25.堕ちた成功者
「あんた、死んだんだって。」
衝撃的な一言を平然とした顔で言い放って、仕事に出かけようとする母親を引き留め、どういうことか問い詰めた。話はこういうことだった。
仕事帰りに寄ったスーパーの駐車場で、俺の同級生の母親にあったらしい。中学と高校が同じだった子だ。ま、俺は高校にはほとんど行かないまま辞めたけど。
美人じゃないが、愛嬌があって、コミュ力強めで、噂好き。うまく学校生活の波を乗りこなしてる子だった。
その子の母親が、俺の母親に声をかけてきたらしい。車の窓を開け、呼び止められたとか。
「ひさしぶり~」と元気に挨拶された後、急に神妙な面持ちで、涙を浮かべ、「なんて言ったらいいか・・・ご愁傷様。」と。何のことだかわからず、?だらけになった母親にさらに、「いいのいいの、無理しないで。わかるわかる。私も聞いたときは言葉を失って、なんにも喋れなかったわ。ごめんなさい。呼び止めてしまって。じゃあ、また。」と言って、車のパワーウィンドウが、ウィ~ンと上がりかけて、また、ウィ~ンと下がって、「そうそう、うちの幸子も、リョウ君死んだって、信じらんな~い。ショック~って。バイクって怖いわね。辛いけど、お互いがんばりましょ。」と言い放ち、再びウィ~ンと窓が上がって、走り去っていったらしい。
俺の母親は、一言も発する機会を与えられることなく、機関銃のように一気に喋って、風のように去っていった幸子の母親の車を、ポカンと見送ったらしい。
バイク事故の後、俺は、友達と一切連絡を取っていないし、LINEも携帯番号も変えて、誰も俺とは連絡がつかない。おまけに今の生活は昼過ぎに起きて、ユウさんのところに行って、明け方に帰宅。一般的な同世代とはまるで生活スタイルが違うから、顔を合わせることがないし、くすぶって荒れてた頃の連れとも今は全く接点がない。
つまり誰にも目撃されない存在になっていた。それで、どっかの誰かが妄想でもしたんだろう。バイクで事故って死んだんじゃないかと。妄想は噂に成長し、俺を抹殺した。って、感じかな。
ま、これはこれで、俺の妄想か。
しっかし、なんか、笑えるな。勝手に殺されてるのに、全然腹が立たない。俺が生きてるって知ったらどうなるんだ?今度は幽霊出たとか言われんのか?幸子の母親はどんな反応するんだろうなあ。
そんなことを思いながら、布団にもぐり、眠りについた。
昼過ぎにセットしていたスマホに起こされ、シャワーを浴びて、軽く飯を食い、ユウさんの店に向かった。
いつも通り、買い出しと掃除を済ませ、テレビをつけてコップを磨き始めた。すると、衝撃的な見出しが飛び込んできた。
“カリスマ塾講師逮捕!!”
ついこないだ、密着取材されてた人じゃん。
なになに?なにやらかしたの?このおっさん。
コップを磨いてた手が止まり、テレビにくぎ付けになってしまった。
密着取材で語ってた理想の学校作りで、不正な金が動いたらしい。認可をめぐって、政治家に金が流れたとか。いわゆる贈収賄事件ってやつだ。
カリスマは顔も名前も出てるのに、政治家は、大物政治家とだけ報道されてることに違和感を覚えた。カリスマが政治家をかばっているのか、議員秘書が矢面に立ってかばってるのか、まだ捜査段階で、報道できないのか。何かモヤモヤした。
珍しくユウさんも食い入るようにテレビを見ていた。その表情が何ていうか、悲しそうというか、残念そうというか、苦しそうというか、うまく表現できないけど、ただ言えるのは、何となくテレビを見てる視聴者というより、まるで当事者のような、そんな感じだった。
開店時間になり、店を開けた。とはいえ、開店早々やってくる客は滅多にいない。夜が更け、二件目三件目とかに立ち寄る人や、遅くまで働いて、疲れ果てた人が、やってくるといったパターンが多かった。だから店を開けてしばらくは、いつも暇で、ユウさんとたわいもない話をしたり、料理を教えてもらったりしていた。
だけど、今日は違った。開店と同時にべろべろに酔っ払った客が、崩れるように入ってきた。
うわー、めんどくせー、と思いつつも「いらっしゃいませ」と頭をさげた。
「なんでもいいから、酒くれ」
偉そうに、そう言って、カウンター席に座ったその男の顔を見て、本日三回目の衝撃を受けた。
テレビで見たカリスマ逮捕塾講師だった。
えぇぇぇぇぇっ?




