現状の確認とリリアーナの思惑
「リリ、この世界のことを、お前が知る範囲でいいから教えてほしい」
リリアーナから聞けた話をまとめるとこんな感じだ。
最初にリリと出会った海がテドラシカ王国南に大きく広がる青の海グランオーシャン。
便宜的にとりあえず向かうところはテドラシカ王国。
テドラシカ国王の北には森林地帯と長く険しいテドラシカ山脈がある。
山脈を越えると神聖ゴート帝国領。
東には新興の獣人国家を中心とするラシアーナ連邦。地域首長クラス含む、幾つかの国が集まっている。
西は、地域紛争が断続的に続き、地名や街の名、首長が短期間で変わるような不安定な地域らしい。
そのほか、種族ごとの小国家、小集団はさまざまあるらしいが、ひと種の世界のことはリリの興味の外だったようで、ある程度しか認識していないようだった。
そもそもひと種以外にも多種多様な種族に溢れた世界、それがジュノーなんだろう。
リリによると、どの種族がどんなチカラを使うのかなど、ある程度しかわかっていないし、ひと種だけをとっても各国の国家機密の範疇な場合もあり、多くは開示されていないとのこと。
一般的に知られているのは、世界は陽、龍、精霊、闇が存在していること。ノーマルなひとを含む、獣人、エルフ、ドワーフなどのひと種は“陽の世界”、魔物、冥界の住人は“闇の世界”、精霊は“精霊界”、龍は“次元界”という区分けになっているそうだ。
混沌の時代と呼ばれる、4つの世界がそれぞれに入り乱れていた時代から、現在に至るまでの研究にしても乱立する推論が多く、また種族や国家特有の秘匿事項もあり、ひと種の文献が、現在までの歴史を多少記しているに過ぎない。
魔法や魔術、体術、方術、占星術、武術など、各種の解説の文献なども種族それぞれの秘匿事項となっているものが多く、また口伝によって伝えるようなものあり、その全貌を体系的に記したものはなさそうだ。
陽に区分される種族の中、とりわけ凡庸さが目立つノーマルのひと族だけは、個人の力ではなく集団としての力を磨き上げ続けたようだ。集まり、国を起こし軍事力を拡大して獣人、エルフなどの各種族との長い戦いの歴史を積み上げた結果、現在の安定した状況となっているようだが、軍事的なバランスが崩れてしまえば、いつまた戦乱の時代に入るかわからない。
各国それぞれが、自国を守るための戦力の確保に躍起になっているという点では、現在も水面下の争いは熾烈を極めているということだった。
「精霊たちは、ひと種に対して敵対してるのか?」
リリアーナはため息をつくと
「ひと種が我らに危害を加えない限り敵対はしない。そもそもひ弱なひと種になど興味はない」
バッサリと切って捨てるような言い方が凛々しくもあり怖ろしくもあるが、精霊たちの本音なのだろうと得心するものがあった。
・・・
リリアーナは、このひと種への興味が大きく膨らんでいた。
ひと種風情がリリアーナたち精霊を見ることができ、その上、干渉するすべを持つとは。
特質すべきは闇の攻撃を完全に無力化したこと。あのときの威力は、正直リリアーナ以外は消滅していてもおかしくなかった。
たぶん闇の中でも上位の存在がリリアーナたちへの先制攻撃を仕掛けるべく、極秘裏に動いていたに違いない。海域の守護である我々に大打撃を加えるべく、複数の眷属に自らの力を与えていたのだろう。
あの攻撃を無力化され、闇の眷属も消滅されたことで、いくら上位の存在であっても、闇の力を蓄えるために当分は自由に動けまい。
それにしても、あの雷の嵐を霧散させたときの、あやつから立ち上がった神威を感じるような存在は一体なんだったのか…。
リリアーナは後ろを歩くひと種に震えるほどの畏怖の念を抱いていた。
「積年の望みを叶えるためにも、我らのためのチカラにしなければ…」
リリアーナは固く決心すると、口元を引き結び前を見つめる。
・・・
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