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無血戦争  作者: 瑞原螢
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エピローグ(仮)

 あの町であった戦闘……、と言うより戦争の事を、政府は『勝利に終わった』と宣伝している。

 ただ、現場にいた人間として言わせて貰えるなら、あれは『恐ろしい敗北』だったとしか言えない。それは、かつてベトナム戦争で米軍兵士が味わった感覚ほどではないのかも知れないが、少なくとも私達は町からゆっくり共を排除出来なかったし、仲間に戦死者も出たし、町は焼け野原となった。

 そして、あのようなゆっくり共が再び現れないとも限らないのだ。

 そう、何一つ、勝てなかったのだ。


 私自身が生き残った事を、『勝利』と言えるなら別だが。



 騒動が収まってしばらく後、カイトは本部組織の一部を残して休眠状態となった。また危険なゆっくり共がどこかの町を占拠したとでもなれば、再び召集、編成されるかも知れないが、少なくとも当分の間は用無しという事だ。

 隊員達は名残を惜しみながらも、それぞれが帰るべき場所へと帰っていった。決して楽な仕事でも楽しい仕事でもなかったが、全員がそれぞれ誇りを持って任務を遂行し、また、仲間を大事にしていたからこその名残だった。


 中尉の階級章を返却した私も、自分の心がある場所――『家』と呼んでも良い――への道を急いでいた。最寄の駅で降り、そこそこの重さのあるスーツケースを引きずって藪沿いの道を進む。

 雪が積もっていないで本当に良かったと思う。いや、雪の季節になる前に、あの町での騒動が収まって良かったと。



「ゆっくりしていってね!」

 突然した声に、私は反射的に身構えてしまった。その声の主は、藪の隙間からでも出てきたのだろうか、いつの間にか私の足元に近づいてきていた子れいむだった。


 あの戦いの中で、れいむ種もイヤというほど見た。少なくとも、一生の内で見たい数よりは多かったはずだ。

 だが、この子れいむは、あの場のれいむ共よりも穏やかな表情をしているような気がする。実際にそうなのかも知れないし、私の気持ちの持ちようなのかも知れない。

 そういえば、あの掃討戦の時に遭遇した子れいむにも似ているような気もする……。


「ゆっくりしていってね」

 緊張を解きながら私が答えると、その子れいむもお約束通りの台詞を返してきた。

「おねえさんは、ゆっくりできるひと?」

 左手でスーツのポケットに残っていた十円チョコを探し当てながら、私はその問いに答えた。

「ゆっくり出来ない人だよ」

 子れいむはビクッと体を震わせた。が、私はそれには構わず、しゃがみながらチョコの包装を剥き、それを子れいむの方に差し出した。

「これを上げるから、どっかヨソへお行き。今度私の前に現れたら、踏み潰すからね」

「ゆ……、ゆっくりりかいしたよ……」

 子れいむは、がっかりしたような表情をしたが、舌の上に乗せてもらったチョコを口の中に入れると、跳ねて私の足元から遠ざかっていった。と、数回跳ねたところでこちらを振り返り、少しばかり大きい声で私に向かって言った。

「おねえさん、ありがとう!」


 こういう個体を、賢くて善良な個体とでも呼ぶのだろうか?と、私は思った。でも、どうでもいい事だと思った私は、それ以上は考えなかった。本当に賢い個体なら、もう二度と会う事はないだろうから。


 子れいむは、藪の中へと消えていった。



 門に近づいた。と、門番……というか、立哨が私の姿を見つけて、その任務らしからぬ声を上げる。

「あっ……、シミズ二尉殿ッ! お久しぶりです! お帰りなさいませ!」

 社交辞令の内なのかも知れないが、嬉しそうな笑顔を浮かべながらシャチホコばった敬礼をしてくれた。

 私が苦笑しながら敬礼を返すと、彼は、忘れない内に、と言わんばかりの勢いでもう一言付け加えた。

「ササキ曹長も先ほどお帰りです!」


――――――――――――――――――――


挿絵(By みてみん)

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