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幻想(その思い)  作者: 富幸
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新たな旅立ち

 僕達が喫茶店を出ると、横から出て来た四人に声を掛けられ細田綾子が

「貴方達、待たせたわねぇー、良い話に成ったの」

 すると今田と高田が僕を離れた所に連れて行くと今田が

「おい原田、ミス美山に言い依られて、話が付いたか」

「友達に成ったよ」

「友達、唯それだけか」

「そうだよ」

「バカかお前は、男と生まれて女から迫られて、友達だと、どこを押せば、そんな返事が出来るのだ。味噌汁で顔を洗ってこい」

「そうですよ、先輩、女性から告白する事なぞ滅多に有りませんよ」

「でもね、福島さんも友達で良いと」

「原田、悪い事は云わん、もう一度ミス美山と話をして、恋人として付き合え、それが女性に対する礼儀だ」

 僕は、今田と高田に尻押しされたが彼女も細田綾子と橋本末子に問い詰められていた。

「福島さん貴方、原田さんと友達で満足なの、貴方原田さんの事大好きでしょ」

「えぇ好きです」

「だったら友達よりも恋人として付き合いなさい。その方が自然よ」

 僕と彼女は、四人に迫られ再度喫茶店に入ると四人の前で恋人として付き合う様に、約束させられた。すると今田が

「よし、これでよし、これで二人は恋人同士だ。証として我々の前でキスをしてもらおう」

「おい、おい今田それは無いだろう」

「なに原田、嫌か、先程約束した事は嘘だったのか」

「嘘ではないけど、ね」

「だったらお前福島さんとキスは嫌か」

「嫌では無いけど」

 「お前は、良いんだな、福島さんは、どうですか原田とは嫌ですか」

「私ですか、私は原田さんが良いと言えば構いません」

 僕は、彼女の言葉を聞いて吃驚した。吃驚したのは僕だけでなく四人も彼女の顔を見つめ、その言葉に吃驚したのである。

 まさかミス美山がすんなり了解するとは、思いもつかなかったのである。

 初めから四人は、二人をからかうのが目的なのに当の二人が外野の四人に押されて、その気に成って仕舞ったのである。

 僕は四人に迫られて彼女の前に立ちその細い肩を抱くと、眼を閉じて待つ彼女の唇に唇を重ねた。

 月子は、その瞬間に眼を閉じて居るはずの目の前が真っ白に成った。

 僕と彼女が唇を重ねると勿論四人は、呆気に取られて見ているだけだった。

 彼女は、僕から離れると誰にも聞こえない様な小声で

「思いが叶った」

 とポッリと言い。呆気に取られている四人に

「私、用事が有るから帰るわね。原田さん今日は有難う楽しかったわ」

「うん、又連絡するよ」

 と言って彼女は、喫茶店を出て行った。残された者の内、細田綾子が

「あっーあ、からかう心算があてられちゃった。今田さん私達も遊園地にでも行きましょうか」

「そうだね、俺達もデートとしゃれこみますか、原田お前は、どうする」

「僕は、次の列車で帰るよ」

「そうか、高田お前は、どうする」

 今田の問いに高田と橋本末子は、顔を見合わせ

「僕達は、もう少し此処で休んで行きます」

 すると綾子が

「今田さん、早く行こう、その二人は、映画でも見に行くのよ」

 と今田を引っ張って行った。僕が喫茶店を出て行くと橋本末子が

「ねぇ高田君、私、福島さんがあの様に大胆な人とは思わなかったわ、だって理知的で男嫌いの勉強一筋の人だと思って居たのに、まさか人前でキスをするとは、吃驚したわ」

「僕だってそうさ、まさかあの真面目一方の原田先輩が僕達に云われただけですんなりキスをするとは思わなかったもの」

「ねぇ高田君、あの原田さんってサッカー部と関係有るの」

「僕も今田先輩から聞いた話だけど、原田先輩は、二年生までサッカー部でゴールキーパーをしていたんだって、二年生の時お爺さんが亡くなってお母さんと二人だけになって仕舞ったので部活が続けられない事で退部届を出したけど顧問の先生も部員も全員が認めずに席は残ったままだって」

「お母さんと二人だけって、お父さんは如何したの」

「原田先輩の御父さんは、先輩が小学生の時に亡くなったらしいよ」

「それで原田さんは、帰宅組に成ったの?」

「そうらしいよ、家でも畑仕事から家事までしているらしいよ」

「えっ毎日家の手伝いを」

「そぉ、正し手伝いで無く炊事洗濯掃除に至るまで先輩が全部しているらしい」

「嘘でしょ、学生でしょ、料理もするの、信じられないわ」

「なんでも、お母さんは、喜んでいるらしいよ」

「そうでしょ、私も時々母の手伝いをすると喜ばれるもの」

「えっ君、手伝いをするの」

「少し面倒な時も有るけどねっ、大儀くさい時は、勉強していまーす。と言って逃げるけどね」

「悪い子だ、へへへへ」

「貴方は、笑うけど、貴方は、どうなの手伝いしているの」

「自慢じゃないけど家の手伝いなぞした事無い」

「威張って言う事でもないわね、でも原田さんって凄いのね、あの福島さんとは、お似合いかもしれないわね」

「でも、福島さんも何故原田先輩なのだろう、だって先輩と福島さんは、会うのが二度目でしょ」

「そうね、そう聞いて居るけれど」

「普通二度程会ったぐらいでキスまでするかなぁー、可笑しいよ、あの二人」

「そう言えば、そうねぇー、でも福島さんが片想いと言うから福島さんは、以前から原田さんを知っていたかも知れないわね」

「君も、そう思うだろう、絶対にあの二人は、前から付き合いが有ったと思うよ」

「でも、不思議ね、嘘を言う様な二人では無いのに、又嘘を言う必要もないけど、判んない、高田君もう止めて映画を見に行きましょ」

 そう言って二人は、喫茶店を出て行った。

 僕は、駅の待合室で列車を少し待ったが家に帰った。その日夕食を済ませ早めに寝床に入ったが、中々眠りに付けなかった。

 今日有った出来事が頭に浮かび気持ちが高ぶって寝つけられないのだ。

「何故あの人は、思いがかなったと呟いたのだろう、それより先に何故僕なのだろう」

 そう思うと何が何だか混乱して寝付かれない。それでも色々考えている内に寝てしまったらしい。

 誰かに起こされ眼を覚ますと目の前に白装束の者が居る。

「あれっ」

 と思って後ろを振り向くと僕が布団の中で寝ている。

「あぁ又夢を見ている」

 と思った。すると白装束の者が

「お前様の御蔭で、わしも消滅する事が出来る.ひと事、お礼をと思ってな、お前様も薄々気づいて居ると思うが今日会った人は、月姫様の生まれ変わりじゃ、正し一言だけ言って置くぞぇ、今の人は、生まれ変わりと言っても以前の月姫様とは違うぞえ、生まれ変わった月姫様は、今の世界で育ったのだ。お前様があの人の心に誠実に添えなければ心は、離れて行く事を忘れては成らんぞぇ、わしは、これでやっと消滅出来る。さらばじゃ」

 と言って消えてしまった。その時僕は眼を覚まし起き上がり辺りをキョロキョロして見たが何にも変わりは無かった。

 次の日曜日に、彼女と僕は約束通りデートする事に成り駅前の喫茶店で落ち合った。

 一通りの挨拶が終わった後に

「ねぇ福島さんに聞きたいのだけど、変に取らないでよ、君は何故僕みたいな取りえの無い男と付き合う気になったの」

「私にも判らないわよ、只貴方とこうして会えたり話をしていると楽しいのよ、だってこの間別れてから今日が待ちどうしかったもの」

「僕達って相性が良いのかなぁー」

「そうでしょうね」

「もう一つ聞いても良い」

「言いわ、どんな事」

「それがね、先日ここで別れた時に、思いが叶った。と言ったでしょ、あれどういう意味なの、あれから気に成って仕方が無いんだ」

「えっ、私その様な事を言ったの、全然覚えていないのよ、実を言うとね、貴方と唇を合わせた時に目の前が真っ白に成ってそれから先は、全然記憶が無いの、気が付いた時は、自分の部屋の机に付いていたのよ、それも夕食時に母が呼びに来てよ」

「と言う事は、僕達と別れた事もなの」

「そうよ、私、家まで何処を通って帰ったのか覚えていないし、第一家に帰ったのも覚えていないもの、でも私が帰って来た時には、父も母も居たらしいのよ、私、笑顔で帰って来たらしいわ、帰るとすぐに部屋に入ったので父が止めるのも聞かず母が私の部屋を覗いたらしいのよ、すると私机で頬杖をしてニタニタしていたって言うのよ」

 僕は、笑いを堪えながら彼女の話を聞いて居た。

「それからどうなったの」

「母がね、私の様子を父に話すとね、父は、母さんほぉって置きなさい。月子の笑顔を見るのは、久しぶりだ。好きな男に告白されたか、好きな男とキスでもしたのだろう、月子は、今、幸せの余韻に浸って居るんだよって言うのよ図星でしょ、私両親の顔が見れなかったわ」

 それを聞くと僕は、思わず下を向いて吹き出してしまった。

「御免、御免笑ったりして、君の困った顔を思い浮かべたから」

「そうよ、私も可笑しかったわ、でも父も母も私の事を気づかって呉れている。と思ったら嬉しかったわ」

「でも何事も無しに家に帰れて良かったね、君は、前科があるから心配だよ」

「有難う、やはり貴方は、私の思った通りの人だわ」

「買いかぶりだよ、僕はそれ程気が聞く男では無いよ」

「うぅん、私は、貴方のその様な誠実な所が好きよ」

 僕は、照れ隠しに頭をかきながら

「でも、あの日の事を覚えていないのは、変だねまあ二人共、のぼせていたからね」

「そうね、初体験だもの無理無いわ、ふふふふ」

 彼女は、下を向いて含み笑いをした。その笑いは、照れ隠しの気持ちが溢れていた。

「僕なんか朝方まで寝れなかったんだよ」

「あら私は、逆よ、あの日は、ぐっすり朝まで寝たわよ」

「僕達、変な関係だね」

「そぉ、私は普通だと思うけど」

「いずれにしても、今日が初めて二人で会った日だから今日が僕と君の旅立ちの日だね、よろしく」

 その日から僕と彼女は、恋人同士で歩き始めたのだ。


 月姫の魂に刻み込まれた思いは、たとえ輪廻の渦でも落とす事が出来ないのかも知れない。



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