新章 辺境伯領ミッドガルド
辺境伯領“ミッドガルド”。
リンドガルド辺境伯領の中心であり、辺境伯の居城を中心として大きく発展した城郭都市。
辺境独特の暴力と猥雑さを内包しつつも、夢と希望を包括し、未来を醸し出す街でもある。
スタンピート事件から、すでに20日が過ぎ、辺境伯領は日常を取り戻していた。
鎮圧部隊と行動をともにし、しばらくの間、この街に滞在することになったハル一行。
依り代と混じりあった記憶があるものの、基本的に異世界での日常は何から何まで珍しく、見るもの聞くものすべてに感心することしきりのハル。
「水芸〜♫」
ぴゅーと勢いよく、水が細い金属の棒から飛び出す。
「リリ、これ見てくれよ! この何の変哲もない棒から、水が出るんだぞ。しかもキレイな音と一緒に」
よくわからない不可思議な音色とともに、水芸よろしくシュバッと水を操る。
「ハル、そんなことより、これからどうす・・・」
バシャッと突然水をかけられキョトンとするリリアーナ。
「どー? リリの青の海も真っ青だろ? 青だけに〜笑」
「…」
このあと、青の海を馬鹿にされたとリリアーナが錯乱したことにより、リンドガルドにあてがわれていた宿屋がほぼ半壊してしまう残念な出来事が起こるのだが、それはまた別の機会に話したいと思う…作者ため息
・・・
「なにをやってくれているのだ、貴様は!」
リンドガルドの怒声が室内に響く。項垂れるハルバート。
「申し訳ございません」と何度も呟くのみ。
そんな姿をニヤニヤしながら眺めるミライ。針の筵のような時間が流れていく。
「そろそろ、本題に入ってもよい時間ではなくて? お父様…」
質実剛健な作りの大きな扉が開き、凛とした声が執務室に響く。
「おぉ、カテリーナ! お前からも厳しく言ってくれ。このたわけがワシの顔を潰しておってからに…」
「はい、そのお話は後ほど…ということで」
と苦笑いを浮かべつつ話題を転換するカテリーナ。
彼女こそ、辺境伯領の次期領主となるリンドガルドの長女カテリーナ・シルフ・アシュレー。領主就任に関する名代は、すでに王都から出立済みであり、近日中には城下街での盛大なパレードが行われる予定となっている。
スタンピートが無事に鎮圧され、数日後にはパレード開催と、めでたいこと続きの辺境伯領ということで、ミッドガルドの街全体が祝賀のムード一色となっていた。
・・・
「あー、めっちゃ怒られたぞ、リリ」
「…知らん」
リリアーナは、未だに不機嫌なままである。悪ふざけが過ぎたかと、少し気を使うハルだったが、そろそろ今後のことについて話ておかなくてはならない。
「さて、リリさんや、そろそろ今後のことについて話をしよーかと思うのだが…」
「…」
「リリさんや、こっちを向いておくれよ」
「…お好きなようにどうぞ」
「あら、いやだ。そんな冷たい口ぶりだなんて」
「…」
そんな不毛なやりとりを続けているころ、テドラシカ王国を取り巻く事態は風雲急を告げる展開となっていくのである。
・・・
お読みいただきありがとうございます。
新章が始まります。次回更新は18日0時です。
次回予告。
ミッドガルドにやってきた王室名代はなんと・・・
みたいな展開です。
次回もお楽しみいただけたら望外の喜びです。
今後ともよろしくお願いします。




