28.僕の名前は元気です ③
少しずつ、仕事にも俊明兄さんや他の兄さんたちにも慣れてきた。
仕事以上に人間関係が心配だったけど、親父(社長)をはじめ、みんな本当にかわいがってくれる。こんな僕を受け入れてくれる。家にいるときより、現場にいる時のほうが、気持ちが落ち着くくらいだ。
たまの休みに家にいると、何とも居心地が悪いというか、気が休まらないというか、落ち着かなくて、なるべく出かけるようにしてる。
ただぶらっと出かけるわけじゃなくて、もう一つの大事な理由があった。大事な探し物が・・・。
余計なことかもしれないけど、探してどうするのか、自分でもよくわからないんだけど、それでも探している。手がかりが少なくて、難航してるけど・・・・。
大事な探し物・・・それは、つねさんの家族。もし、つねさんの家族が今もつねさんの帰りを待っていたとしたら。もしかしたら、止まってしまった時計の針が動き出すんじゃないかと。
でも、もう新しい家族と幸せに暮らしてるかもしれないし。それならそれで、そーっとしておいた方がいいんだろうけど、だけど、わからないから。わからないから、何もまだ。だから、探してみようって、思った。
つねさんの話から、予測した地域をいくつかピックアップして、その中で高級住宅街を検索した。まずは、つねさんが建てた家を探してみることにした。そこに、つねさんが目撃した部下だった人が今も住んでいれば、つねさんの家族のことを何か知っているかもしれないから。
昔の刑事ドラマみたいにとにかく、歩いて歩いて、手がかりを探った。休みのたびに地図を持って、対象地域に行き、つねさんの話していた内容と合致する家がないか、探してまわった。白い二階建ての家。屋根はレンガ色の瓦。車二台が余裕で停められるガレージ。出窓にレースのカーテン。レンガの塀・・・。
だけど、そう簡単にはそれらしい家は見つけられなかった。
そもそも目星をつけた地域があってるかどうかもわからないし、すでに家が取り壊されてるってことだってあるかもしれないし、砂漠で、指輪をみつけるようなものだ。無謀すぎるのかも。こんなことして、つねは喜ばないかもしれないし、つねさんの家族だって迷惑かもしれないし。
最近は、難航する捜索に心が折れそうになってきて、気づけば、心があきらめる理由ばかりを探すようになっていた。
自分が情けなくて情けなくて、泣きそうになる。
僕のやってることって、ただの自己満足の迷惑行為かなあ。
迷惑行為にもならないか。
だってなんにもわからないままなんだし。
いつもただ無駄に歩いてるだけだし。
ああ、僕ってホントだめだなあ。
体の力が入らなくなって、ずるずるとその場にしゃがみこんで、うなだれた。
ふと気配を感じて少し顔を上げると、靴が見えた。僕の前に誰か立っていた。ゆっくり顔をあげると、僕くらいの歳のシュッとしたイケメンと目が合った。
「ラーメン食いに行くから付き合えよ。」
その言葉に反射的に立ち上がり、何も考えずに「はい」と答えていた。イケメンの後をついて歩くこと五分ほどのところにラーメンの看板が見えてきた。
「ここ!なんか旨そうじゃね?
行ってみたいなって思ってたら、ちょうどおまえが落ちてたから、拾った。
行こ!」
「あ、はい。」
不思議な人だけど、悪い人じゃなさそう。なんか、つねさんに初めて声かけられたときみたいな。ま、あの時はちょっと、ビビッて取り乱しちゃったけど。つねさんとは全然似ても似つかないのに、なんか似たようなあったかい空気をまとってるっていうか・・・
「うまっ!」
「あ、はい。」
「俺の目に狂いはなかったな。もう数か月もすりゃ行列の店になるな。
俺並ぶの苦手なんだよな。そうなる前に来れてよかったー。」
「はい」
ふたりともあっという間に平らげて店を出た。
「あ、あのーごちそうになって、すみません。ありがとうございます。」
「俺が誘って付き合ってもらったんだから、それが礼儀ってもんさ。」
「あ、ああ・・・」
「でも、気を遣うっていうなら、コーヒー奢ってくれる?
食後のコーヒー。」
「あ、はい。もちろんです。」
「こっちこっち」
彼に連れて行かれたのは、公園の自販機の前だった。
「俺、これ!」
ブラックコーヒーのホットのショート缶を指さしていた。僕も同じものを買って、一本を彼に渡した。
ベンチに二人並んで腰かけて、コーヒーを飲んだ。僕は本当はブラックは苦手で、普段は子供みたいに砂糖とミルクをたっぷり入れて飲んでいる。だけど、彼が、ブラックをスッと指さしたのが、カッコよくて、見栄張って自分もブラックを買ってしまった。無理してるのがバレないように、スマートに飲まなきゃと変に緊張してしまった。
「フッ。ブラック苦手なら他の買えよ!」
え?! ゴホッゴホッ むせてしまった。カッコ悪い!ブラック苦手ってバレてる!恥ずかしい!
「大丈夫か?まあ、ゆっくりしようぜ。」
「あ、はい。」
「で、迷子ちゃんは何を探して、疲れ果てて、力尽きてたんだ?」
ゴホッ 再びむせた。彼は僕が途方に暮れていたのをわかって、敢えて誘ってくれたんだ、僕のために。
下手に取り繕っても、見透かされてしまう!だったら、彼に話してみようか。
僕は何をどう話していいかわからないまま、人探しをしていることを告げた。人と話すのは得意じゃないから、まとまりのない、下手くそな話をしてしまったけど、聞いてくれた。
「へえ、人探しの手がかかりになるかもしれない家を探してるってこと?」
「はい。」
「じゃあ、その家のこと、もう少し詳しく聞いていい?」
「え、あ、はい。」
僕は持っていた地図を見せ、自分が探して歩いた場所と、家の見た目についてわかることを話した。
「ふーん。どうして高級住宅街ばっか?高級住宅街に家建てたってこと?」
「あ、え、それは、家を建てた人が大手商社のエリートだった人で、立派な家
を建てたって言ってたからです。」
「へー、じゃあ、本人が高級住宅街に建てたって言ったわけじゃないんだ?」
「あ、はい、そうです。」
「ちなみに何歳?」
「え?んー・・・」
「君、君。俺は17。」
「あ、僕も17です。」
「タメか。じゃ、もっと気楽に喋れば。その方が話しやすいし、こっちも。
俺は、リョウ。普通にリョウって呼んでくれたらいいよ。」
「あ、はい。あ、うん。あの、、、 元気です。」
「?」
「あ、あの、ぼくの名前、『元気』です。」
「ああ。よろしく、元気。」
「あ、よろしく・・・」
「なんで急に声小さくなるの?」
「なんか、名前負けしてるっていうか。僕が『元気』って、、、
全然元気じゃないんで。」
「なんかおもしろい奴だな。」
おもしろいなんて言われたことがなかったので、どう反応していいかわからなかった。
「でさー、立派な家=高級住宅街とは限らないから、一旦、高級住宅街は置い
といて、他になんかその人が話してたことない?」
僕は、つねさんとの会話を思い出しながら、なるべく詳しく、リョウ君に話した。
ひとしきり、僕の話を聞いたリョウ君が、地図にマルをつけた。僕がつけたマルとは重なる部分もあったが、だいぶずれていた。
「このあたりで、それらしい外観の家となると、パッと浮かぶのは三軒かな。」
えっっっ!リョウ君って、何者?
驚いて、リョウ君を見た。
「で、次、いつ探しに行く?俺も付き合うよ。」




