王都への帰途。敵多し。
「ハル、我々の頼みを聞いてもらえないだろうか」
アルカディアは続ける。
「実は…王都まで馬車で戻ろうと思うのだ。来るときに使った“転移の魔法陣”は使わずに…な」
「…なぜです?」
へー、そんな便利なものがあったのかと思いながら問い返すと、そばにいたリンドガルドが口を開く。
「今回のことに関して、あまり考えたくはないが…国内のそれなりの地位の者が関わっておる可能性は否めない。それに・・・転移後に多勢に無勢で襲われれば、対処のしようもないだろう」
リンドガルドのあとを受け、アルカディアは続ける。
「それに…王都までの行く先々で、有力な貴族の様子や動きを、直に確かめておきたいのだ。すでにワシがミットガルドに来ていることは知られているしな」
国王が転移魔法陣を使用した場合、魔法陣と同期する、クインテットアイに列する5家のみが持つ魔石が光り、ある程度の場所まで含めて知らせる仕組みなのだという。
国王を守るための“セ◯ム”的なシステムなのだろうと思われた。
「特に“ルミナスの倅”には用心せんとな…」
「そうか…2年前から“ドラグマ”の守護はルミナスの息子だったな」
リンドガルドは、そう呟きながら窓側に視線を移す。
ハルの耳にも遠雷が聴こえた。
・・・
テドラシカ王国は、王都である“エリダウ”に王宮を構えるテドラシカ王室と建国以前より王室を支え、親族関係でもあるクインテットアイの5家、建国以降、国家運営の実務面を築いた新興貴族を含めたセプテットソードの7家、あわせて、12家を中心に国家運営を行なっている。
クインテットアイに列せられるのは・・・。
ベアリング公爵家
ベンジャミン公爵家
ヴァロア公爵家
ラッセル公爵家
クローリー公爵家
以上の五家であり、王室と共に国家を支え、王室への意見具申など行える家柄。
セプテットソードに列せられるのは・・・。
ルミナス侯爵家
ストロング伯爵家
アイザック侯爵家
ブルックス伯爵家
オルレアン辺境伯家(西の守護)
アシュレー辺境伯家(南の守護)
ポートマン伯爵家
以上の七家。
セプテットソード七家は、それぞれ文武の得意技能を伸ばしつつ、国家運営の重要職を担う家柄。
テドラシカ王国は王都を中心に、さまざまな歴史的経緯を経て領土を広げてきたこともあり、それぞれの貴族が所有する領地も独自の発展を遂げていた。
前述の12家に関しては、国王といえども敬意を払うべき名家であり、ある意味では都市国家のような側面を持ちはじめていることもまた事実だった。
・・・
「あのジジー、どんだけ敵を作っていやがるんだよ…」
「王位継承は、いつの時代でもドロドロの権力闘争ということなんじゃろう…」
これだからひと種にはウンザリなんじゃと、ため息をつくリリアーナ。
彼女の視線の先には、遠距離から放たれた水の刃でバッサリと切断された暗殺者の集団と魔物数匹が倒れている。
暗殺者の出現は、王都帰路中すでに2回、ミットガルドの件を合わせると3回を数える。王都までの行程は残りひと月。まだまだ気の抜けない旅路となりそうだった。
「まあ、これほど襲われるとなれば、国王には結構大きめの恩を売れることになるだろーから、せいぜいこの煩わしさを利益に変えるとしよーぜ」
「野党のセリフみたい」
ロレーヌが呟くが、リリに見つめられ首をすくめる。
「ひと種の奴隷風情が主人様に苦言を呈するとは…死になさい」
チリチリとした空気が漂う。
「申し訳ございません!」
ロレーヌは跪きガタガタと震えるが、リリの視線はさらに冷たくなる。
「…いいでしょう。考えてみれば、お前は常に主人様のそばに仕え、肉の盾だけではなく、雑用含めいつ何時にもお役に立たねばならない身」
リリの魅惑の瞳がキラリと輝く。
「ふむ、よかろう…妾がどこに出しても恥ずかしくないように、きっちりと仕込むこととしよう。喜べ」
「い、いえ! そんなことは…!」
「おー、そりゃ良かったな。ステキなアイデアだ」
面倒臭い展開になる前に話が済んでよかった。オレは満面の笑みでロレーヌの肩を叩く。
「大精霊様の直々の指導を受けられるなんて、望んで叶うよーなことじゃない。オレの奴隷になってよかったな」
アハハッと笑いながら、呆然と佇むロレーヌと無表情のリリを残し歩き出す。
「面白いことなってるのね。楽しそう、クスクス」
オオカがふわりと現れ、リリとロレーヌを見つめる。
「国王の馬車を監視してる目は四つだね」
サクネが目の前に現れ、不意に話しかけてきた。危うく蹴躓きそうになるが、実体がないので避ける動作は不要なことが多い。
とはいえ、はっきり見える分、なかなか慣れないし、実体ありな場合もあるから、ぶつかることもあり、厄介この上ない。
「危ないなー、突然近くに出てくるなよ」
「ふ、その前に無様で滑稽な貴様自身を恥じるべきでは?」
また、どこかで聴いたような厨二ちっくなセリフに苦笑しつつ、オレは、はいはいと手を挙げる仕草。
「監視してるのはどんな奴らだ? 背後関係とか、何かわかったことは?」
視覚共有せずにサクネだけの監視の方が、対象の音声まで拾えて有益なことがわかり、近頃は全方位監視と分析鑑定などはサクネにすっかり任せていた。
「1つ、さっきの暗殺集団の監視役、2つ、どこぞの貴族の密偵、3つ、魔族の野次馬、4つ…はボクらだね」
「なるほど…暗殺集団の監視役ってのは、どこかに連絡してたのか?」
「短文通信用の道具で、やりとりはしてるみたいだね…うーん、相手まではわからないな」
・・・
お読みいただきありがとうございます^^
次回は本日午後4時更新です。
✨お願い✨
もし今後も“読みたい”と思っていただけたら、
⭐︎をすべてチェックしてもらえると
昇天するほどの喜びと励み満ちあれること
間違いなしです。
何卒よろしくお願いします。




