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  作者: なたね
3/3

時々くるアレ

どうぞ。




 中心に位置する広場には休日になると多くの屋台や商民の大風呂敷が広がっている。


 フレンルのマーケット。この街(フレンル)にとって一番の熱源でもあるこの月一度は、多くの人にとって大切な一日となる。


 人、商品、金。この世のすべてが行き交うここに来る人にとって買い物だけが理由ではない。


 私たちも、そうだ。


 焦げ臭さや甘さが入り混じった濃い匂いを嗅ぎながら、ミーネは前を進む我が主の背中を見ていた。


 日を受けて輝く髪から狂わない足並みまで、傷一つない佇まいには、彼女が()()()()()()()()を持って生まれたのだという、女としての敬意すら感じてしまう。


 だからこそ、しっかりしなくてはならない。ミーネはそうも思った。


「ユフィイ、今日はお菓子を買っていかなくても良いのですか?」


「んー、いいわよ。どうせ食べるのは私たちだけなんだし。……けど、何かおいしそうなのがあったらそれを包んでもらいましょう」


「ええ。じゃあそうしましょうか。……お元気だといいですね、先生」


「まあね。医者とはいえかなり歳も取ってるわけだし……」


 先生、つまりは()()()()()()を診るためにやってくる医者。

 価格は呼びつける手間賃や旅費を考えても暴額(ぼったくり)で、決して性格もよくはない。

 しかし、ユフィイにとって不可欠な名医であることは間違いでない。


「最近、体の調子はどうですか?」


 一応、医者に会う前に話を聞いておくのは私の役目だ。どうしても男医者に伝えるには、”姫”のプライドが許していないのだろう事柄があるのだ__。というのは本人から聞いたわけではないが、それでも感じる違和を全て伝えきるのにもう一人くらいいた方が良いだろう、というのが三人の見解だ。


「悪くないわ。一度だって不調を感じたことは、この街に来てからない。……病気では」


「怪我も、したことはありませんでしたね」


「怪我しそうなことは大体ミーネがやってくれるからねー」


 そういう私は家事仕事で小さな怪我を時々するので、指先は特に皮膚が厚くなってきた。


 ……かといって、それを残念と思うことはないほどに自分の境遇は恵まれている。


 ともあれ、大きなけがをお互いしなくて済んでいるのはありがたいことですね。ともミーネは思う。


 決して、善人だけの街でないこの地で二人、ユイフェはもちろんのこと私だって生娘なわけであらゆる心配事は否めない。苦労だってたびたび起こる。


 だが、全て可能の範囲だ。



 まあ、もう何年も世話になっている先生……、兼業で呪いも行うその男が最も得意にするのは心の病を和らげることなのでそういった怪我をしても治療してくれるのかは疑問なのだが。



 五体丈夫な私たちが、このマーケットまで医者を呼びよせてまでにそれを求める理由。


 先生曰く。心の傷は(おわったことは)治らない(かわらない)


 不意に恐怖がその身を襲う。まるで悪魔に操られる死人のように、その目に輝きが灯ったところを再び見ることはもう無いのかもしれない。


 あの最後の日から。

 ずっと彼女は、未練の業火で心の鋼を打ち続ける。


‐‐‐


 かるく周りの店を見物して、それからその古びたテントの前にやってくればちょうど昼。約束の時間だった。


「おいしそうなお菓子が見つかってよかったですね、お嬢様」


 


 ミーネがすこし大きめの包みを大事そうに抱えながら、私の後ろにピタリとついてくる。中身は遠くの国で作られた茶葉で味付けした焼き菓子だ。

 小腹を満たすために買ったものだったが、とてもおいしかったために急遽、土産物に抜擢された。



「そろそろお時間ですね、()()()


「……そうね」


 またミーネの悪い()が出ていた。


 あの日も、その前も、そしてあれから、ずっと彼女は私に仕えている。年齢はもとより、身分すら変わらなくなった今でさえ、その()()を忘れない。忘れようとも、出来ないのだ。


「緊張、なさっているのですか?」


 緊張するに決まっている。

 ミーネは、私が守れる最後の家族なのだ。

 だからこそ学び舎に通っている。決して王宮に比べ優秀な教育を受けられるわけでもないが、今得られる最高のものを受け取れる幸福は確かだ。


 武術すら覚えた。それは決して、私にはとても持てないだろう鈍重な武器であったけれど、だからこそ物好きな兵士が色々と試すのを付き合ってくれた。


 時には、己の体の価値すら学んだ。

 それは、私が美しい母と、無敵の父から生まれた何よりの証でもあった。

 今でも清らな体でこそあるが、幾度と私の価値を示された。武術の中で真っ先に教えられたのが、逃げ方だったのは幸運だった。


「……お嬢さま?」


 お嬢様。姫でも、ユフィイでもないその呼び名は、医者曰く彼女なりの受け止め方、己の絶望と希望を受け止めた成果なのだという。


 ずっと一緒にいたいから、そう呼んでくれているのならば、それならば私は嬉しい。


 私の身体に残る火傷の跡すら、彼女に見えないのであるなら、それで構わない。


「いきましょうミーネ。早く終わらせて、もうすこし色々見て回りたいわ」


 もしかしたら私だって、本当のミーネは見えていないのかもしれないが、それでも私の大切な宝物なのだから。

 


 

ここで一旦ストック(第一次)が切れます。

もうちょっと書ける量増やしていきたいですね…。

ともあれ、ここまで読んでいただけて感謝です。次投稿も近々にしたいので、その時もよしなに。


……ここからの展開どうしましょうかねー。なんか冒険系とか日常系とか、どのあたりに転べば美味しいのかな、という感じで考え中です。


 コメント等ありましたら頂けるとうれしい卍です。

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