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2.相談


「…で?相変わらず例の第二王子サマに付き纏われてるの?」

「そうなの…もうしつこいったらないのよぅ…。」

「ご愁傷さま〜!」


まるっきり他人事とばかりにケラケラ笑う目の前の美女に、ファニスは恨めしげな視線を向ける。

人が本気で困っているというのに、何を面白がっているのか。

その刺さるような視線もものともせず、目の前の美女もといリリエスは楽しそうに笑う。


「まぁ仕方ないんじゃない?あたしたち、人間から見たらやたら見た目がいいっていうし。」

「見た目で惚れてくるような男に碌なやついないじゃない。」

「あっははは!言えてる!」


腹を抱えて笑う彼女の足がうねうねと海中を泳ぐ。

リリエスはいわゆるスキュラと呼ばれる"魔物"であり、人間からは船を襲うとして畏怖される存在だった。

とは言え、それは人間の側から見た話である。

実際には彼女は海の住人たちから「海の賢者」と呼ばれる魔女の1人であり、治癒や薬学、まじないに通じた「白き魔女」と呼ばれる存在だ。

海の者たちは怪我や病気になれば彼女の魔法を頼り、珊瑚や海藻に元気がなくなれば薬の調合を頼み、子が健やかに育つようにとまじないを願いに来る。

海の住人たちの頼れる存在、それがリリエスなのである。

余談ではあるが、人間で例えるならば20代前半にしか見えない容姿とは裏腹に、実年齢は1000をゆうに超えるらしい。

本人曰く「1000まではキリがいいから覚えてたんだけど、その後はもう数えるの面倒になっちゃって覚えてないのよね。暦も変わっちゃったしさ〜。」らしい。


「まぁでも人魚が人間に惚れられるなんて懐かしい話よね。前にあったのは700年ぐらい前だったかしら?」

「…それ、多分私のおばあちゃんだと思うけど…。」

「あーそうそう!ティフィルも迷惑そうに逃げ回ってたわ〜。」


今のあんたと同じね、と言ってリリエスはまた笑った。

だから、笑い事ではないのだ。

そう言いたいが、この1000年以上を生きた魔女にとってみれば祖母の話も自分の話も、幼子が必死に「イヤイヤ」をしているようにしか見えないのだろう。

祖母に至っては最終的に絆されて結婚するに至り、ファニスの母である娘を授かっているのだから、尚のこと面白いらしかった。

こちらばかりが話のネタにされるのも居心地が悪く、ファニスはお返しとばかりにリリエスに話題を振ることにした。


「そういうリリエスはどうなの?それだけ美人なんだから、人間に求婚されたことぐらいあるんじゃないの?」

「あら、あたしはそういうのないわよ。」

「本当に?」

「本当に。」

「…気づいてないだけとか。」

「んー、まぁ陸の上で勝手に話されてたらそりゃわからないけど?」

「逆にリリエスが人間に恋したこととか。」

「ないわねぇ。」


即答で否定されてしまったうえ、面白そうにケラケラと笑われる。

この様子だと本当に何もないのだろう。

何の話も引き出すことができず、ファニスは撃沈する。

そんなファニスの頭をよしよしと撫でながら、リリエスが「拗ねない拗ねない。」と笑っている。

やはり扱いがまるっきり幼子へのそれだ。

この余裕がまた何とも悔しい。


「…まぁ、あんたの気持ちもわかるけどね。私らと違って人間の寿命なんて、たかだか数十年だもの。」

「…うん。」

「ティフィルも覚悟の上で一緒になったけど、やっぱり旦那を亡くしたときは相当塞ぎ込んでたし。」

「私は、置いていかれるのも置いていくのも嫌。」

「あらま。それはまた難しい話。」


暗い気持ちになりそうな話題になることを察したリリエスが、わざと茶化すように相槌を打つ。

こういう時、自分は彼女にとってまだまだ子どもと思われていても仕方ないのだとわかる。

彼女のような余裕が欲しいと思いつつ、一方で彼女のそんな気遣いがファニスは嬉しかった。


「…それに、王族なんて目立つ立場にいたら、人間じゃないってバレちゃうもの!それだけは絶対に避けなきゃ!」

「んー?でも別にエルフもドワーフも、普通に人間社会に混じって生活してるじゃない?そんなに隠さなきゃいけないことなの?」

「エルフとドワーフは見た目がそんなに人間と変わらないでしょ?でも私たちは明らかに違う見た目じゃない。そういうのって、やっぱり気になるよ。」

「そういうもんかしらねぇ?」


リリエスが岩礁に頬杖をついて首を傾げる。

種族の差というものに偏見のない様子のリリエスには理解できない考えのようだった。

しかし普段人間社会に混じって生活しているファニスにとって、それは確かに隠しておくべきことなのだ。

単なる見た目に対する差別意識や偏見などではなく、己の身を守るために。


「時々だけど、人魚の肉には不老不死の力が〜とか言ってる人間もいるのよ。あと、私たちが歌を歌うと船が沈むとか。」

「それはセイレーンの話じゃない?」

「人間にとってはどっちも同じみたい。」


ふーん?と、先ほどとは逆の方向に首を傾げるリリエスは、実年齢にそぐわない幼い印象を与える。

同性ですらキュンとしてしまいそうになるその仕草に、やはり本人が好意に気づいていないだけなのではないかとファニスは思う。

こんなの、その辺の男なら簡単に陥落してしまうだろうに。


「ま、寿命って観点で寄り添える相手を探すならドワーフか、自分と同じハーフを見つけるしかないかもねぇ。」

「いいの。私は気ままに1人で生きていくの。」


今はとにかく何にも縛られずに生きていたいのだ。

好きな地へ赴き、好きなことをして、好きなように生きていたい。

たくさんの美しいものを見たいし、100年に一度しか咲かない花の香りだって嗅いでみたい。

今この瞬間を、楽しんで生きていたいのだ。


「そうして生きて、いつか本当に心から好きになれる誰かが見つかったなら…その時にまた考える事にするわ!」

「…そうね。あんたはそれでいいのかもね。」


リリエスは微笑んでそう呟いた。

楽しそうに日々を生きるこの幼子が一体どんな相手を選ぶのか。

いつ来るのかもわからないその日を心待ちにして過ごそうと、海の賢者は決めたのだった。



リリエスさんは基本的に海に引きこもっているので、そういった話(色恋沙汰)はほぼないです。

1000歳超えた人にとっては80歳も300歳もみんな子どもみたいなものなので、そもそもそういった対象にすらなりません。。

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