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100人に選ばれました

作者: ハイブリッジ万生

ある人に褒められました。


誤字脱字等あれば報告していただけると有り難いです。




「おめでとう御座います、100人の中に選ばれました」


ん?何だ今のは?


俺は眠い目を擦りながらベッドの横に置いてある携帯を見た。


おかしい、迷惑メールフィルターが掛かっているはずなのだが。


いや待てよ、そもそも、音声で案内する設定にしてたっけ?


いろいろな疑問が頭に浮かんでは消えたが取り敢えず携帯を確認した。


すると、そこには銀色に輝く何かを着た何者かが映っていた。


え?TV電話?なんで?


こんなコントの宇宙人みたいな格好をする人間に知り合いはいないはずなのだが……。


「おめでとう御座います、あなたは百人の中に選ばれました」


もう一度、よくわからない祝辞を頂いた後に思い至ったのは、恐らくドッキリだろうという結論だった。




しかし、だとすると不審な点がいくつかある。


どうやってセキュリティの高いこの部屋に入り携帯に細工できたのかと言う事。


もう一度携帯をマジマジと見て自分の携帯かどうかを確認した。


前に落として付けたキズもちゃんとあるし、もし、ドッキリだとしたらとんでもなく手がこんでいると言える。





色々な可能性について考えたが、どうもどれも非現実的な事に思い至る。


俺は今の状況が現実かどうか確かめる意味も込めて部屋についている呼び鈴を鳴らした。


呼び鈴と言っても大きな音がなる訳ではなく屋敷全体の至るところで呼んでいることがわかる様になる仕様なので執事のセバスチャンかメイドの誰かが気づいて来てくれる筈だ。


しかし、ややしばらくたっても何の反応もなかった。


俺は少し焦りを感じはじめた。


「おめでとう御座います、あなたは100人に選ばれました」


また例の意味不明な祝辞を受けたあたりで腹が立ってきた。


俺は意を決してその銀色の奴と話をする事にした。




「おい、なんのつもりか知らないが詐欺なら間に合ってるぞ」


「詐欺ではありません」


「じゃあドッキリか?どこのTV局かしらんが許可した覚えはない、事と次第によっては訴える事になるぞ」


「ドッキリではありません、それに、TV局には誰もいないと思いますが」


「は?なぜ?」


「選ばれなかったからです」


「選ばれなかった?」


そう言えば、こいつはずっと選ばれたとかなんとか言ってたな、どういう意味なんだ?


「何に選ばれなかったんだ?」


「選別です」


「なんの?」


「人間の」


え?人間の選別?


じゃあ、こいつは人間ではないって言ってるのか?


「おい、面白いドッキリだな」


「ですからドッキリではありません」


「いやいや、そんな安い宇宙人の衣装で騙されるものか」


「いえ、あなたが見ているのはあなたが考えつく未知の生命体の概念を具現化したもので、それが陳腐ちんぷに見えるという事はつまりあなたの発想力がちん……」


「まてまて!なんでそうなる!ヘンテコ宇宙人!」


「宇宙人ではありません」


「じ、じゃあなんなんだよ」


「ある意味地球人です」


「はあ?」


「驚くのもむりありませんがずっと地球に住んでいました」


「どこに?まさか地底とかか?」


「いえ、地上に」


「しかし……」


「今まで同じ地球上に居ましたがこちらからはあなたがたは見えていましたがそちらはこちらを見ることは出来ない様でした」


「なぜ?」


「次元が違うので」


「は?次元が……違う?」


「そうです、つまり宇宙人ではなく異次元人です」


俺は絶句した。








異次元人だと?


あれか?三次元の先の四次元のアレだな?


そうそう、わかるわかる……


「わかるかボケィ!」


「どうしました?突然大声をだして」


「い、いや何でもない、すまない」


「いえ、大丈夫ですよ、私達は皆、温厚です。文字通り次元が違うので」


「はぁ、なんか腹立つけど。その……温厚な異次元人が俺に何の様なんだ?選別ってなんだ?俺はこれからどうなる?」


「質問が多いですね」


「当たり前だろ」


「まず、選別というのは文字通り選んで分けたのですこの世界に住むべき人間を」


「住むべき?じゃあ他の人はどこへ?」


「もはやこの世界にはいませんねぇ」


「はあ?じゃあこの世界には選ばれた百人しかいないのか?」


「そうなります」


「ふ、ふふふ、ふはははは」


「おや、もう壊れました?」


「壊れてない!面白いから笑ったんだ!」


「そうですか……残念、何が面白いんです?」


「そりゃ、笑うさ!こんな茶番を笑わずに居られるか!……ていうか、今残念て聞こえたけど」


「そうですか、信じてもらえませんか」


「おい、誤魔化すな」


「ではこれを見てどう説明されますか?」


いきなり、壁一面に画面が垂れ下がっている未だ市場には出回っていない6Kのテレビ画面が文字通り大きく映し出された。


垂れ下がっているというのは紙のような薄さなのでそう表現するしかないのだ。







「なんだよ、なんの変哲も無いスタジオが映っているだけじゃ……」


そう、言いかけてその異常さに気がついた。


たしかに、お昼の番組でよく見るセットが映っているだけだ。


しかし、誰も座っていない。


それより、問題なのは、こんな放送事故みたいな画面がずっと流され続けている事実。


本来なら、コマーシャルに変わるか、もしくは「しばらくお待ちください」の画面になっているはずだ。


俺はチャンネルを次々と変えてみたがどれもこれもセットだけ。


「これで、信じてもらえましたか?」


テレビ画面を観ながら俺は呼吸が荒くなっているのを感じていた。


俺は堪らずテレビを消した。


「いや、まだだ、まだ信じられん!」


「おや、疑り深いですねぇ」


「当たり前だ!」


俺は取るものもとりあえず部屋を飛び出した。








「おい!誰か!誰か!」


俺の声はホールの様な高い天井に反響して虚しく返ってくるだけだった。


窓に駆け寄って外を観た。


いや、だめだ、こんな中途半端な確認じゃ何もわからない!


俺は未だにテレビ局の考えた壮大なドッキリである可能性を捨ててなかった。


車庫に入って水素自動車のエンジンをかけた。


これも市販されていないタイプの自動車だが水を分解して酸素と水素に分けそれを燃料にエンジンが回る仕組みであり、つまり燃料は水だ。


これを持ってるのは世界でも数人で日本では恐らく俺だけの筈だ。


とはいえ、別段環境に配慮している訳ではなくただ新しい物が好きなだけなのだが。


フィーーーン


水素自動車の特殊なエンジン音を楽しむ余裕もなく俺は街へと向かった。


出来るだけ人が居そうな場所へハンドルを切った。





俺は信号機を守りながら走っていたが、途中から馬鹿らしくなってやめた。


もし、信号無視で捕まえにくるおまわりさんが居たら喜んで捕まりたかった。


それでも街で事故を起こしている車を見るたびに心が踊った。


野次馬根性ではない、もしかしたら人が居るかもしれないと思ったからだ。


しかし、多重衝突している車が煙を上げていても救急車も来なければ警察も来ない。


それどころか野次馬も居ない。


突然ドライバーだけいなくなった車がそのままどこかに突っ込んだ様子だ。


街中でクラクションが鳴ってる。


まるで、主人を失った車が其処此処そこここで泣いている様な音だ。


ドォーーーン


突然どこかで爆発音がした。


おそらく、車から流れた燃料に引火でもしたのだろう。


しかし、救出する必要はない。


誰も乗っていないのだから。


俺は何も考えられなくなり暫くポカンとその光景を眺めていた。


選ばれた……か。


どちらかというと取り残された気分だった。







ブォン


俺が暫く水素自動車を道路の真ん中に停めて誰も居なくなった街を眺めていると、突然目の前にディスプレイが現れてさっきの異次元人の姿が映った。


「ハローハローこちら異次元人調子はどう?」


異次元人は陽気に手を振った。


「………」


「おや、随分と落ち込んでるみたいだね」


「………」


「そんな君に朗報がある」


「……は?」


「同じ境遇の人達と会いたくないか?」


「本当か?」


「もちろん、君が望むなら」


「当たり前だ!望むに決まってるだろ!」






気がつくと目の前に扉が現れてドアを開けてディスプレイでみた異次元人が顔を出した。


「どうも」


「ど、どうも」


「行きますか?」


「ど、どこへ?」


「円盤のような…」


「円盤?」


「怖いですか?」


「いや、行く!」


こんな所で一人でいたってどうにもならない。


「では、参りましょう」


異次元はうやうやしくドアを大きく開いた。


ドアを抜けると……


そこは東京ドームだった。


「え?東京ドーム?」


「はいその通り」


異次元人はクククッと笑った。






「まさか、ここに集まった100人で殺し合いをしろとか言わないよな?」


「まさか、そんな野蛮な事はしませんよ、前にも言いましたが我々は温厚なので」


「温厚?だとしたら居なくなった人間を戻してくれ」


「それは出来ません」


「なぜ?」


「居なくなったものを元に戻すには時間を戻さなくてはいけません。我々のテクノロジーでは空間を歪めて、近道を作ったりするのが精一杯なのです。ま、更にテクノロジーが進んでも時間を戻すなんて事が出来るとは思えませんけどね」


「そこをなんとかするのが科学者だろ」


「それは科学者というよりロマンチストですね」


「……まぁ、いい」


「御理解痛み入ります」


異次元人がたまにうやうやしい態度になるのは日本の文化を間違ってインプットしてるのかフザケてるのか判然としないので怒れない。


「じゃあついでにもう一つ聞いておきたい」


「なんでしょう?」


「何故俺なんだ?」


「はい?」


「無作為に選んだ訳ではないだろう?」


「ええまあ」


「理由を言えないのか?」


「まぁ、言っても良いですけどちょっとしたクイズにしましょう。貴方と同じ様に選ばれた人々がこの扉の向こうに居ます」


「なるほど、その人たちを見て予測しろって事か」


「察しが良いですね」


そう言って、異次元人は高級ホテルのドアを開ける様に扉を開けた。






中にはザッと100人ほどの雑多な人間たちが集められていた。


男女の比率は男性が多い。


どちらかというと年配の人が多い。


テレビで見かける様な有名人がいるかと思えば誰だかわからない人もいる。


子供は皆無。


あれ?よく見ると日本人しかいない様な気がするが…。


「あの」


「なんでしょう?」


「悪い、全然わからない、それに日本人だけの様な気がするんだが」


「そうですか、じゃあ教えましょう、ここにいるのは、日本で一年間の稼いだ金額を上から並べていった時の100人です」


「な、なんでそんな理由で?」


「人って本当に千差万別で優劣がつけられないでしょう?」


「……は?」


「つまり知力、体力、魅力、センスなど、それぞれどの優劣で選別するかで迷ったんですよね」


「はぁ」


「色んな意見が出たあとに面倒になって、結局経済力がその人の力って事で良いという結論に至ったんですわ」


「ま、まて!海外にはもっと稼いでる人間がいるはずだ!」


「そこまでやると、我々のテクノロジーではちょっと追いつかないんですわ。ま、実験上として島国の日本が一番やりやすかったのでね。それで日本人しか居ないんですわ」


「じ、じゃあ日本人以外の国は無事なんだな?」


「それは、ちょっと教えられません。しかし、安心して下さい。間違っても戦闘機が飛んでくることはありませんから」


「つまり……隔離されてるって事か?」


「まぁ、ぶっちゃけそういう事になりますね」


「なんの為に?」


「それも、教えられませんね」


「何だそれは!答えになってないじゃないか!」


俺はつい大声で抗議してしまった。


集められた百人の何人かが俺と異次元人に気がついた。


「あら、アレって佐藤椎作さんじゃない?」


「え?誰それ?」


「ほら、長者番付ってテレビでよく出てる」


「新進気鋭のベンチャーなんとかって」


「え?うそ?あら、ほんとうだわ!テレビで見るよりいい男じゃない?」


気が付いた女性陣がドッと俺の前に押し寄せた。


「佐藤椎作さん!来ると思ってました!」


「サインください!」


「リーダーになって!」


「いや、リーダー的存在になって!」


「いや総理大臣に」


「それを言うなら王様でよくない?」


女性陣は口々に勝手な事をまくし立てた。






「ちょっと待てや」


そう言い放った男はチャラ男というのがぴったりの服装で他の人々から明らかに浮いていた。


彼も選ばれたって事は稼いでるのだろうか?


有名人でもなさそうだし、一見どこにでも居そうな若者に見えるが……。


「どうしました?」


俺は努めて冷静に応えた。


こんなある種特殊な状況下では何が引き金で争いに発展するかわからない。


どうやら異次元人の狙いは殺し合いをさせるなんて物騒な意図はない様だし、だとするとこれから何をするにしても人数がいた方が良い。


仮に意見の違いで分裂する事があったとしても抗争なんてのは文字通り自殺行為だ。


なにせ百人しかいないのだから。


既に我々は絶滅危惧種になったのだ。






「あのさぁ、有名人か何か知らんけどさぁ、後からノコノコやってきてリーダーとか、王様だとかさぁ、ちょっと虫が良すぎるんじゃない?」


男はこちらに戦意がないと判断すると薄ら笑いを浮かべてそういった。


「いや、もちろん、俺は自分からリーダーになりたいとは言ってない。リーダーに相応しい資質のある人が居れば……」


「あの」


そこで、年配の男性が口を開いた。


「ここは1つ年功序列で決めるべきじゃないかね?今までだってそういう日本の良い伝統の上に粛々と…」


「いや、ちょっと待って下さいよ、今は非常事態ですよ。年が上とか下とか言ってられないでしょう」


そう言って話しに割って入ったのは体格のガッチリした男だった。


確かこの人プロゴルファーの猿……猿山さんだったか?


「ええと、では猿山さんでしたっけ?あなたはだれがリーダーに適任だと?」


「やはりこう言った非常事態には女子供を守れる体力でしょう?どうです?腕相撲大会で決めるっていうのは?」


猿山は如何にも自分が勝ちそうな案を提示してきた。


「いやぁ、それよりやはり選挙をやった方が…」


「いや、結局は統率力だと…」


「いやいや、古き良き日本の伝統を…」


皆が口々に喋り出すので収拾がつかなくなってきた。


「あの、わかりました、わかりました皆さん落ち着いて……」


パーン


俺がみんなを宥めようとしていると乾いた破裂音がドームいっぱいに鳴り響いた。


一気に静かになった人々は音の出所である一人の男を観るなり固まった。


先程のチャラ男が拳銃を上に向けて発砲した後不敵な笑みを浮かべていた。


「お前らうるせぇ」


男はそう言って99人を睨みつけた。







「……おい、馬鹿な真似はやめろ」


「は?馬鹿な真似?どこが?それって警察や社会が機能していた時のセリフだよね?今この状況で馬鹿な真似をしてるのは明らかにお前だと思うが」


「もし、その拳銃でここの誰かを殺したら窮地に陥るのはそっちだと思うが?」


「なんで?」


「他の人達が黙ってない」


「そうかなぁ?そんな正義感たっぷりのやつがここにいるかなぁ?」


「どういう意味だ?」


「なぁ、あんたらなんで選ばれたのか聞いたんだろ?だったらわかるだろ?金の為なら身内でも売り飛ばす、そういう奴らの集まりだろう?」


「い、いや。そんな事はないぞ」


「そうかい?俺は最初からズッとあんた等を観察してたけどね。身内が居なくなったってのに悲しむ奴が一人も居ないってのはなんでかね?」


「そ、それは……まだパニックになってるだけで」


「パニック?パニックになったやつがノコノコあのへんちくりんな奴の言う事を聞いてここまで来るのか?」


「それは、状況判断が早いだけで…」


「そう!状況判断の速さ!ちょっと異常だよね?自分らで自覚した方が良いよ。無自覚なサイコ野郎は見てて気持ち悪い」


「まて、だとしてもお前も一緒だろ」


「おれ?当たり前だろ、俺は犯罪者なんだから」


ひぃーという悲鳴が女性陣の中から上がった。





「犯罪者?」


「あぁ、そうだ。有名な詐欺グループのまとめ役が俺だ」


どうりで一人だけ浮いていると思った。


「そうか、しかし、やはりお前が不利な事には、かわりがない」


俺は目一杯余裕の表情で言った。


「数の有利か?たしかにな」


「わかったらその銃を……」


「やだね、そりゃ、俺がここに居続ける場合の話だろ?」


「まさか一人で生きるつもりか?自殺行為だぞ」


「いや、一人じゃないさ、パートナーは必要だろ?アダムとイブみたいに」


男はそう言うと一人の壇蜜みたいな女性を手招きした。


「ふ、ふざけないで!」


女性は声を荒げた。


「フザケてないさ」


男は薄ら笑いを浮かべて彼女に近づいた。


「おい!やめろ!」


「やめさせてみろよ」


ブゥん


男がそう言い終わる刹那、何かの駆動音がした。


次の瞬間男は足から崩れていった。


「な、何を……」


俺は懐に忍ばせていた物を取り出した。


それはリモコンの様な形をした何かだった。


「これ何かわかる?超電磁場発生装置これで君の耳の中にある耳石を浮かせたんだよね。立てなくなったでしょ?」


「なん……だそれ、聞いたことない…」


「当たり前だよ。まだ市販されてない発明品だからね」


「さすが佐藤椎作博士!」


女性陣の中からそう声があがった。


「あんまり、博士って言われるのは好きじゃないんだけどねぇ。ベンチャーサイエンサーと言ってくれたまえ」


俺はいつもテレビで言ってる様にそう見栄を切った。





それから10年後.......







「いやぁ、どうもどうもどうですか?景気は?」


畑を耕している俺の前に突然スクリーンが現れて見覚えのある陳腐な姿が映し出された。


「……」


「あれ?お忘れですか?若年性の…」


「何しに来た?」


「つれないですねぇ。久しぶりの再開の第一声がそれですか?」


「……用がないならどっかいけ」


「つめたい!」


「どうしました博士?!」


遠くで男がこちらの異変に気がついて大声で叫んでいる。


10年前は拳銃を振り回していたがスッカリ丸くなって今では俺の助手の様な立ち位置に居る。


「いや!なんでもない!そっちの収穫を急いでくれ!」


どうやら向こうからはスクリーンが見えないらしい「わかりました」といきのいい返事と笑顔が帰ってきた。


人は変われば変わるもんだ。


アレだけ暴れていた男も、添加物のない自然な食生活と大自然の中で生きるとまるで好青年の様な人格に変わるらしい。


「おい、用事があるなら早く済ませてくれ」


俺は皆に気付かれない様に小声で異次元人に話しかけた。


「いやぁ、実験終了のお知らせを…」


「はぁ?終了ってなんだ?どういう意味だ?」


「そのままの意味ですが」


「俺を……俺達を消すのか?」


「え?どうしてそう思うんです?」


「俺達以外を消しただろ!あの日!」


「え?そう思ってたんですか?やだなぁーそんなことしませんよ。言ったじゃないですかぁ」


「……なにを?」


「温厚だって」






「は?じゃあ、あれは?どういう意味だ?」


「なんです?」


「消したものを元には戻せないって」


「消したものを戻せって言うから出来ませんて言っただけですよぅ」


「はぁ?」


「もともと消えてないから戻すも何もありませんよぅ」


「なんだそれ……じゃあ、セバスチャンや他のメイドとかも?」


「はい、消えてません」


「何処に?何処にやった?」


「ええと……彼らを何処かにやったと言うよりは、あなたがた百人だけ違う世界に来てもらったんです」


「え?」


「言ったでしょ、我々のテクノロジーでは世界中を変えるなんて無理。せいぜい日本くらいだって」


「確かに」


「あの日。あなたがた百人だけを我々が選んでこちらに来てもらったんです。日本をコピーした別の次元にね」


「はぁあ?!じゃあ日本は?!」


「ありますよぅ普通に、あなたがたの様な優秀な人達が居なくなっても文明レベルは下がりませんでした。逆に優秀なあなたがたの方が……」


「当たり前だろ」


「え?」


「文明も財力も人の数が変化したものだ」


「なんだ、実験する前に博士に聞けばよかったですねぇ」


「まぁな」


「あれ?怒ってないので?この実験は無意味だったかもしれないのに」


「いや、ひとつだけ意味があった」


「へぇ、なんです?」


「空がこんなに青いって事に気がつけたよ」


「……博士」


異次元人は感動の面持ちで言葉に詰まっているように見えた。






しばらくしておもむろに口を開いた。


「じゃあ、戻らなくても良いんですね?」


「それとこれとは話が別だ」




END






















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