ピザ、空を飛ぶ。
ある日、ピザは思った。
空には何があるだろう、と。
私は気が付くと、見慣れた石窯にいた。
燃え盛る炎の中で、思考を浮かび上がらせる。
何故私は灼熱の空間に身を置いているのか。
それが何故なのかはわからないが、時間の経過によって己の身が完成されていく感覚に、運命を悟る。
そうだ、私は食べられる為に生まれたのだ。
理解はできないが、納得した。
では、私はどうするべきなのだろう。
空を飛ぼう。
瞬く間に、無駄、の一文字が思考を過ぎる。
食べられる為に生まれたのに、そのような考えを持つ必要などある訳がない。
そもそも何故飛びたいのだろう。
私が飛んだところで何かが生まれる訳がない。意味がない。
そう、これは「夢」にも満たない何かでしかないのだ。
ああ、なんとも無駄な考えをしてしまった。
火花散る石窯から運び出され、板の上に乗る。
近くからみえる、仲間の輝き。
今日のパスタはいつもにも増して美しく感じた。
遠くから鳴り響く、ガラスたちの共鳴。
それと共に、実際には聞こえもしない騒がしさが、私の身体を包む。
さて、今日はどんな風に食べられるのだろうか。
6等分、8等分。もしかしたら丸かじりかもしれない。
身体が板と共に持ち上げられる。
等間隔の揺れを感じつつ、テーブルという名の舞台に招かれていく。
ふと、いつもと違う感覚を感じる。
その瞬間、私は驚愕した。
板の奥から迫る驚嘆の声を背に、自分を乗せた板から離れていく。
己の身体が、まるで空に吸い込まれていくかのように浮かんでいるのだ。
これが、空なのか。
ああ、空には何もないのだな。
一瞬で諦めた空を、この身に一瞬で感じ取っていく。
このままずっと飛んでいきたい。
なんてすばらしい場所なのだろうか。
そんな幸せを噛みしめながら、意識は闇へと沈んでいった。
「お客様、申し訳ございません!今すぐ新しいピザをお持ちします!」
一つの夢と引き換えに、その身は見るも無惨な姿に変わってしまったのだった。
感想くれるときっとピザも喜びます。