「関聖帝君」
関羽雲長は顔を紅く染めて、我が失策を恥じていた。
ことの始まりは208年【赤壁の戦い】にあった。今から11年前、関羽、張飛、孔明は主君劉備に領地を与えるべく、勢力を拡大していた曹操の軍勢を呉の孫権軍と共闘で押し戻し、その好きに天下に新たなる劉備の国を作る「天下三分の計」を孔明の策略で実行していた。
しかし赤壁の戦い前夜、関羽は夢にうなされていた。
広大な星の世界を漂う彼の意識は、実に強大な存在と対峙した。それはまさしく天に等しい存在に思えたのである。
(この戦いに挑むのならば、覚悟せねばならんぞ。いっときの勝利は、後の悔いにつながるぞ)
突然、巨大な存在、それは星星が形成する巨大な、想像に絶する巨大な顔に見えた。
「何を言うか! 我が主に領土を与えるため、私も張飛も孔明も、命など惜しくはない!」
意識という形で空を浮遊する関羽は、断言した。
(勇猛なのは構わぬ。だが大切なものを失うぞ)
巨大な存在はそう彼を諭した。
けれども関羽の言葉に迷いはない。
「この戦いに勝利し、兄者を君主とするのだ!」
決意は変わらない。そう思った大いなる存在は、静かに頷き、星の世界へと溶けていった。
明け方、寝台で目覚めた関羽の体には寝汗が光っていた。
史実、赤壁の戦いは劉備、孫権連合軍の孔明、周瑜、両軍師の活躍もあり、勝利に終る。
が、事態は政治的側面へと移行する。
劉備は荊州を手に入れ、悲願の蜀を建国するに至った。ところが荊州を手にできると思っていた孫権は激怒する。
このとき孫権と劉備の間で益州を手にしたら劉備は荊州を孫権に変換すると約束する。
しかし領土は変換されることはなかった。
関羽はあの大いなる存在の言葉を思い返していた。呉の呂蒙の策略と曹操軍の盛り返しによって、益州に籠城することとなった関羽。ここで死ぬことは免れない。ただ義兄弟たちで先に死ぬとは。
そして関羽は義理の息子関平とともに包囲された城を出た。その戦いぶりはまさしく武神であり、無双の働きであった。
しかし息子ともども捕虜となった関羽は、処刑されてしまう。このとき、再びあの時の大いなる存在の声を思い出していた。
義兄弟との別れ。
しかし関羽が気づいたとき、彼は星の中に浮かぶ巨大な宮殿の中に立っていた。そして目の前には複数の人物が椅子を並べている。その中には中国、王族の衣服をまとった者も見える。
そして自分が【全てにつながる場所】に到達したのだと自然に理解した。
それから関羽は多くの戦いを経て、ある時、一人の男と出会う。そうそれはまさしく幾億年も昔、赤壁の戦い前夜の自分であった。
あの時の大いなる存在は自分だったのだ。
「関聖帝君」 完