20.成功者
「あの、、、、」
「どうした?リョウ。」
「LINE交換してもらえますか?」
「ああ、もちろん。連絡方法があるのは、ありがたいよ。」
一番世話になってるユウさんと連絡先を交換してないのはどうかと思っていた。仕事的にも、一緒に釣りに行ったりするプライベートの時も、何かと連絡には不便を感じてた。俺がそう感じるぐらいだから、ユウさんは、もっと不便だったと思う。
でも、誰かと連絡先を交換することが、今の俺にはハードルが高かった。それで、なかなか言い出せずにいた。
ユウさんは、たぶん、俺から言い出すまで待っててくれたんだと思う。
そういう人なんだ、ユウさんは。
だから、居心地いいし、信用できる気がする。
そのユウさんより先に割り込んできたのが、あの親子だ。あの派手派手母娘が登録されていて、ユウさんが登録されてないって、おかしいよなっ、絶対!
追加されたユウさんのプロフィールの背景画像を見て、なんか心が和んだ。ほんのり白っぽいオレンジに染まった空に、顔を出した太陽だった。
ほっこりする日の出だなあ。
それから、いつものように、買い出しや、掃除をした。
掃除が終わって、店のテレビをつけて、流れてくるワイドショーをなんとなく、中途半端に見ながら、一つ一つ丁寧に、グラスを磨き始めた。
ユウさんは料理の仕込みをしていた。
すると、ワイドショーはある人物の特集を始めた。「密着」ってやつだ。なんかすごい人に密着して、いかにすごいかを深堀りする的な。
最近、よく、テレビやSNSで見かける熱血塾講師だった。
子供の頃は、やんちゃで全く勉強ができなかったが、ある時勉強に目覚め、ひたすら勉強して、一流高校、一流大学へと進み、独自のメソッドで、塾を開講し、その効果がすばらしいと評判を呼び、今じゃ、受験生とその親に大人気。メディア出まくりのおっさん。
ドラマの設定とかにありそげな、絵に描いたような、成功者だった。
番組では、その成功者の次なる野望も語られていた。
誰でも、どこでも、いつからでも、学びたいことを存分に学べる場所。ネットの世界に理想の学校を作って、あらゆる人に質の高い教育を提供し、日本の頭脳の底上げと、専門性をより濃く追究できる理想の教育を目指すとか。
すばらしい理念だ。少し前の俺なら、羨望のまなざしで、このおっさんを見ていたかもしれない。
でも、今はこういうサクセスストーリーだとか、ハイスペック人間とかをどこか冷めた気持ちで見てしまう。
同時に、心の片隅で、うらやましく思う気持ちがゼロではないことにも、気づいてしまう。
かと言って、何がしたいのか何ができるのか、何も浮かんで来ない、何もない、何者でもない自分には、冷ややかな目で見る資格も、うらやましく思う資格もないような気がする。
ユウさんは、こういう人を見て、どう思うんだろうな。
「この人最近、よく、いろんなとこに出てますね。」
「ん?ああ、そうだな。なんか、すごいらしいな。
うちのお客さんの中にも、子供がこの人のメソッドで受験勉強して、
合格したって言ってた人、いたな。」
「本当ですか?ただ、子供の出来が良かっただけなんじゃないですか?
この勉強法をやった場合とやらなかった場合を同一人物で試せないじゃ
ないですか。」
「まあな。
でもまあ、これだけ注目されてんだから、何らかの努力は一定以上
やってるのかもな。
その方向性や努力の仕方が正しいかどうかは、俺にはわからないけどな。
少なくとも、現時点ではたくさんの人が認めてるってことなんだろうな。
このまま、本当に、素晴らしい教育環境を作っていったとしたら、
すごいだろうな。
それを正しく見極める目が俺にあるかと聞かれたら、俺にはないな。
ただ、願うだけだ。」
「願う?何を?」
「ありとあらゆるものの幸せかな。」
「う~ん。なんか、深いような、浅いような。」
ユウさんは、苦笑いした。正確には苦笑いっぽい表情だった。
何とも言えない、ぴったりくる言葉が見当たらない、そんな表情だった。
その日は、最後の客が帰るまで働いた。日にちが変わって、夜明け前に帰宅した。
最近、仕事が早番になった母親を、仕事から帰った俺が起こしてやることが増えていた。
その日もちょうど、母親が起きるころの帰宅になったので、母親を起こすために、部屋をのぞくと・・・度肝を抜かれた。
なんと、母親がミミちゃんと仲良く寝ていたのだ。
はあ?
母親は、図々しく遊びにきたミミちゃんを家にあげ、すっかり仲良くなって、お泊りまで・・・
謎の、三人での朝食
出勤前で仕事モードONになった母親
朝からハイテンションのミミちゃん
疲れて眠い俺
勘弁してくれ・・・・。




