表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/100

2-20 初めての人助け 前編

「昨日は来なかったね。今日も青銅の槍でいいかい?」


 朝起きて朝食を終えた俺は、早速冒険者ギルドを訪れた。

 受付は例のごとくフェデーレさん。

 他にも何人かいるんだけど、慣れてる人がいいよね。

 武器レンタルだが、今日はちょっと別のを借りてみようと思っている。


「すいませんけど、レイピアを見せてもらっていいですか?」

「ほほう、なかなか渋いところをつくねぇ」


 レイピアってのは、突くことに特化した剣だ。

 なんとなくだが、不意打ちで急所をひと突きする俺の戦闘スタイルには、これが合ってるんじゃないかと思ってさ。

 渡された剣は、刃の幅が3cm足らず、長さは1.2mくらいかな。

 結構厚みがあるけど、一応両刃になってるみたいだ。


「刃はあるけど、申しわけ程度の切れ味しかないからね」


 俺が刃の部分をジロジロ見てたら、フェデーレさんが補足してくれた。

 しかし剣身がえらく綺麗だなぁ。


「……これって青銅ですか?」


 青銅っつっても、遺跡発掘なんかで見つかる、青緑な感じじゃないからね。

 金属の配合によっては、金ピカにもなるからね。

 だから見た目で判別するのは、難しかったりするんよ。


「さすがにレイピアを青銅で作るのは、無理があるよ。その細さで、武器としての実用に耐え得る強度をもたせるなら、鋼じゃないと。欲を言えばミスリルね」

「鋼……?」

「そ。ウチのは芯に純鉄入れてるから、鋼だけど折れにくいんだよー」

「えーっと、じゃあレンタル料は?」

「20G」

「……すいません、青銅の槍で」


 もう少し余裕が出るまでは、5Gの槍で我慢だ。


**********


 いつものように、青銅の槍と採取キットをレンタルし、ジャイアントラビットの生息地に向かう。

 とりあえず槍も採取キットも収納庫に置いて、採取ポイントまでは手ぶらで移動。

 MPが700を超えたので、《収納》を使った道具類の出し入れくらいは、楽勝だ。


 今日は本格的に稼ぐつもりなので、薬草採取をメインに、ジャイアントラビットを2~3匹狩る予定だ。

 1時間ほどかけて薬草を集めつつ、ジャイアントラビットの生息地を訪れた。


「あれ? なんか少なくね?」


 なんというか、数が少ない。

 このあたりは、俺が最初にこの世界へ飛ばされた、シェリジュの森に少し近い場所なんだが、どうもウサ公たちは、森からできるだけ離れようと移動しているみたいだ。

 生息地ギリギリのあたりに、10匹ほどかたまっている。


「……ん?」


 いま、微かにだが、悲鳴のようなものが聞こえなかったか?

 たぶん森のほうからだと思うんだが……。


「キャァァ! 誰かぁ!!」


 やっぱりだ! 女の人の悲鳴だ!!

 すげー遠くみたいだけど、聞こえた!!

 とりあえず俺は悲鳴のする方へ駆け出した。


 最初のうちは、悲鳴の位置がどんどん近づいていたが、ある時を境に悲鳴が途切れてしまった。

 嫌な予感を覚えつつも、俺は悲鳴の発生源であろう場所へ急行する。


「……!!?」


 目に入ったのは仰向けに倒れている女性の姿。

 近づいてみると、無残に食い荒らされていた。

 それを見て、心臓が鷲づかみにされたように感じた。


「そんな、うそだろ……」


 胸を押さえ、膝をつく。

 息が苦しい……。

 背筋に悪寒が走り、全身の肌が粟立つようだ。


「ぐぅ……うぅ……」


 吐き気を覚えたが、それはなんとか耐えた。


「なんで、君が……」


 その無惨な死体は、俺を助けてくれた、エルフの女性だった。


 **********


 解体講座でゴブリンやオークなんかの人型魔物を含め、解体を経験していたおかげで、血や肉にはそれなりの耐性はできていた。

 それでも、人間の死体を見るのは初めてだった。

 それが、こうも無残に食い荒らされ、しかも恩人となれば、精神的にはかなりキツいものがあった。


 目の前が暗くなり、音が遠ざかっていく。

 だめだ……、こんなの……耐えられな――、


《スキル習得》

〈精神耐性〉


 ――無機質なアナウンスのあと、これまでの苦痛が嘘のように軽くなった。

 閉ざされつつあった視界は開け、音が戻ってくる。


 ――グルルル……。


 獣のようなうなり声。

 スキルのおかげで少しばかり冷静さを取り戻した俺は、まわりを取り囲むものの存在を察知した。


 ――こいつらが、あの娘を……!


 駆けつけた俺を警戒して、茂みや木陰に隠れていた連中に、どうやら俺も獲物認定されたみたいだ。

 茂みの中から、灰色の体毛に覆われた大型の狼が1匹、また1匹と現れる。


「グレイウルフ……」


 単体討伐難度E。

 ただし、5匹以上の群れになるとその難度はDに上がる。

 茂みから姿を現したのは3匹。

 俺の正面と左右に展開し、囲むように陣取っている。

 しかし、俺の〈気配察知〉には全部で8匹が引っかかっている。

 そのすべてがいま、俺を狙ってるみたいだ。


「……あのときの恩は、必ず返します」


 女性の死体に、そう告げる。


「ぶっ殺してやる……!」


 低く呟き、睨みつける。

 気のせいかもしれないが、俺の視線を受けた正面の個体が、怯んだように見えた。


 収納庫から槍を取り寄せ、構える。

 勝ち目はない。

 それがどうした。

 1匹でもいいから道連れにしてやる。


 〈気配察知〉を全開にし、腰を落とす。


 正面の奴がジリジリと間合いを詰めていたが、右側にいた奴が突然飛びかかってきた。


「おおおおおおお!」


 雄叫びとともに半身をひねり、槍を繰り出した。


「グルァッ!」

「ギャウッ!」


 それと同時に、正面と左側にいた2匹が飛びかかってくる。

 さらに茂みに隠れていた連中も、一気に飛び出してきた。


「ギャ……!」


 ほかの個体などお構いなしに、俺は最初に飛びかかってきたグレイウルフの喉を、槍で貫いた。


《レベルアップ》


 捨て身の攻撃で、なんとか1匹目を倒した。

 ただし、ほかの2匹に対しては無防備になっている。

 1匹は左の太ももを、もう1匹は喉を狙ってきてた。


「ぐぅっ……!」


 太もものほうの防御を諦め、喉に食らいついてきたほうに対して、肘を上げて急所を防ぎ、なんとか前腕を噛みつかれるにとどめることができた。


「いってぇなチクショウ!!」


 俺は槍を離し、左腕に噛み付いている奴に『魔弾もどき』を放つ。

 痛みと怒りのせいで、威力の調整ができず、頭は爆散した。

 顔に返り血やら肉片やらが飛び散ってきたが、気にせず左脚に噛み付いている狼の頭に手をかざし、ふっとばす。

 魔法をなめるなよ。


《レベルアップ》


 仲間の頭がふっとばされる光景にビビったのか、茂みから飛び出してこっちに向かっていた連中が、動きを止める。


「死ねオラァ!!」


 止まったんなら、容赦はしない。

 狙いをつけて『魔弾もどき』を放つ。

 怒りにまかせて魔法を放ち、さらに2匹を倒す。

 魔法を受けたグレイウルフは、身体の一部をごっそりとえぐり取られ、地面に倒れた。

 明らかにオーバーキル。

 しったことか。


 噛まれた太ももからは、《止血》ではどうにもならない勢いで、血がドクドクと流れいる。

 致命傷だろう。

 それがどうした。


 グレイウルフたちも、ただやられっぱなしじゃない。

 ここまでくると動きを見切られたのか、次に狙ったやつは『魔弾もどき』をかわし、そのまま突っ込んできた。


「くっ……」


 目まいによって、回避が遅れる。

 さすがにここまで連続で魔法を使ったら、魔力酔いは避けられない。

 そいつは跳びかかった勢いで、そのまま俺の喉を噛み切って逃げようと思ってたんだろう。


「逃がすかよ」


 それを予想していた俺は、喉を噛まれた瞬間にそいつを抱きかかえた。


「ギャワワッ!」


 俺に締め上げられたグレイウルフは、逃れようとジタバタしているが、もう遅い。

 抱きかかえたままの状態で、両手から魔力を放出すると、灰色の狼は血を吐いて死んだ。


「ごほ……」


 咳とともに、血が口からあふれ出す。


 とりあえず、敵は討った……。

 次は、助ける、から……。


 そこで、俺の意識も途絶えた。


《レベルアップ》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劉備の腹心【簡雍】視点で描くライトでヘヴィな三国志の物語
『簡雍が見た三国志』

1-3巻発売中!
『アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります』
アラフォーおっさん3巻カバー

アルファポリスコンテンツ

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ