」
雨が長く続けばインフラ工事すら整っていないこの世界では道はぬかるんで交通はストップする。畑への被害にがけ崩れ、地盤沈下なども懸念される。
すぐに止めないといけないが杖を持って止まるように念じても命じても効果はない。
「そんなわけで式典が終わればすぐに出発だ」
「……式典やだなー」
「奇遇だな、俺も面倒に思っている」
そんなわけで王宮についてすぐだが私がついたことで式典の準備が急ピッチで行われ、領地の権利は私にあると王様が表明。相談役の役職をありがたーく受け取って……すぐに東のリヴァイアスの地に向かうことになった。
ミリー達に王宮土産でももらって帰りたかったが仕方ない。モーモスに持って帰ってもらう、ロライ料理長の料理なら間違いないはずだ。
杖に認められてから屋敷にも一応色々探しに行っては見たものの何もなかった。もしかしたらなにかギミックがあって見逃しているだけかも知れないが見つけられなかったのだから仕方がない。
「お気をつけてフリム様……!」
王都から魔導具の馬車で文字通り風のように早くその領地の手前までついた。
その空飛ぶ馬車はぬかるんだ轍どころか崖も山も関係ないとか……とんでもない移動手段である。空を飛ぶことがこれほど怖いものだったとは……。
近衛兵とエール先生。中年のダンディーなおじ様……そしてついてきたシャルル。
「あの、それでこの方は?」
「ん?あぁ、爺だ。宰相のジャーリグ・ブルーネス・フラトクア・レージリア……そう言えばフリムの水が体にあったおかげか随分と若返ったよな」
「お陰で目もかすみませんし腰の痛みから解放されました。ほんとうにありがとうございます」
豪華そうな服で、そこしか特徴が一致しない。
元がものすごいおじいちゃんだったのに今では30代後半ぐらいに見える。いや年齢は400を超えていつから生きているかはわからないとか言われていたはずだがもはや別人である。
「じゃあ行こうか」
「はい」
「……………ん?」
ここからは私が魔導具を借りるなりしてリヴァイアスの領都に向かうのではないのか?
そもそも王様が王都を出て別の領地まで来て良いのかは疑問だったが……。
確か、リヴァイアスの人間がいなくなってから人間は精霊によって領地から追い出されていたはずだ。ということは入れるのは私と動物だけのはずと思っていたのだが……なんかシャルルと超絶若返った宰相も当たり前みたいに来ようとしてるんだが?
「どうかしたか?」
「いや、領地ってこの三人で行くんですか?」
「そうだな。国難ではあるし仕方ない。出せ」
「はい」
……パードゥン?なんで玉体と称されるような国で一番偉い王様が当然のようについてきて、更にNo.2とも言える宰相閣下が御者をしているのだろうか?
そして近衛兵もついてこない。正気か?
「えぇ……」
「まぁ精霊の揉め事は王家が出るものでもあるからな……俺も爺も王宮にいないのは多少不安ではあるがクラルスも叔母上もいる。問題はなかろう」
――――……そうして私はリヴァイアスの地に足を踏み入れることとなった。
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