19.まいごのまいごの子猫ちゃん
ユウさんに拾われて、ユウさんのBARで働くようになって、少しずつ何ていうか、まともな生活を送れるようになってきたというか。
働いたり、食事したり、ぐっすり眠れたり、お笑い番組を見て面白いと思えたり、、、、。
少し闇が少なくなったというか。気持ちが軽くなったというか。
バイク事故の後、LINEも消して、携帯番号も変えた。誰にも干渉されたくなかったから。そして、新しくインストールし直したLINEに友だちが登録されてないのや、電話の連絡先リストに誰もいないのを見ると、不思議と寂しさはなく、むしろ安心した。
とにかく、毎日、少しずつ何かをゆっくり焦らず、積み上げているような感覚だった。自分を立て直すというか、作り直すというか。
それでも時折、ものすごく重たい暗いものが突然、のしかかってくる。苦しくて、闇に引き込まれていきそうで、息苦しくなる。
そういう時に気持ちを落ち着かせる方法を最近会得した。とてもシンプルで、手軽で、なかなか効果もある。それは、散歩だ。
散歩なんて年寄りのやるもんだと思ってた。だけど、これがなかなかいい。
事故でバイクを廃車にしてしまった俺の移動手段は自転車と歩きがメインになった。それで、気が付いた。歩くって、いいな。闇を遠ざけてくれる。
歩くスピードで物事をみて、感じて、自分のペースで呼吸して。
木とか草とか花とか、虫とか、今まで気に留めなかったものが、見えてくる。
自然だけじゃなく、造作されたものも面白い。信号とか、道とか、橋とか、ビルとか。
特に、家は面白い。平屋、二階建て、三階建て、ボロ屋に豪邸、昔風、今風、大きな窓や小さな窓・・・。
どんな人がどんな想いで建てたのか?
持ち家?賃貸?
小さい洗濯物が干してあれば、子供のいる家庭なのか?
大量の洗濯物が風になびいていれば、大家族を想像してみたり。
時には、センスを疑うような、奇抜な外観の家も。どんな奴が住んでんだ?
メンタルのための散歩が趣味にもなりつつあったある日、散歩に出かけようと、家をでると、迷子の子猫に出くわした。
ミミちゃんとの出会いだった。
俺ん家の前で、泣きそうな顔で突っ立ってる、結構かわいいギャル。
だけどやたら、ピンクな子で、玄関開けて、秒で引いた。
猫の耳みたいなのが付いたピンクの帽子かぶって、ピンクのスカート履いて、ピンクのバック持った、得体のしれない子に「何か、用っすか?」と尋ねてみた。
「ミミちゃん、スマホおうちにわすれたの。」
ん?それ、何か俺に関係ある?忘れたなら取りに帰れば。
しかも自分のこと、ミミちゃん呼び。まじ、ないわ。
「はあ。そうなんですか。」
「ミミちゃんのおうちわかる?」
はあ?まじか?初見の俺に自分の家聞くって、だいぶネジ緩んでないか?
「いや、ちょっと、わかんないっすねー。」
「ミミちゃんのおうちしらないの?」
もう、今にも泣きだしそうなくらい、目の中、涙MAX!!
俺が泣かせたみたいじゃん。やめてくれ~。関わりたくねー。
なかったことにして、スルーして、散歩に行くか。このままもう一度、家の中に戻るか?うわっ、めっちゃ俺のこと見てる!
「ほんとに、わかんない?ミミちゃんのおうち。
ピンクのやねのおうち。
ピンクのポストもあるよ。
ときどき、ピンクのくまさんがドアのとこにすわってるよ。」
ん? 散歩中に、そういう家見たことあったな。
センスを疑うような、どんな奴が住んでんだって思った家・・・。
迷子の子猫ちゃんが住んでたのか。・・・納得。
確か、こっから、東へひたすら真っ直ぐ行ったとこに、パン屋があって、そっから道幅が狭くなって、さらに東に真っ直ぐ行くと、古め、ボロめの家の多い、住宅地があって、その一番奥にひと際目を引く奇抜なピンクの屋根の家があったな。
うん。郵便受けもピンクだった。確かに、ピンクの熊も見たことあるな。絶対そこだろ。てか、ひたすら、真っ直ぐじゃん。どう迷うんだ?
「ここから、東へひたすら、真っ直ぐ、30分ほど歩けば、
パン屋があるから。で、さらに東へ5分ほど行けば、
ピンクの屋根が見えてくるから。」
「ミミちゃんのおうち、しってるの?
わーい。ありがとう。
つれてってー。」
は?真っ直ぐだぜ。迷いようないだろ。・・・・迷いようないのに、迷ってんだよなあ、まいごのまいごの子猫ちゃんは・・・・
・・・・ああ、なんで?結局、俺、迷子のギャルの世話してるし。
しっかし、何が楽しいんだが、ニコニコよく笑う子だなー。
さっきまで、泣きそうだったのに。
「いいか。もう、迷わないように、よく周りをみて、時々振り返って、
景色を覚えるんだ。目印になるものをいくつか覚えるんだ。
コンビニ。」
「コンビニぃ」
「ガソリンスタンド」
「ガソリンスタンドぉ」
「スーパー」
「スーパーぁ」
「ちゃんと覚えてるか?」
「ちゃんとおぼえてるかぁ」
絶対、覚えてないな。
俺何やってんだ?こんなキャラ、俺にあったっけ?
ないよな。たぶん、ユウさんの影響だな・・・フッ
「はい、パン屋」
「はい、パンや。
あー、パンやさん。
おいしいパンやさん。ミミちゃん、ここでバイトしてるの。」
「まじ?」
「うん。パンかいにきてね。」
「あ、ああ。
で、ここから、細い道な。」
「で、ここから、ほそいみちな。」
「ぼちぼち見えてくるぞ。」
「ぼちぼちみえてくるぞ。
あー、ミミちゃんのおうち!!
ありがとう!
えーーっと、おなまえ?」
「ああ、リョウ。」
「あありょう?」
は?
「リョウ!」
「リョウくん?」
「そうだよ」
「リョウくん、ありがとう。」
「ミミちゃん!!」
「あ、ママー」
感動の再会してるじゃん。母親も派手だなー。しかも、何かイカツイな。うわっ、車もピンク!元ヤン確定だな。
この時俺は気づいてなかった。一生懸命、ミミちゃんに、道を教えながら、送っていったことで、ミミちゃんは俺の家までの道を覚えてしまったのだ。
そして、娘を助けてくれたということで、元ヤンのママに気に入られ、LINE交換までする羽目に。無理無理~と心は叫んでいたが、元ヤンのママの圧はすごい!
新しいLINEの初めての友だちが元ヤンで、二人目がミミちゃん。
どういうこと、これ?
わーい、あたらしいおともだちできたー。
あした、おうちにあそびにいこうっと。




