13.生きていたかったんだ ③
あちこち傷だらけの俺は、夜が白々と明け始めるころ、病院を後にした。
父親を名乗る知らないおっさんの後を何故だかついて歩いた。
父親は死んだと母親から聞かされていた。
まさか嘘つかれてるってことはないよな?
まだ小っちゃかったけど、かすかな記憶あるし、葬式みたいなのしたような。
お墓もあるし、仏壇に位牌もあるよな!
てことは、やっぱこのおっさんは他人だよな!
親戚?いやいやいや、ないないない!
通りすがりの親切な人?
命は助けても、父親は名乗らないだろ、普通。
誰?
で、なんで俺、ついて行ってるの?
おっさんも俺も意味わかんねー!!
おっさんが振り返って、
「とりあえず、うちの店来るか?
朝一で業者が空調直しに来ることになってるから。」
何のことだかわからないけど、頷いてついていった。
BARみたいなとこに着いた。室内とは思えないほど、寒かった。
おっさんがココアを入れてくれた。人生で一番おいしいココアだった。
これをきっかけに、謎だらけのおっさんの店に出入りするようになった。
おっさんの名前はユウさん。客がそう呼んでた。
俺もいつの間にかユウさんと呼ぶようになった。
そのうち、ほぼ入り浸るようになった。
昼間は、掃除や買い出し、仕込みを手伝ったり、夜は、知り合いの息子が遊びに来てるという体で、法律を遵守していることにして、店にいた。
だけど実際は、酒作ったり、つまみ出したり、普通に働くだいぶグレーな18歳未満だけど。
ユウさんは、俺が居たけりゃ、いくらだって居ていいし、いつだって自由に出入りしていいぞ。と言ってくれた。しかも、バイト代を払ってくれた。
嬉しかった。働いて、働いた分の正しい評価の金がもらえる。すごく嬉しかった。搾取されることなく、もらえる。
なんか、俺の存在を認めてもらった気がして、嬉しかった。
いや、何より俺自身が自分の存在を認められる気がして、嬉しかった。
ユウさんは仕事だけじゃなく、いろんなことを教えてくれた。
自転車のチェーンの外し方、はめ方、手入れの仕方。パンクの直し方。
バイクの磨き方。押しがけの仕方。
釣りにも時々出かけた。港でのちょっとした釣りだが、結構釣れた。
鯵や、鯖や、カワハギ。どれもかわいらしいサイズだが、南蛮漬けにして、店で客にサービスとして提供すると、なかなかの評判だった。
ユウさんと過ごす時間は楽しかった。
「父親と息子」ってこんな感じなのかな?って、海に垂らした釣り糸を見ながら、ぼんやりと考えたりすることもあった。
つまり、わかったことは、俺は事故って、見知らぬおっさんに助けられた。
その人の名前はユウさん。
BARのマスター。やさしいおっさん。
たぶん、この人は本当にやさしい人。騙したりしない人。
夢の続きを見てるみたいだな。
もし、あの時引き留めていたなら、
もし、ずっと一緒にいたなら、
こんなふうに、息子と過ごしてたのかなあ。




