報告1
ねえ、君、聞いているかい?
落とされる私。
普通の生活をしている中で、パラシュートも無くスカイダイビングをする様なシュチュエーションに陥る事は・・・あまり無い。
眼下は雲に覆われ、遠目に地上を見る事も出来ない。
嗚呼、これは死ぬヤツだ、とてもとても嫌な寒気が私の全身を包んでいる。
それは物理的にも、気持ち的にもだ。
普段着のシャツとスカートが、千切れそうな勢いでバタバタと揺れ、物凄い悲鳴にも似た音を立てている。
まあ、風の音が邪魔でそれすら聞こえる事も無いが。
ジワッと背中から徐々に広がる冷や汗と涎と、涙と鼻水、私の穴という穴からドバドバと出てくる液体群を気持ち悪く感じながら、この状況を如何に受け入れるか思案する。
流石に漏らしてはいない。
断じてな。
抵抗か・・・受け入れるか。
うん・・・・まだ、生きていたいな。
少し前は死んでもいいかなって。
そう考えてた事もあったけど。
やるべき事があるんじゃないか?
そう考えた。
まだ、私。
笑っていたいな。
馬鹿な事をして、面白おかしく。
私はまだ
笑い足りていない。
徐々に速度が緩くなる。
バタバタと音を出していたシャツはボタンこそ数個すっ飛んではいたが、問題は無いだろう。
私は落ちるのをやめバンジージャンプ状態だった身体を起こすと、ゆっくり下着が露わになった衣装を直し、袖でひどい事になっていた顔を拭い、スカートの中にシャツの裾を入れハイウェスト気味になる迄スカートを上げる。
下着が見えてしまいそうにはなるが、見ている者は少ないだろうから、大丈夫だろう。
どうせ、いつか・・。
「・・・・はぁ」
グチャグチャになった黒く艶やかな髪をゴシゴシと乱雑に纏めると手首に付けていたヘアゴムで括り、ツルの部分に繊細な細工が施された眼鏡をグイッと中指で顔を覆うように上げる。
履いていた靴は脱げてしまった様で、黒いストッキングが露わになってしまっていた。
「安物だし、別にいいけどさ・・・」
バサッバサッ
鳥?
上空何メートルだか知らないが、こんな高所に何が居るっていう訳?
見上げると、月明かりに照らされた異形の化物が大きな翼をバタバタとばたつかせ空中に留まっていた。
まず印象的なのは大きな翼ではあったが、その根本には、鳥では無く、人間とも、なんとも言えない、異形がくっついていた。
「魔害物・・・」
「グゲゲッゲゲッゲッゲ」
嘴のような口が開くと魔害物は私を指差し腹を抱えて下卑た笑いを上げる。
「何がそんなに可笑しいんだか」
「・・・・ニンゲン、オマエ、シヌ、ニクオレンオモノ」
「知能はあるのね、でも対話は無理そう
そういう契約っぽいから、面倒臭い。」
刹那、私の周囲に紋様が浮かび上がり、細い糸の様な物が私に纏わりつく。
「ちょっ!」
身動きが取れない事は無いが、明らかに敵意のある相手を前にこの状態は危険かも知れない。
「ゲッゲゲゲ」
人を小馬鹿にした笑いは相変わらずだ。
笑い終えると、魔害物は空中に円を描くとそこに胴体からしたら短めな手を突っ込むと槍の様な武器を空中から取り出し装備する。
「空間魔法だなんて、唯の魔害物じゃないのね、、種族名は何だったかしら、、、。
えっと
ガー、、
嗚呼!
ガーゴイル!!」
使い魔だったけ?
悪魔だったっけ?
どっちでもいいか、やる事はおんなじだし。
「でも、残念」
突き出したガーゴイルの槍は私に届く事無く、私の手前で何かに突き刺さるように止まった。
ガーゴイルの顔に困惑の表情が浮かぶ。
「ナンデ、ニンゲン、ヒトツ、マホウ」
「私、普通じゃ無いから、ゴメンね」
「グゲェ!!」
苦悶の表情を浮かべ、ガーゴイルはパッと槍を手放し、私との距離を取る。
手放した槍はボロボロと焼け落ちる薪の様に炭化し灰になり風に飛ばされ消えてしまった。
ガーゴイルは自らの手を平を交互に見ながら痛みを堪えている様に見える、歯軋りの音が聞こえそうな表情だ。
いい気味。
「あら、火傷でもしちゃったかしら?」
私の余裕の表情が、ガーゴイルにプレッシャーを与える。
因みに私の身体から糸の様な物は消えている。
ガーゴイルの精神力が弱まったせいだろうか、魔法の効果が無効化してしまったようだ。
「オマエ、マジョ?
ニンゲン、チガウ?」
「私は、正真正銘のニンゲン、ただ、ちょっと他人より強いだけ」
「チョット、チガウ!!
ニンゲン、ヨワイ!!」
「あら、人間って、意外と強いのよ、私みたいなのはごまんといるんだから」
「ウソ、ニンゲン、ショクリョ
「もういいわ」
ガーゴイルが一瞬動きを止めると、身体の中心から
ボッ
と火が上がりそこを中心としてガーゴイルの体が炭化し、パラパラと風に飛ばされて行った。
「んんんんん〜
さて、私も帰らないと、明日も早いのよね」
女がグッと伸びをすると、身体は赤い光に包まれパッと消える。
まるでそこでは何も無かったように。
実際何も無かったのかも知れない。
『紅蓮の魔女』
異名持ち
世界に100人ともいないSSS冒険者の一人である
悠樹 華名