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思春期の独り言  作者: NARU
30/32

30.僕の名前は元気です ⑤

 ゴトンゴトン ゴトンゴトン


 ()れる電車(でんしゃ)より僕の心臓(しんぞう)(ほう)がはるかに大きな(おと)を立てているように思えた。

 なぜなら、なぜなら、・・・・つねさんに大切(たいせつ)なことを(つた)えるために、電車に()ったから。

 まだ、半信半疑(はんしんはんぎ)というか、(しん)じられないというか、奇跡(きせき)()きたというか、だいぶ混乱(こんらん)している。(となり)にリョウ君がいてくれて、よかった。リョウ君がいなかったら、つねさんの元部下(もとぶか)の人にも()えなかったし、つねさんの家族(かぞく)のこともわからなかった。


 よかった。本当によかった。つねさんの元部下の人は、あの家を、つねさんの家を(まも)るために、いつでもつねさんが(かえ)って()られるように、()()ってくれたんだ。(おく)さんも子供(こども)たちを()れて、すぐ近くのアパートに(うつ)って、子供たちがそれぞれに独立(どくりつ)した(あと)も、奥さんは一人で、つねさんの帰りを()(つづ)けてくれてたんだ。うれしい。すごくうれしい!

 つねさんが知ったら、家族のもとに帰る()になってくれるかな?もう一度(いちど)、家族がやり(なお)せたらいいな。


 だけど、ぼくが()()がっちゃダメだダメだ。リョウ君の言う(とおり)りだ。つねさんがどう思うかはつねさんにしかわからない。ちゃんとつねさんに(はな)さなきゃ。つねさんの気持(きも)ちを(たし)かめなきゃ。

 つねさんの家族のことは元部下のえーっと、山根(やまね)さんに(まか)せて、まずは僕がつねさんと話さなきゃ。それから、山根さんと作戦会議(さくせんかいぎ)だ。

 リョウ君も、相談(そうだん)()ってくれるかなあ。ずうずうしいかなあ。こんなにお世話(せわ)になったんだし、つねさんに()えたら、そこでありがとうございましたってことで、(わか)れた(ほう)がいいかなあ。


 「乗りかかった(ふね)だし、決着(けっちゃく)するまでトコトン、()()うよ。」


 え? 僕の心の声って()れてる?


 「あ、ありがとう。すごく心強いよ、リョウ君がいてくれると。」


 「リョウでいいよ。(くん)いらねー。」


 「あ、うん。」

 (なん)だろう。なんかものすごく、「(くん)いらねー」って言われて、うれしかった。




 (なつ)かしい・・・

 つねさんと()ごした公園(こうえん)。まるで故郷(ふるさと)に帰ってきたかのような感じ。

 早速(さっそく)、つねさんのいつもの場所(ばしょ)に行ってみたが、姿(すがた)見当(みあ)たらなかった。公園中(こうえんじゅう)を探してみたが、つねさんはいない。もしかしたら、たまに、友達(ともだち)(さそ)われて、日雇い(ひやとい)仕事(しごと)に行くことがあるから、それかな?と思い、同じホームレス仲間(なかま)のトモさんという人がいる高架下(こうかした)に行ってみた。 


 トモさんはいた。トモさんは僕のことを(おぼ)えていてくれた。僕の(かお)を見るなり、(なみだ)()かべ、(よろこ)んでくれた。


 「おお、つねと一緒(いっしょ)にいた坊主(ぼうず)か?よく()てくれたな。ありがとよ。ありがとよ。」


 「トモさん、ごぶさたしてます。その(せつ)はどうも。

  あの、今日(きょう)、つねさんって、どこにいるかわかりますか?」


 トモさんの目に浮かんでいた涙が、大粒(おおつぶ)になって、ぽろぽろぽろぽろと(なが)()ちてきた。


 「役所(やくしょ)におるよ。(いま)ならまだ、役所におるはずじゃよ。行ってやってくれ。

  (だれ)()んなら、共同墓地(きょうどうぼち)行きじゃ。ま、それでもマシな(ほう)じゃがな。

  でも、もし家族が()って、()()ってくれるなら、最後(さいご)の最後に帰れるかもな。」


 (あたま)真っ白(まっしろ)になった。どういうこと?どういうこと?


 「おいっ!元気! しっかりしろ。()()れ。」


 リョウの(こえ)(われ)(かえ)った。

 行かなきゃ!

 僕たちは(いそ)いで、役所(やくしょ)にむかった。


 

 まさか・・・

 こんな(かたち)再会(さいかい)するとは・・・・。

 もう話しかけても返事(へんじ)はない。


 (つぼ)の中でつねさんは(しず)かに(ねむ)っている。


 凍死(とうし)だった。つねさんは真冬(まふゆ)大寒波(だいかんぱ)翌日(よくじつ)、ボランティアの人の見回(みまわ)()発見(はっけん)されたらしい。すでに(いき)()えていたそうだ。

 再三(さいさん)ボランティアの人から、冬の(あいだ)宿泊施設(しゅくはくしせつ)移動(いどう)するように(すす)められたが、(ことわ)(つづ)けていたらしい。

 つねさんは家族に(つな)がるようなものは一切(いっさい)所有(しょゆう)していなかったため、(ちょう)規定(きてい)則って(のっとって)火葬(かそう)され、保管期間(ほかんきかん)()ぎると、無縁仏(むえんぼとけ)として霊園(れいえん)一角(いっかく)(ちょう)管理(かんり)するところに(おさ)まる予定(よてい)になっていた。


 僕がもっと早く、家族を見つけていれば、(あたた)かい家に帰れてたかもしれないのに。

 せめて時々(ときどき)様子(ようす)を見に来て、僕も宿泊施設(しゅくはくしせつ)に行くように説得(せっとく)していたら・・・


 この現実(げんじつ)を、奥さんに(つた)えるべきなのか?

 僕はなんのために、つねさんの家族を探したんだ?

 (かな)しませるため?

 つねさんになんの恩返し(おんがえし)出来(でき)てない。

 もっとつねさんと話したかった。

 

 涙が()まらない。こんなに涙って出るんだ。

 体中(からだじゅう)水分(すいぶん)が涙になって(なが)れて、全身全霊(ぜんしんぜんれい)悲しいと(さけ)んでる。

 こんなに悲しくても、僕には何もできない。泣くことしかできない。

 もう、つねさんに奥さんが待ってることを伝えることもできない。

 つねさんと家族を会わせてあげることもできない。

 もう一度、家族をやり直すことも・・・

 なんにもできない・・・

 もっと僕がしっかりしていれば・・・

 もっと何かできたはず・・・もっと何か・・・


 「行くぞ。泣いてる(ひま)はないぞ。泣くなら全部(ぜんぶ)終わってから泣け。

  やれることは、全部やれ。」


 リョウの言葉(ことば)にハッとした。

 僕は悲しんでる場合(ばあい)じゃないんだ。ずっと、ずっと、待ってた人がいるんだ、つねさんには。何にも出来ないなんて、泣いてる場合じゃない。


 僕たちは山根(やまね)さんと会い、話をした。

 山根さんは何かを()(ころ)すように、(こぶし)(にぎ)りしめ、泣いた。


 三人で相談(そうだん)して、まずは山根さんからつねさんの奥さんに(つた)えてもらうのがいいだろうということになった。奥さんの様子(ようす)次第(しだい)で、僕もつねさんの奥さんに会いに行くかどうか・・・山根さんからの連絡(れんらく)を待つことに。



 山根さんから連絡を()け、つねさんの奥さんに会いに行くことになった。リョウも一緒に来てくれた。


 奥さんの顔色かおいろ(わる)く、涙目になっていた。山根さんからの話をどんな(おも)いで聞いたんだろう。その(かな)しみは僕なんかにはとてもとても想像(そうぞう)がつかなかった。だけど、(つよ)い人なんだろうなと思った。なぜなら、僕を見てこう言ったんだ。


 「主人(しゅじん)大変(たいへん)世話(せわ)になりました。」


 深々(ふかぶか)と頭を()げられ、僕も精一杯(せいいっぱい)頭を下げた。そして、(はら)(ちから)を入れ、ありったけの声を出した。


 「僕の名前は元気です。

  つねさんは、とてもやさしい人でした。

  見ず知らずの僕のことを(すく)ってくれました。

  なのに、僕は、僕は、お(やく)に立てず、申し訳(もうしわけ)ございません。

  だけど、これだけは、どうしてもお伝えしたいと思います。

  つねさんは家族を、奥さんやお子さんたちのことを、とても(あい)していました。

  ずっとずっと変わらず、家族を愛し、家族の(しあわ)せを(ねが)っておられました。

  突然(とつぜん)いなくなってしまったことを()いておられました。

  どうか、つねさんのこと、(ゆる)してあげてください。

  今すぐでなくても、いつか、許してあげてほしい・・・

  お願いします。」

 

 「どうぞ、頭をあげてください。

  とっくの(むかし)に許してます。・・・いえ、そもそも、(おこ)ってなんかいません。

  むしろ、一人で何もかも(かか)()んで、(くる)しんでいることに、どうして気づけな

  かったんだろうって。

  自分(じぶん)()める毎日(まいにち)でした。

  そんな毎日からやっと開放(かいほう)されました。

  こうして帰ってきてくれたんですから。

  本当(ほんとう)にありがとう。あなたのおかげです。」


 僕は頭を上げて、奥さんを見た。

 きらきらと涙で光る眼に少し安堵(あんど)表情(ひょうじょう)(おだ)やかな微笑(ほほえみ)を見た。


 あ、つねさん、帰ってきたんだ。

 そう思えた。


 つねさん、おかえり。


 僕、()まれて(はじ)めて、大きな声で自分の名前言ったよ。

 つねさんのおかげだよ。

 僕、これからも、頑張(がんば)ってみるよ。つねさん、見てて。

 僕は一歩(いっぽ)一歩(すす)むから。もがき苦しんでも、それでもほんの少しでも(あし)(まえ)()すよ。


 ありがとう!つねさん。



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