7.やさしい先輩 ③
高校もやめ、定職にも就かないどうしようもないクソガキは、家で、母親に、金持ちになる夢を語った。
誰かに話したかったんだ、ビッグな夢を。
どうせまともに聞いてないってわかってた。毎日何やってるかわからない出来の悪い息子にうんざりしてるのは、わかってる。
うっとうしいんだろ。
どっか行ってくれ。こんなのが息子だなんて。
そう思ってんだろ。
だけど、友達に話して、顔で微笑み、腹で大笑いされるよりは、マシに思えた。だから消去法で、母親に話すことにした。俺とやさしい先輩の壮大な起業計画と金持ちになる話を。
もう、土地だって確保できてる。
(やさしい先輩がそう言ってた)
あと、もう少し。もう数歩で、起業家になる。でっかい夢とすげえ未来がすぐそこに。
(やさしい先輩がそう言ってた)
ガンガン稼いでビッグになる。
(やさしい先輩がそう言ってた)
俺は気持ちよく、やさしい先輩との出会いから今までのことを話した。
母親は黙って聞いていた。いや、聞いていないのか?ひたすら夕飯の支度を黙々と進めていた。
俺は、ひとしきり喋ると満足した。きっと母親が聞いているかどうかは、大した問題じゃなく、ただただ、気持ちよく、喋りたいだけ喋りたかったんだな。
急に自分が子供に思えてきた。
なんか、ハズいな。
聞いてないのかと思っていた母親が、突然喋りだした。喋りだした母親は次々と質問を投げかけてきた。どうせ聞いてないんだろって思ってたから、少しビビった。
かなり、いや、ガッツリ聞いてたんだ・・・・・
「その先輩の借金いくら?」
確か20万って言ってたから、そう答えた。
「ふーん。あんた、原付免許取って、中古買って、カスタマイズし
て、全部でいくらかかった?」
トータルで20万弱かかった。
「バイト頑張ってたねー。3ヵ月ちょいくらいやってたかなー。
3ヵ月ちょいで20万稼いだんだよね?」
ん?
「先輩は随分前から、寝る間も惜しんで働いて、まだ、
返済できないんだ。家族と住んで家賃も光熱費も必要ないのに。
毎日、ゴミ拾いもして、毎日、他の仕事もしてるのに。
あ、ゴミ拾いは二日間しかやってないのか、先輩は。
で、ほかの仕事って何?」
やさしい先輩のほかの仕事が何なのか知らなかった。
「起業するって、土地も準備できたって、そこに会社を建てるの?
すごいお金がいるね。そもそも何の会社するの?」
聞いたことなかった。
「借金20万返すのに、四苦八苦してる人が作る会社を
相手してくれる銀行ってどこ?」
何も答えられなかった・・・
「ごはん、出来たよ。さ、食べよ!」
その日の夕飯は、味がしなかった・・・