2.生きていたかったんだ ①
最後にぐっすり眠れたのはいつだったか。
思い出せないくらい眠るのが辛い日々が続いてる。
だけど、起きているのも辛い。だるい。
何をするのも、重い。だるい。
もう五日風呂に入ってない。ありえない。
きれい好き、風呂好き、潔癖症の俺が。
夜は長風呂、朝はシャワー。下着は一日二回着替えてた俺が。
何もしたくない。
じっとしているのが、苦手で、とにかく体を動かし、よくしゃべり、忙しいのが大好きだった。
ひとりは苦手。大勢でワイワイガヤガヤが大好きだった・・・
ひとりでいたい。
暗い部屋で、ただただ、じっとしていたい。
とにかく、だるい。
息するのさえ
生きるのさえ
高校はやめた。仕事は長続きしない。今は職なし。
信じた人には裏切られた。というより、最初から騙されてた。
気づかぬ愚か者だった。
何もせずになんとか少しばかりの小遣い稼ぎがしたくて、大切な相棒を差し出した。
大事にしていたバイクだ。バイトして、中古の原チャリ買って、カスタマイズした。
そのバイクを1回500円、もしくはタバコひと箱で貸し出した。
出庫・入庫は必ず我が家まで。配達・回収は致しません。ガソリンは満タンにしてお返しください。というルールで。
相棒はみるみるうちに汚れ、傷ついていった。俺の代わりに働かせたせいで。
そのおかげで、引きこもったまま、最低限の金とたばこを手にした。
だけど、ルールは、破るためにある。
かわいい娘からの依頼があると、配達も回収もした。
本当にバカだ。何かを期待してというわけでもなく、ただただ、カッコつけたいという、無駄に高いプライドが、ますます自分を愚かに、無様にしていた。
配達に行かなきゃ。ギャルが待ってるからな。
気だるい体にムチ打って起き上がる。なんとか自分を奮い立たせ、バイクにまたがる。
エンジンの音が好きだ。
自分のバイクのこの低い音が、一番心地いい。
久しぶりの外の空気。
冷たい風が気持ちいい。
気持ちいい・・・
眠い・・・
眠いって感じたのは、どれぐらいぶりか・・・
意識が遠のく・・・
あれ、今、何してるんだっけ?
飛んでる、体が。
熱い! 滑ってる、身体が!
やばい!電信柱!
とっさに身をかわす。
顔面ギリギリに電信柱で、身体が止まった。
ギリセーフ!
バイクは?
はるか先に倒れたバイク。
事故ったんだ。
なんで?
頭がもやっとして、よく思い出せない。
痛い!怪我?
思うように身体が動かない。
ここどこ?
まったく人気のない通り。
寒い・・・・
た、助けて・・・
「誰かー 助けてください!」
自分の大きな声に驚いた。最近まともにしゃべったことがなかったから。まして大声出すようなこと全くなかったから。
まだ、こんな大きな声出るんだ、俺。
・・・知らなかった。まだ、生きていたかったんだ。
生きていてくれてありがとう
生まれてきてくれてありがとう