6.やさしい先輩 ②
やさしい先輩は何でもよく知っていた。
俺が生きていくために、必要なことをたくさん教えてくれた。
与えられた仕事を一生懸命がんばること
目上の人の言うことをよく聞くこと
わずかな報酬の仕事でもまじめに取り組むこと
仲間を大事にすること
どれも大切な教えだ。
すぐお金になる仕事も教えてくれた。ゴミ拾いだ。正確には、山に不法投棄されたゴミの中から、換金できる金属類を集める仕事だ。
不法に投棄するんだから、結構な山ん中の結構な斜面にゴミ(いや、商品)はある。急斜面を滑りながら降りて、商品を抱えて、登らなきゃならない。しかも、異臭がおまけについてくる。
何度もヤバイと感じた。嗚咽とめまいを繰り返す。でも、頑張った。なぜなら、やさしい先輩の大切な教えを守ろうとしたから。
そして、やさしい先輩の借金を返済して、一緒に会社を立ち上げて、一緒に金持ちになりたかったから。
だから二人で頑張って、ゴミを集めた。
だけど二人で頑張ったのは、最初の二日だけだった。
たくさんの仕事を掛け持ちしている忙しいやさしい先輩は、三日目から、俺を山で降ろすと、軽トラで、次の仕事へ向かった。
夕方、日が暮れる前に、俺を迎えにきてくれた。そして家まで送ってくれて、俺を降ろすと、その日の収穫をどこかへ売りに行くという生活がしばらく続いた。
ゴミの中に金目のものが無くなるころには、やさしい先輩は次の仕事を準備してくれた。短期の仕事が多かった。
工場、工事現場、ビラ配り・・・次から次へと切れ間なく仕事に連れて行ってくれた。
やさしい先輩は、顔が広くて、みんなから信頼されていて、次々と仕事の依頼がくるらしい。毎日、過密スケジュールをこなしているらしい。
すげーな。
俺も毎日何かやってると、色々考えなくていいし、気持ちが少し軽くなる気がして、目の前のことだけを、与えられた仕事を、ただひたすら頑張った。
仕事の報酬は、わずかだった。
なぜなら、やさしい先輩の借金返済が第一。次に起業のための資金作り。最後に俺の自由にできる金が少し。
それでもかまわなかった。
夢に向かって突き進んでいるのだから。
もっと頑張らなきゃ!!