21.てっぺんよりも大事なこと ①
昔話をひとつしよう。
悪ガキだった。
筋金入りのクソガキで、三度の飯より喧嘩の生き方だった。
あの日までは。
とにかく一番強くなきゃ嫌だった。強いと噂のある奴とは、片っ端からタイマン張って倒してきた。
あの日までは。
親父の仕事の都合で、生まれ育った町を離れ、中1からこの街に住んでいる。入学式からガンガン攻めて、ガンガン昇り詰めていった。
俺にとって、この引っ越しは、人生でたった一度、親父に心から感謝した出来事だった。俺を地獄から拾い上げ、再び高みを目指すチャンスを与えてくれた。
中2の時、学校超えて、そこいら一帯の誰が真のナンバーワンなのか、話題はいつもそれだった。俺は絶対的に自信があった。なんとなく周りも俺だろなって雰囲気だった。
3年生も俺が廊下を通れば、道を開けて、通り過ぎるまで、微動だにしない。
それでも、てっぺん取りてぇアホが時々挑んでくる。まあ瞬殺だが。
ますます俺の名前は知れ渡るようになっていき、気軽に挑んでくるアホも闘ってみてぇと思えるような奴も減っていった。
やがて「ツートップ」という言葉を時々耳にするようになった。
どうやら俺のように、挑んでくるアホを片っ端からボコってる奴がいるらしい。
何となく名前くらいは聞いたことはあったが、面識はなく、どの程度強いのかは全く知らなかった。
そもそも俺の名前が知れ渡るにつれ、「そこいら一帯」の範囲も広がり、だんだん、聞いたことない中学の見たことないアホを瞬殺するようになっていた。
そんな中、何となく名前を聞いたことあるんだから、そいつは立派なもんさ。
噂が本当なら是非、やり合ってみてぇもんだ。
ある日の学校帰り
その日は、朝から、腹の調子がイマイチで、とっとと家帰って、クソして、寝たろと思い、足早に帰りたい気持ちをぐっと抑え、俺に付いてイキって歩く雑魚どもに、クソもれそーなのがバレないように、いつも通りゆったり堂々と歩いていた。
そこに現れたんだよなー、噂の奴が。
間がワリぃ奴!!今日じゃねーだろ!!
うわっ!やる気満々じゃん。しかもこいつなかなか強いな。
百戦錬磨の俺は、相手の目を見れば、だいたい力量がわかった。
こいつは本気でいかねーと、こっちもやばいな。
けど、今日の俺は本気でいけねー。それどころじゃねー。クソがしてー!
どうする、俺!
敵に背を向けるなんてことは出来ねー。
かといって・・・う~ん・・・く、くそ・・・クソしてー!!!
周りも、はやし立て始めた。世紀の闘いの目撃者になる興奮が伝わってくる。ギャラリーは、どんどん増えていった。
引くに引けねー!
どうする俺!
その時・・・俺の傍らに・・・小4の俺が寄り添うように立っていた。
視線を落とす俺。
ちっちぇーな。こんなにチビだったんだな俺。
ずいぶんイキってたけど、ただのガキじゃねーか。
俺の学ランの肘のところを引っ張って、俺を見上げる小学生の俺。「忘れてないよね?」って聞いてきやがる。
「ああ。」 と、不愛想に答える。俺の方が大人げないな。
忘れるはずないさ。忘れたくても記憶にこびりついてるぜ!まるでクソのようにな!!
俺は帰る。絶対帰る。家に帰る。逃げるんじゃねー、帰るんだ!!
あの日の誓いには決して背かねー
こんな可愛らしいガキを二度と悲しませたりはしないぜ。
再び視線を下に落として、俺は、小さな俺に優しく微笑んだ。安堵の表情を浮かべる小4の俺。
「なにがおかしいんだ!」
何となく名前を聞いたことあるそいつがイラついてすごんできた。
「なに下むいて、ニヤついてんだ!」
イライラMAXのそいつ。
俺と小さな俺のハートフルな時間を邪魔してくるとは、なんとセンスのない奴だ。俺は強くてもセンスのない奴は嫌いだ。一気にこいつと闘いたいという気持ちが冷めた。だから逃げでも、強がりでも、はったりでもなく、自然に言葉が出てきた。
「俺は来るものは拒まず、去る者は追わない。喧嘩したけりゃ応じるし、
逃げたやつを追っかけてまで、ボコったりはしない。
お前が望むならいつでも相手になる。
ただ・・・」
ゆっくりやさしく言葉をかけた。
「ただ、 ただな、 俺の相手になるレベルになってから、来てくれ。
俺はいつでもいいから。
待ってるよ。 そういう日がくることを。
健闘を祈る。
じゃ、 気をつけて帰れよ。」
俺はそう言って、いつものようにゆったりと歩き、去っていった。
そして、家に着いたら、ダッシュ!
便所ー!!
間に合ったー!!
便所の隅で嬉しそうに俺を見る小4の俺。
約束は守ったぜ。
あの日の約束。
そう、あの日の約束、、、、、




