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試作・続

少し山を登ると開けた広場のような場所に出た。


広場の隅に案山子が何本か立っている。


「……ここも変わってねえな」


周囲を見渡しながら思い出に浸る。


ここは昔、俺がまだ幼いガキだった頃師匠によく訓練をしてもらっていた場所だった。


師匠は身寄りがない俺の事を自分の子供のように気にかけ、可愛がってくれていたが訓練の時だけは鬼のように厳しかった。


『そんなではお前は誰も守れんぞ!』


それが師匠の口癖だったっけか。


「じゃあここからあの真ん中にいる案山子を狙ってくれる?」


カメリエは一番背の高い案山子を指さし望遠術を発動させると、そいつとにらめっこを始めた


「あいよ、ちょっと待ってな」


手順を思い出しながら魔弾を装填する。


まずボルトを起こし後ろに引く。


次に排莢口の窪みに弾を束ねている金属板を差し込み弾を中に押し込む。


最後にボルトを元に戻し空になった板をはじき飛ばして装填は完了だ。


「遠くてよく狙えんがとりあえず真ん中を撃てばいいか?」


装填が終わり、銃を構えながら尋ねる。


「ど真ん中狙っちゃって。あ、データ欲しいからちゃんと魔弾は全部撃ってね」


「分かった、じゃあ撃つぞ」


ゆっくりと引き金を引く。


瞬間、耳をつんざくような爆音と急に襲い来る反動で少しよろめきそうになった。


「なんだこいつは、こんなに凄まじいものだったか?」


以前撃ったことのあるオリジナルの弾丸より明らかに威力がおかしい。


「残念~、大外れ」


ケロッとした表情でカメリエは弾があらぬ方向に命中した事を教えてくれる。


「これはなかなか手ごわいぞ……」


思わず弱音をこぼしてしまう。


全弾撃てるか不安になりながら排莢と装填を行い再び狙いをつけ引き金を引いた。




山中に爆音が立て続けに鳴り響き再び静かになる頃には俺は耳をやられ、ふらふらとする体を銃を杖の代わりにして何とか立っている状態だった。


未だに頭の中で音が響いているような感覚がする。


「どうなってんだ、前に撃った時はこんな事にはならなかったぞ」


頭を押さえながら呻くとカメリエが申し訳なさそうな顔で謝ってくる。


「ご、ごめん、おじさんなら上手く扱えると思って壊れない限界まで威力を高めてたの……」


「いや、気にするな。少し驚いただけだ」


そんな顔で謝られては責める気にもなれない。


「にしてもあれだけの大きな音の中でよく平気でいられたな」


カメリエは爆音の中終始平静な様子だった。


「まあ、音は術でシャットアウトしてたからね。おじさんはこういうの慣れてるもんだと思っていたけど様子を見るに相当大きかったんだね……ほんとごめん」


どうやら魔術を平行して発動させていたらしい。


彼女はしれっと言ってのけたができる人間はそうそういないかなり高度なテクニックだ。


「次は威力控えめで頼む」


「はは、了解」


俺が真剣な顔で言うとカメリエは苦笑いをした。


「さて、もうこんな時間だ、そろそろ帰ろう。晩飯も出来上がる頃だろうしな」


辺りは徐々に薄暗くなっている。


近場とはいえ早く山を下らないと危険だ。


「大分暗くなってきたね~、そうだ! ちょっと試してみたい事があるんだけどいい?」


ワクワクしたような顔で腰のポーチから魔弾を1つ取り出す。


その弾頭はぼんやりと白い光を放っていた。


「なんだそれは、もう爆音と反動はこりごりだぞ」


そそくさと帰路につこうとするとカメリエがすがりついてくる。


「ちょ、ちょっと待ってよ~! 1発、1発だけだから! お願い! ね? ちゃんと防音術かけるから~」


潤んだ赤褐色の瞳が必死に訴えてくる。


「はぁ……。仕方ねえな、少しだけだぞ」


根負けした俺は結局付き合ってやることにした。


「で、そいつは一体何なんだ?」


「これはね、灯光術を込めてあるんだ」


実験に付き合ってくれると知ったとたん嬉しそうに話し始める。


「灯光? 部屋の照明とか街灯に使われてるアレか? しかし光っても結局遠くに撃ち出すんだからあんまり意味ないだろ」


そう言うとカメリエがちっちっと指を振る。


「いやいや、遠くに撃つからこそ意味があるんだな~。ま、実際にやってみてよ」


半信半疑で弾を受け取り指示通りに進行方向の斜め上に銃を構える。


反動の事を考えて銃床は肩ではなく地面につけておくことにした。


引き金を引くと発射の反動でわずかに腕が震える。


「……! …………!!」


隣で何か言っているが防音術のせいで何も聞こえない。


「おじさん、そら! 空見てみてよ」


俺が何も聞こえていない事に気づいたカメリエは術を解除し、空を見るように促してきた。


上を見上げると小さな球体が光りながら浮いている。


光は徐々に明るさを増し、あたり一面を昼間のように照らし始めた。


「おぉ、これは凄いな。まるで小さな太陽のようだ」


思わず感嘆の声を上げる俺を見て彼女は満足そうな表情を見せる。


「我ながらいい出来だね。流石は私。さ、これで明るくなったし安全に帰れるよ」


上手くいってご機嫌なのかどこか浮かれた足取りで山を下るカメリエの後をついていく。


「なあ、灯光術ってあんなに明るかったか?」


通常の灯光術はぼんやりと周囲を照らす程度のものだ。


仮に強力な術が使えたとしても魔力結晶は原料となる水晶の関係で一定以上の魔力は込められなかったはず。


つまりあの明るさは普通は出せないのだが……


「あれは私が作った特別製なのだよ。詳しく聞きたい?」


カメリエが説明したそうにうずうずし始めた。


まずい、これは話が長くなるパターンだ。


「いや、今日は遠慮しておく。また今度聞かせてくれ。それより飯だ。昼から何も食ってないから腹が減ってしょうがねえ」


気にはなるが話をそらす為にあえて興味なさそうに答えると頬を膨らませ不平を垂れた。


そんなカメリエをなだめながら足早に村へ帰る。


遠くからオオカミの遠吠えが響いてきた。

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