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ヘンゼルとグレーテルと俺

作者: 木こる
掲載日:2024/01/07

目が覚めると、そこは童話の世界だった。


何がどう、童話なのかと言われると上手く説明ができない。

とにかくファンシーな雰囲気……メルヘンチックな環境だったのだ。


目の前には両親に捨てられた兄妹がいる。


ヘンゼルとグレーテル。

直感がそう告げた。


まずはお互いに自己紹介でも……と思ったが、

ヘンゼルお兄ちゃんは妹を庇うような仕草を取り、

この俺を警戒しているのが丸わかりだった。


まあ当然の対応だろう。

こちらは40歳の無職男性。

歯は毎日磨いているが、風呂は週に一回。

ヒゲも鼻毛も、月に一回処理する程度。


子供たちから見れば不審者そのものだ。



俺は兄妹から距離を置き、見守った。


しばらくすると兄妹は動き出し、パンくずを落としながら森を進んだ。


これはありがたい。

俺は腹が減っていたのだ。


ヘンゼルお兄ちゃんはこちらを警戒しながらも、

この俺に食料を提供してくれたのだ。


このツンデレさんめ。



そして見えてきた。

この童話の主たる舞台、お菓子の家が。


俺は童話には詳しくないが、

たしかこの家に兄妹が閉じ込められて、

なんやかんやあってハッピーエンドという流れだったと思う。


それはさておき、俺は目の前の糖分にかじりついた。

兄妹がこちらを訝しげに見つめているのがわかる。


そう、毒味だ。


俺は決して食欲に負けたわけではない。

幼い兄妹のために、自ら進んで毒味役を買って出たのだ。


うん、甘い。

お菓子なのだから、当然甘い。


小麦粉と砂糖のハーモニー。

甘いに決まっている。


このドーナッツみたいな何かとか、すごくおいしい。

名前とか知らない。自分で料理とかしないし。



食の安全性を確認した兄妹はお菓子の家にかぶりつき、

そして家の中へと入っていった。


「ああ、入っちゃだめだよ」と言いたかったが、

何年も人と話してなかったせいで上手く言葉が出てこなかった。



案の定、彼らは悪い魔女に捕まり、閉じ込められた。


俺には見ていることしかできなかった。

家の中では兄妹が強制労働を強いられているようだ。


童話の中でもブラック労働。

これだから俺は働きたくないんだ。


悔しさを胸に、俺は毎日お菓子の家へと足を運んだ。

「頑張れ、頑張れ」と、兄妹を応援しながら。




そして数日後、妹のグレーテルが機転を利かせて魔女を倒した。

きっと俺の祈りが届いたのだろう。


お菓子の家から出てきた兄妹に「おかえり」と言ってみたが、

彼らはこちらを警戒するばかりで、何も応えはしなかった。


まあ、それも仕方ない。


俺は兄妹に背を向け、クールに手を振って童話世界から去った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おじさん全然役に立ってなくて笑いました。面白かったです。
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