27.出会う
人気のカリスマ塾講師はただの酔いつぶれたおっさんだった。テレビで見たカッコよさの欠片もなかった。
ユウさんは表情一つ変えず、いつも通り、いつものお客さんと接するのと何一つ変わらず、接客した。
そして、アルコールをギリギリまで薄め、温かい飲み物にして、湯気で酒を感じさせつつも、なるべくアルコールは飲ませないような飲み物を作った。
さすがだ。
俺は、カリスマへの失望も加算されて、嫌悪感が態度にも出てしまっていたように思う。まだまだ修行が足りないな。気合入れなおして、接客しなきゃな。
「おいっ!坊主!もう一杯!」
カチーン!うわっ、反省直後に切れそう!
落ち着け落ち着け。酔っ払いの相手なら毎日してることだろ。どうして逮捕カリスマにはこんなに腹が立つ?そういや、逮捕されたのに、なんでいるわけ?もしかして、脱走?んなわけないか。
一回深呼吸して、振り返り、「かしこまりました」と答えた。
予想どおり、コイツがその日のラストの客となった。ユウさんは客が自ら帰るまで、店を閉めない。
だから、追い出すわけにもいかず、コップを握りしめたまま、半目状態で寝てる元カリスマに毛布をかけた。5月下旬とはいえ、明け方は肌寒い。
このおっさんがいつ目を覚ますのかわらないから、店の掃除や明日の準備もある程度すませた。あとは、目覚めて帰ってくれるの待ちだ。
ユウさんがココアをいれてくれた。事故った時以来だ。あの日から俺にとってココアは特別な飲み物になった。
「それ飲んだら帰っていいぞ。すまんな。すっかり、遅くなって。
今夜は来なくていいから、ゆっくり休め。」
「大丈夫です。でも、飲んだら帰ります。」
おいしいココアを飲み干して、店を出た。
すっかり、日が高くなっていた。ていうか、昼前になっていた。
ちゃんと起きて、遅刻せずに仕事行ったかなあ。カリスマのせいで、こんな時間じゃん。
帰宅の途についた俺は、母親が朝起きて、仕事に行ったか心配してる自分にちょっと驚いた。自分が母親の心配するなんて。さんざん心配かけてきた俺が、おこがましいような、恥ずかしいような。
それでも、念のため、連絡してみるかと思い、携帯を取り出すと、母親からメッセージが届いていた。
「ちゃんと起きて、仕事に行きましたから、どうぞ、ご心配なく」
俺が心配してるの読まれてる。母親の方が一枚上手だ。
メッセージを見て、母親のことは安心したので、ちょっと散歩して帰ることにした。腹も減ったし、疲れてもいたけど、なんだかよくわからないあのカリスマへの苛立ちみたいなものを沈めてから帰りたかった。
いつものように、建物を眺めつつ、歩いた。家に興味を持って、自分なりに時々住宅のことを調べたりするようになった。そうすると、家に対する見方も違ってきて、ますます面白く感じるようになってきていた。
ああいう家は豪華だけど、夏暑くて、冬寒いんだろうなあ。
この家の壁は継ぎ目ないから塗り壁かなあ。素材はなんだろうなあ。
ここの駐車場は出入りしやすいなあ。雨でも濡れずに家に入れるし。
うわ~太陽光パネルいっぱい載せてるなー。電気代どうなんだろう。太陽光って、どうなんだろうなあ。
ん?
道端に不思議なものが落ちていた。
手に地図を持って、うずくまり、うなだれている若い男。
迷子? ミミちゃんとは違っておとなしそうな子だけど。
どうする?俺。スルーする?それとも・・・・




