第95話 事業<超拡大>とフリムの過去の因縁。
凹んでるエンカテイナー侯爵兼任新学園長フィレーネ、本来ならパーティやらお披露目をしないといけないはずなのに……彼女は酷く飲んだくれていた。
仕方なくラディアーノに命令する形で「学園長の仕事の引き継ぎ」を任せて帰った。
隷属の魔法のかかったラディアーノの行動は私の近くと学園の中では問題なくできる。しかし命令の形のほうが対面上良い。
3日ほどラディアーノは帰ってこなかったが……引き継ぎのみならず私が考えていた「新事業の営業許可証」や「そのために必要な賃貸借契約」に謎の優先権?などの草案を書類に纏めて持って来てくれた。
「有能!!」
「ありがとうございます」
こちらからの支払う金額は思ったよりも大きいが、見たことない形式だが収益試算も添えられていて……儲けは大きくなりそうだ。
ギレーネの行動の結果、前エンカテイナー候爵を筆頭に私には大量の慰謝料が支払われた。それも掲示されているので「流石に慰謝料が多すぎるんじゃないか?」という意見もある。そこで私が「学園のために使う」という行動に出れば悪い見られ方は緩和されるはずだ。
ギレーネの暴走はエンカテイナーの失点である。
しかしそれでも姉妹であるフィレーネが祭り上げられ、強制的に新学園長が誕生してしまった。……それだけ「エンカテイナー」の求心力は根強く残っていることがわかる。
新たな事業は私の中では成功すると考えてやろうとしてはいるものの……商売というのは始めるまでどうなるかわからない。
流石に今回は大きな建物が必要だしそんな直ぐにできるものではない。なるようにしかならないのだからゆっくりやればいいさ。
「お、もう出来てるぞ?」
「湯のところどうする?インフーがなんかしてたぞ」
「外ももうちょっと外観よくしようぜー」
「終わったら酒だぞー」
「「「うぇーい!」」」
「伯爵だ!ユース老に伝えろ!」
早いよ!!!まだ建物の間取り決めたりする前にほとんど全部作っちゃったよ!!!??
なんだようぇーいって、魔法使いがいっぱいいるからこれぐらい普通なのか?
しかも――――
「ちゃんと像も作りましたよ、ユース老のものには負けますが美しく出来たと思います……ふふっ」
「クライグくん!!!??」
像まで作られた?!
学園内の建物や土地の権利は学園が持っている。だから建物とかは借りる形にはなるんだけど……なんか賢者や研究者、魔法使いをつかって勢いのままに作ったらしい。トップであるエンカテイナー新候爵が死んだ魚の眼で主導したのも原因だろう。
そんなわけで出来たお風呂屋、氷室、洗濯屋………。
同時にではなく、一つずつ試しにやってみたい……。そんな話はインフー先生とした。そしてその時後ろにはラディアーノもいた。
どれか一つの仕事だってうまく行かない可能性は十分にある。こういうのはやるにしてもやらないにしても順を追って一個ずつやるもののはず……。まさか同時に出来るように巨大な建物を作るなんて……「出来た!」じゃないよ!仕事が早すぎるよ!!?
しかも私が水を出せなくても良い前提で考えられている。事業の撤退してもいいようにと調整されている。もしも事業が成り立たなくてもこの施設は学園が運営することで「私が学園に権利を貸して」使われることになるのだとか。
なんで学園から建物を借りる私が更に学園に貸すことになるんだ?
最初に支払う金額は大きかったのは3軒分同時だからか……私からのマイナスが少なくなるようにしてくれている。後の優先権なんかもこちらが有利にしてくれている。
「ラディアーノ、優秀過ぎて馬鹿だって言われたことあるでしょう?」
「ありますね」
ラディアーノの交渉がすごかったのか、それとも新学園長が妹の謝罪のためにと私に気を使ったのか………。
それにしたってこれは早すぎる。………いや、同時にやることでとりあえず私も支払う金額は大きくなる。ほとぼりが冷める前に学園にアピールすることを考えると早ければ早いほうが良い……かもしれない。
この男……そこまで考えているのだろうか?
「ふぅ、学園側の配慮はわかりましたが生徒にもう少し還元したいです。とは言え継続的なキャッシュフローは実際運営して様子を見ないとわかりませんよ」
「きゃっしゅふろぉとは?」
「あ、何でもないです」
建物も細部までは作られていない。――――……今なら改造可能だ、デザインの問題とか言って人目のつく場所からフリムちゃん像は撤去してやる……………できれば土の下がベストだ。
タラリネを連れてこよう、オルミュロイとマーキアーも。
学園から出るときにはオルミュロイが馬車の騎獣を操り、マーキアーも馬車に乗って迎えに来る。しかし学園内にいてくれたほうが私の安全度は上がる。
私の過酸化水素水は皮膚の消毒や漂白剤としての効力がある。薬品としては比較的安全な部類だとは思うけど、それでも目に入ったりすると危ない。
彼らを「薬品の扱いに長けた専門家」として学園の孤児を指導してもらえれば仕事を与えられるだろう。
ローガンも連れてきたいところだけど他家の貴族からプレゼントで贈られてくる奴隷の監視とチェックをしてもらわないといけない。
「モルガ達も使ってやってください」
「それは、大丈夫なんですか?」
「フリム……様が一番上で殺られちゃいけねぇんだ。安全のためにも何人か押し込めばいざって時盾になるかも知れねぇからな。何なら使い潰したっていい―――俺の息子を含めてな」
「ミュードのことですか?」
「いや、レルケフだ。ボコボコにして屈服させてもいい。何なら隷属の首輪もつけよう」
「レルケフ?どんな人でしたっけ?親分さんの息子さんは多いので」
「入れ」
「――――――」
「よろしくお願いしやす」
私が私であると意識がはっきりする前に――――――――フリムをボコボコにした男がそこにいた。
うっすらとだが覚えている。
水を親分さんに出して、気の良くなった親分さんにもらった小遣いをカツアゲされそうになって……フリムがモゴモゴしているうちにボコボコにされた。
それ以前の記憶も一応おぼろげにあるが、あの路地裏で全身ボロボロにされて……今の私がより強く前に出たように思う。
たった少しの小金、それを奪おうと幼女をボコボコにした……最悪最低の人間だ。
「あ?どうかしたか?」
「ちゃんと私を立てることが出来るんですか?」
「………もちろんできらぁ!うまくいきゃ俺は男爵、いや、子爵にだってなれっからよ!」
親分さんに結構似ているが、このレルケフに親分さんのような知性はあるのか?
もう20は過ぎているだろうか?筋肉が盛り上がっていて一目で力強いとわかる体つきをしている。
私は……努力できて、誠実な人間であろうとする人は良いと思っている。
モーモスはその典型だ。その根底に「私に見捨てられれば実家に殺されるかも知れない」という恐怖はあるかも知れないが彼は彼なりに努力し、誠実な人間になろうとしている。
彼は私の靴に汚れがつけば膝をついて私の靴を自分の膝に当てて拭う。態度も媚びたものではなくそれが当然であると胸を張っている。
私としてはそこまでは求めていない。が、それでも少年の彼なりの最高の仕え方なのだろう。私は彼にも直接礼を言うし行き過ぎてる部分は注意をしている。彼に必要なものがあれば、彼の従者につけたミュードを通して不自由はさせないようにしている。
褒められると嬉しそうにするし、私に関わりのない平民に対してはまだほんのり傲慢な部分はまだ見えるがそれでも成長しようとしている。
「では私に頭を垂れなさい」
「……………はっ!」
レルケフを私の目の前で膝をつかせた。
彼の後ろについていた2人、親分さんの護衛であるモルガと木槌をいつも持つケディンも慣れない所作だが膝をついて頭を下げた。
「私はドゥッガの決断に口出しするつもりはありません。しかし貴方の態度や忠誠は私を含めて誰かに見られていることを忘れないでください。これから貴方が貴族として栄光ある道を歩けるかは知りませんがそれは今後の貴方の態度次第です。命を惜しまず、家に誠実に、誇りを胸に――――私に仕えなさい」
「「はいっ!!」」
「――――……はい」
わざと威圧するように命じてみた。
勢いのある返事をしたモルガとケディン、静かに返事をしたレルケフ……肯定はしたがどこまでが本心なのか。ここで反骨精神が見えればなにか対処しようとも思ったが…………。
うちの3大派閥であり、筆頭家臣であるドゥッガの息子だけあって隷属なんてしてしまえばドゥッガの忠誠を疑っていると回りに言っているようなものだ。
以前は立場が違っていたし私も言及しない。……今もちゃんと立場を理解しているのかわざと頭を下げさせたが素直だ。
彼も彼なりにドゥッガの男爵位を狙うのなら私を傷つけることは絶対にしないはず、むしろ全力で私を守るはずだが……。
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