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思春期の独り言  作者: NARU
29/32

29.僕の名前は元気です ④

 ()()わせよりずいぶん(はや)()いてしまった。

同級生(どうきゅうせい)と待ち合わせしたことなんかないし、待ち合わせどころか、(しゃべ)ることさえ、ほとんどなかった。そもそもほとんど学校に行かなかったから、(おな)(どし)()()いがいない。

 だからなんか緊張(きんちょう)して昨日(きのう)はなかなか寝付(ねつ)けなかったし、今朝(けさ)は早く()()めてしまった。


 ドキドキが()まらない。リョウ君、本当(ほんとう)()てくれるかな?

 からかわれたんじゃないかな?

 でも、親切(しんせつ)そうな人だったし。

 この(へん)のことよく()ってそうな人だったし。

 でも、僕なんかとした約束(やくそく)おぼえてるかなあ?


 ()ってる(あいだ)に、期待(きたい)不安(ふあん)()()ちが、大渋滞(だいじゅうたい)になって、呼吸(こきゅう)(みだ)れてきて、(かる)いパニック状態(じょうたい)になっていた。

 待ち合わせ時間(じかん)(ちか)づき、期待は(うす)れ、緊張と不安だけが僕のそばにいた。立っているのがやっとで、(まわ)りを見る余裕(よゆう)がない。


 「よっ」


 誰かに声をかけられたような気がして、うつむいた(おも)(あたま)をなんとか()ち上げた。たぶん、ぼくはこの時、顔面蒼白(がんめんそうはく)で、過呼吸(かこきゅう)状態(じょうたい)になってたと思う。顔をあげると、そこにはリョウ君がいた。来てくれた。()きそう・・・

 僕は、ずるずるとその()(くず)()ちた。


 「大丈夫(だいじょうぶ)か?!」


 リョウ君は僕がかぶっていた帽子(ぼうし)をとって、ぼくの(くち)()て、「ゆっくり(いき)するぞ。いいか? ゆっくり()いてー ゆっくり()ってー ゆっくり吐いてー」と僕の呼吸(こきゅう)(ととの)えてくれた。

 ゆっくり呼吸するうちに、ドキドキが(おさ)まり、()()いてきた。


 リョウ君が缶コーヒーを()ってきてくれた。僕にはカフェオレを。リョウ君はブラックを。なんかブラックに(あこが)れるな。いつか()めるようになりたい。


 カフェオレを飲み()し、リョウ君と一軒目(いっけんめ)の家を見に行った。

 なるほど。(たし)かに高級(こうきゅう)住宅街(じゅうたくがい)じゃないけど、立派(りっぱ)な家で僕が話した外観(がいかん)一致(いっち)してる。家の(まわ)りをぐるっと一周(いっしゅう)してみた。だけど、なんだろう。うまく言えないけど、ピンと()ない。でも確かめてみなきゃ。どうやって?インターフォン()して()いてみる?つねさんって人のご家族(かぞく)()りませんか?って。絶対(ぜったい)(へん)な人だって(あや)しまれるよな。


 あれ?リョウ君?どこ?え?


 リョウ君は(ちか)くの(はたけ)農作業(のうさぎょう)しているお年寄(としよ)りと談笑(だんしょう)してた。「じいちゃん、ありがとな。」と言って、(ふく)()いた(つち)(かる)(はら)って、(もど)ってきた。


 「ここじゃないな。」


 「どうして?」


 「あのじいちゃんが10年前はこのあたり全部(ぜんぶ)(はたけ)だったって。

  地主(じぬし)年取(としと)って、畑()めて、()りに出したのが10年前。

  ということは、元気の話とは()(ちが)うだろ。

  もっと(まえ)()ってるだろ、(さが)してる家。」


 「う、うん。」


 「じゃ、(つぎ)行こ。」


 すごい。絶対(ぜったい)、僕にはできないし、思いつかない。近くにいるお年寄りに話しかけて、仲良(なかよ)くなって、世間話(せけんばなし)しながら、聞き出すとか。

  

 次の家も立派だった。さっきの家より(ふる)そうだからこっちの方がより条件(じょうけん)()てはまる気がする。今度は周りに畑もないし、インターフォン押してみるしかないか・・・。


 「あの、ちょっとすみません。

  自分(じぶん)は、保育園(ほいくえん)(ころ)()()した友達を探してやって来たんですが・・・

  このあたりにお()まいの(かた)ですか?」


 「あ、はい。」


 「ここのお(たく)は20年ほど前に引っ越して来られたんじゃないでしょうか?」


 「こちらはずーっとお住まいですよ。

  それこそ、20年ほど前に建て()えはされましたけど。

  もう代々(だいだい)ここにおられる(かた)ですから、(ちが)うんじゃないかしら。」


 「そうでしたか。じゃあ、探している友達の家ではなさそうです。

  すみません、お時間(じかん)とらせまして。ありがとうございました。」


 近所(きんじょ)に住んでる50代女性って感じの人に、突然(とつぜん)声をかけたリョウ君。あっという間に情報(じょうほう)を聞き出した。リョウ君には人を安心(あんしん)させる何かがあるのかな。すぐ人と()()けて話すことが出来(でき)る。しかも相手(あいて)に合わせて、話し方や距離(きょり)()め方も絶妙(ぜつみょう)だ。

 すごいなあ。僕には到底(とうてい)真似(まね)できない。ありがたいけど、自分の不甲斐(ふがい)なさが()()みて、ちょっと(かな)しくもなる。


 「次いこう」


 リョウ君の言葉(ことば)(われ)(かえ)り、目的(もくてき)()(もど)された。そうだ。家を探しに来たんだ。だけど、次もまた、だめだだったら、どうしよう。もう、どうしようもない。いよいよ、(あきら)めなきゃ・・・


 「次だめだったら、作戦(さくせん)会議(かいぎ)だ。もう一度(いちど)記憶(きおく)整理(せいり)して、精査(せいさ)しよう。 

  探索(たんさく)地域(ちいき)(ひろ)げてみるのも、検討(けんとう)してみよう。」


 リョウ君は全然(ぜんぜん)諦めていなかった。しかも、たまたま知り合った僕なんかのためにここまでしてくれるって・・・。


 三軒目(さんげんめ)候補(こういほ)の家へ()かった。


 「(じつ)は次が俺(てき)には、一番の候補なんだ。

  場所的には、元気の話からは一番可能性(かのうせい)(ひく)いんだけどな。

  ただ、それ以外のことは一番しっくりくるんだよな。

  もう()もなく見えてくると思うんだけど・・・

  あ、家の前に(だれ)かいるなあ。

  なんか業者(ぎょうしゃ)っぽい人と男の人が話してる、あの家。」


 確かに、今までで、一番ピンとくるものがあった。ただ、白い家という(かん)じではないけど。(ふる)くなって、(くろ)ずんだのかな。家の前で話してる声がギリギリ聞こえるくらいの距離(きょり)まで(ちか)づいたとき、(きゅう)にリョウ君が立ち止まって話しかけてきた。


 「あれ、え、そうなん?えー見せて見せて、スマホ。」

 (なん)のことかわからず、とりあえず、スマホを出した。するとリョウ君もスマホを出して、「へー、それおもろいなー」と言ってきた。リョウ君のスマホの画面(がめん)には、「テキトーに(しゃべ)りながら、あの人たちの会話(かいわ)を聞こう」と()()まれていた。なるほどそういうことかと思い、適当(てきとう)に喋りつつ、会話を(ぬす)み聞きした。


 「()りなおしでいいんです。」


 「(ちく)20年を()えてますし、外壁(がいへき)の塗りなおしというより、家全体(ぜんたい)のことを考え

  て、少し本格的(ほんかくてき)なリノベを検討(けんとう)されるのもいいかと。」


 「いえ、塗りなおしだけで。」


 「たとえば、今後のことも考えて、家の性能(せいのう)()げるような改修(かいしゅう)というのもお

  ススメです。

  コストはかかりますが、()らしやすさや今後のメンテナンス費用(ひよう)のことを考え

  れば、ランニングコストとしてはお(とく)かと。」


 「いや、全く(おな)じで。

  家の印象(いんしょう)()えたくないんです。

  この家を建てた人が、帰ってきたときのために、変えたくないんです。

  だから、全く同じように、建てたときと同じ色で()ってください。

  内装(ないそう)補修(ほしゅう)だけで。」


 「そうですか・・・

  わかりました。奥様(おくさま)もそれでご納得(なっとく)されてますか?」


 「はい。」


 「では、見積(みつ)もりが上がり次第(しだい)お持ちします。」


 もしかして・・・スマホを(にぎ)った手が(きゅう)にじわっと(あせ)ばんできた。


 「おい、行くぞ、元気。お前の出番(でばん)だ。」


 リョウ君の声が僕の背中(せなか)()した。


 「あの~、す、すみません。」


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