32.・・・・・つづく(最終回)
今回で最終回となります。
続編「青い足跡」もよろしくお願いします。
元気と一緒につねさんという人の家族を探しているうちに、心の奥の方が熱くなるのを感じた。俺は元気みたいに必死に生きているか?何かに夢中になっているか?
俺も一生懸命になってみたくなった。青くさいガキかもしれないけど、必死こいてみたくなった。
冷静さを失っているのか?わからない。だけど、一歩踏み出してみようか?背中を押されているような気がするから。元気に。そして、自分自身に。
「すごいな、元気。」
「え?なに?」
「元気ってすごいな。」
「僕が?すごい? 何言ってるの?
僕は全然すごくないよ。」
「やっぱ、すごいよ。そういうとこも。」
「どうしたの?突然。」
「いや、何でもない。いや、何でもなくない。
いつか、一緒に仕事したいな、元気と。」
~五年後~
3月だというのに、真冬のような寒さの日、体は凍えるようだけど、心は温かくなる再会があった。
「よっ」
「久しぶり、リョウ。」
「久しぶり。最後に会ったのいつだ?
ユウさんの店に連れて行ったときかなあ?
しばらく会わない間に、なんかおまえ、貫禄出てきたな。」
「ははははは。ちょっと太ったからな。」
「てか、前が痩せすぎだったんだよ。
すげー筋肉ついてるじゃん。」
「ま、仕事してたら勝手に筋肉ついたかなって感じ。」
「で、どうすんだ?ぼちぼち古巣に帰んのか?」
「うーん、そのことも今日リョウに相談しようと思ってて。」
「そっか。じゃ、とりあえず、飯行く?」
「え?まだ早くない?」
「ふっ。俺も大人になったからな。時には並ぶことも覚えたんだよ。
あのラーメン屋、今じゃ行列の店だからな。
開店前から並ぶのが、コツなんだ。」
「えー、この寒い中、並ぶの?雪ちらついてるよ。
リョウ変わったなあ。昔は、絶対並ばなかったもんなあ。」
「ははは、確かに。
もちろん、食後のコーヒーはあの公園の自販機な。」
「もちろん!ラーメンはリョウのおごりで、コーヒーは僕のおごり!」
「うわっ。そう来るかあ!」
一気に時が戻ったようだった。元気と出会ってからの思い出と感情が体中に広がり、懐かしさと楽しさが、あふれ出してきた。
あれから俺たちはそれぞれの道を必死で生きてきた。元気は拾ってくれた社長のもとで2年間働き、大手に武者修行に出た。
今では、都心の超難しいビル解体現場で、バリバリ活躍している。
俺はというと、元カリスマ塾講師のおっさんに勉強を教えてもらって、高卒認定取って、大学に進学し、昼間はアルバイトしながら、夜間、大学に通った。
これなら親に負担もかけないし、バイトが休みの日には、昼間も講義を受けることができて、俺には都合がよかった。
これも元カリスマのおっさん、タマちゃんこと玉川さんがアドバイスしてくれたおかげだった。
で、元カリスマのタマちゃんはというと、ユウさんの店の二階の空き店舗に住み着いてしまった。
さらに、一人で住むには広すぎるからと言って、ユウさんは自分の自宅アパートを解約して、今、二人は店の二階で同居中だ。
しかも俺の受験勉強が始まってから、タマちゃんは俺に代わって、バーテンダーとして、働きだしたんだが、それからずっと仲良く二人でBARをやっている。
俺は今でもしょっちゅう店に顔を出している。まあ、あの場所は俺にとって、半分家のようなもんだから。
ラーメン大盛りと食後のコーヒーで乾杯。公園でいろいろ語り合った。
元気は、古巣の社長のもとに帰るタイミングを悩んでいるようだった。今の会社の仕事のキリのいいところで、きちんと引き継ぎをしておきたいらしいが、最近社長がめっきり老け込んで、落ち込んでいることが、気になり、すぐにでも帰った来た方がいいのか、迷っている。
社長の奥さんが、去年亡くなってから、すっかり弱気になってるらしい。
俺は、大学で建築について学んだ。散歩から始まった、住宅への興味がどんどん膨らみ、進学へと繋がっていった。
基本的に大学では一般的な戸建て住宅のことを学べる講義はなかった。建築の一般知識や、設計、ビルなどの大型建造物の構造、熱環境、建築の歴史などなど。それでも教授の中にはいろいろ面白い人がいて、戸建ての住宅環境について研究や実験をしている先生の授業は本来の授業からよく脱線して、俺のツボにハマる話が多く、たまらなく楽しかった。
そして、一般の戸建て住宅の勉強を兼ねて、昼間は工務店でバイトした。バイトの面接で、社長と意気投合して、即決で採用してもらい、4年間、現場の施工から事務仕事まで、いろいろなことをやらせてもらった。とにかく、一日が24時間じゃ、全く足りない。目まぐるしい日々だった。
あっという間の四年間を過ごし、大手ハウスメーカーに就職し、もうすぐ丸1年になる。バイト先の工務店にそのまま就職しようかとも考えたが、大手で幅広く勉強してみたいという気持ちと、親孝行の意味もあった。大手に就職したら、母親を安心させられるかなと。
「リョウは今の会社どう?仕事は楽しい?」
「うーん。どうかなあ。
すごく勉強にはなるけど、造りたい家を建ててるわけじゃなかったり、
売りたい家を売ってるわけじゃなくて、ちょっと、もやもやしてるかなあ。」
「そうかあ。なるほどなあ。
上目指して、バリバリやってんのかと思ったけど、そうでもないんだ。」
「うーん、俺のやりたいことって、出世じゃないんだよなあ・・・
ただただ、いい家を造りたいんだよなあ・・・」
「ところで、ユウさん元気?」
「ああ、元気にやってるよ。会いに行く?喜ぶよ、きっと。
ぼちぼち仕込みとか始める頃だから、店にいると思うよ。」
「うん。」
ユウさんのBARへ向かった。
BARのある通りに出ると、結構景色が変わっていることに元気は驚いた。近年開発がすすみ、道も立派になって、大きな建物が増えた。その中で、ユウさんのBARのある小さなビルは、ひと際古びて見えた。
「うわー、随分変わったなあ。ユウさんとこ、ますますボロボロに見えるなあ。」
「ははは、まあな。ぼちぼち建て替え時なんだけどなあ。」
「僕がいつでも最高の足場造って、解体するよ。」
「頼もしいなあ。その時は是非。
・・・ん?あ?」
「どうかした?」
「あ、いや。今、知り合いに似た奴がいたんだけど、見間違いかな。
さ、ユウさんに会いに行こ!」
昔、数日間だけ一緒に過ごした親友と呼び合った奴がいた。そいつに似てたんだ。さっき、あるビルの中に入っていった男が。
ビシッとスーツ着こなして、羽振りのよさそうな、あまりこの町じゃ見かけない感じの。ま、だけど、俺の記憶もあいまいになってるし、違うかな・・・
今頃どこでどうしてるかな・・・シンヤ・・・
「あ、ごめん。俊明兄さんから電話だ。」
電話に出た元気の顔が急に曇った。
「ごめん、リョウ。俺行かなきゃ。」
「ああ、気にすんな。それより、気を付けて。」
「ありがとう。
また、連絡する!」
急いで走っていく元気の後ろ姿を見送った。
その背中を見ながら思った。
俺は同じ過ちを繰り返してないか?疑問を感じながらも流されてないか?このままでいいのか?やりたいこと、やれること、やっていること、ちゃんと考えられているか?
向き合わなきゃ、自分に!もっと!
目をそらさずに。
何度でも挑戦すればいい。
一歩前へ。
だけど、その一歩が重く苦しく、とてつもなくパワーが必要なんだ。
何度も何度も自分に問いかけて、何度も何度も自分を励まして。
次の一歩へ繋げたい。いや、繫ぐんだ、何が何でも。
終わらない。終わってたまるか。
これからもつづいていく、俺は。俺たちは。
「思春期の独り言」に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
続編の「青い足跡」を連載中です。
引き続きよろしくお願いします。




