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夏の紫陽花  作者: 紅葉
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プロローグ

 死んでしまいたい。

 

 そう考えたことはあるだろうか。

 多かれ少なかれ、誰しも一度は考えたことがあるんじゃないだろうか。

 人生に価値が見出せなくなった。失恋した。仕事で失敗した。理由も、色々あるだろう。

 なら、自殺の方法を考えたことは……?

 これも、いくらかあるだろう。

 首吊り、練炭、飛び降り、入水。

 方法もいくらでもある。

 じゃあ、それを実行に移したことは……?

 これは分からない。だって、実行したら死んじゃうんだもんな。

 失敗した人だっているけど。

 僕は、三年前に首吊り自殺を試みた。佐々木 ゆうという一人の人生に、たった十四年で幕を引こうと思ってしまった。

 でも、失敗した。

 最初は、どうしようもない現状と、これからの未来に希望が全然ないから死にたかった。

 それから、僕が居なくなれば少なからず、幸せになる人が居ると思っていた。

 喜んでくれる人も、居ると。

 いざ縄を首に巻いて覚悟を決めたら、途端に悲しくなってしまった。

 僕の人生って何だったんだろうと。何も成すことが出来ず、誰かに求められることも無く。

 ただただ、涙が止まらなくて。胸が苦しくて、このまま死ねたら、と。

 矛盾した感情のまま、椅子を蹴った。

 

 だけど、こうして話している以上、結論としては失敗したわけだ。

 何がどうなったのかは覚えていないけど、気が付いたら僕は病院のベッドの上だった。

 母さんが泣いていたのを覚えている。

「もうこんなことしないで、お願いだから。」

 そんなことを言っていた。

 死にたいくらい苦しくても。全てがどうでも良くなったとしても。何も出来ない僕は、死ぬことすら満足に出来なかったんだ。

 もうどうしたら良いのか分からなくなって、泣き続ける母さんを見つめるしかなかった。


 それ以降、僕は変なものが見えるようになった。

 別に幽霊とかじゃない。

 他人の感情だ。

 ほんとにうっすらと、明るいとか暗いとかで。どんな気分なのかがちょっとわかる、くらいだけど。

 その能力で何かが出来たこともないし、ただ疲れるだけ。

 最初の頃は常に見えていた。鬱陶しくて仕方がない。暗いままだったり、急に明るくなったり暗くなったり、騒がしくて。視界が明滅するようで落ち着かなかった。

 元々、他人をさけていたから、より一層関わろうと思えなくなってしまった。まぁでも、一番の理由は、僕の受け答え一つで相手の周りが暗くなるのを見たせいだ。「お前のせいだ。」って、はっきり言われる様なものだから。もし僕がもっと社交的な人間だったら、この能力を使って上手いこと出来たんだろうけど。残念なことにこの能力は、人間だけに効果があるようだった。家に居てくださる猫のトラの気持ちは分からない。なんとまぁ、使えない能力だ。だから安心して愛でられるけど。

 人との関りを避けていれば、自然と本ばかり読むようになった。読書をしていれば、ほとんどの人は声を掛けて来ないから。

 高校は少し遠くの学校を受験した。それまでの関係が及ばない様に、少しでも知り合いがいない所へと。なるべく目立たない様に。名前すら出てこない、ライトノベルのモブの様に。三年間が過ぎてしまえば、それで良かった。

 僕がそう努力していても、関わって来る奴は居るわけで。一年生の時に一人だけ、友達と呼べる人が出来てしまった。柳沢やぎさわ 勇人はやと。こいつは、根暗な僕の気持ちも考えずに話し掛けてきた。毎日の様に。正直鬱陶しかったし、適当に返事をしていたら勝手に「友達」扱いをしてきた。諦めてそいつの話を聞いているだけだったけど。

 入学してすぐにバイトを始めたから、それなりに忙しくて。柳沢と遊びに行ったりもしなかった。勉強とバイト、読書と猫にかまけている間に、僕は二年生になってしまった。


 

「優しいんですね、佐々木君は。」

 そう、彼女は言った。僕は誰かに優しくなんて出来ない。自分の事で精一杯だから。

「それが君のいい所だよ、佐々木君。」

 いい所なんて、僕には無い。何も持っていない、希望も無い。

「頼れるの、アンタくらいしか居ないからさ。」

 誰かに頼られるような人間じゃ、無い。自分の事すら、まともにできないのに。

「私は、君の事が好きだよ。」

 好かれて良い筈がない。誰かを好きになる事なんて、出来ないのだから。

 

 そう、思っていた。

 

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