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多次元史録  作者: 米澤
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【剣豪の道】

あらゆる物理空間と接触する空間『多元宇宙』

ここでは時間も空間も次元も神もデヴィルも関係なく、高次元生命体が日常的に生活していた。

が、この世界を統一しようとする者が相次ぎ現れ、多元宇宙は戦国時代を迎えようとしていた。

その覇を多元宇宙にとなえた者たちは、地球という名の惑星で歴史に名を遺した人物たちの転生した姿であった。

しかもそれぞれの時代へ自由に行き来できる彼らは、歴史の中にうごめく敵と対峙し、物理空間の歴史と多元宇宙の両方で戦争を始めた。

覇権を握る者、すなわちすべての物理空間の物理法則を支配する、高次元の覇者となれるのだ。

時間と空間を超えた、全ての歴史を巻き込む戦いが、ここに始まった。

【剣豪の道】 


 ただ1つの道を浪人は歩いていた。暗闇に風景などという風情はなく、ただ小石が転がっている小道が続く。


 侍になる。時間の道を目指す。ただそればかりを目指していた式神無限斎。今はただ、剣の道を追求する。それだけを願っていた。


 何度となく戦場に足を運んだが、彼に剣の道でかなうものなく、ただ己の力を試すこと、どこまで行けるかを確かめる事に執着していた。


 名もなき打刀を携え、彼は剣の道をただ歩くのだった。


 やがて道の先にぼうっと陽炎の如き人影が浮かび上がった。本来ならば刀の柄に手を伸ばすところなのだが、あまりにもその人影に殺気がなかったことから、無限斎はそのまま足を止めずに歩んでいっます。


 そして人影が今にも倒れそうな朽木の如き老人であることをみとめ、さらに安心して彼は先を行くのである。


 が、杖をつく老人の横を通り過ぎたとき、背中に寒さを感じで瞬間的にその場を飛び退き、思わず老人を抜刀で斬りつけてしまう。


 いかん!


 そう思いハッとした無限斎の前に老人の姿はなかった。


 訝しく構えをとく彼は、再び背筋に氷の冷たさを覚え、振り向きざまに刀を薙ぐと、老人は怪鳥のように暗闇に飛び立っていく。


「もののけの類か」


 叫び腹に力を入れることで自らへも気合を入れる無限斎。


 すると闇から抜け出たように、老人は妖怪じみた口をむにゃむにゃと動かす。


「ワシをもののけと見たか」


 フクロウのように笑いながら老人はゆっくりと無限斎はに近づいてくる。


 正眼に構えた無限斎。そのまま刀はまるで鞭の如く蠢き、老人へ白人が襲いかかる。


 これが無限斎と自ら名乗る彼が剣の極意、[無形の太刀筋]であった。


 この太刀筋を読めた者はなく、殺傷率は極めて高かった。


 ところがである。無限斎が老人を正面に捉えたと思った時、老人の気配が瞬間的に消え、標的を見失ってしまった。


 そして気づいたとき、無限斎の体は力を失い中空に転がり出て、投げ飛ばさるた。


 こんな老人に自分が投げ飛ばされた。まさか。


 ただ背中を地面につけて呆然とする無限斎。


 老人はまたフクロウのように笑いつつ、浪人を、目やにだらけの目でみやった。


「力、剣、強さ。そればかりが全てではないぞ。もっと天地を見よ」


 と、老人が言った刹那、暗闇が霧が晴れるかのように一瞬で消え、そこが宇宙空間へと変貌した。


 ぎょっと跳ね上がる彼は、眼下に大きな海をたたえた丸い地が広がっているのを見た。


 時代が時代だけにそれを地球と認識できる人間は日本にいないだろう。


 世界の姿を見せられた無限斎は、混乱に刀をもつ手が震えていた。


「恐れるでない。先はまだまだ長いのだぞ」


 そういうと老人はフクロウのように笑った。


「そ、そなたの名は」


 老人に勢い任せに尋ねると、老人は妖怪のように笑った。


「愛洲久忠と申す」


 名を聞いてまた無限斎はぎょっとした。


 愛洲久忠。またの名を移香斎という。


 あの上泉信綱を弟子に持ち、後の柳生新陰流の元となる陰流の開祖である。


 剣豪の中の剣豪であった。


「まさか、とうの昔に愛洲殿は亡くなられているはず」


 と、無限斎が呆然としたとき、老人は闇に溶けるように消えていき、宇宙空間はまた漆黒に包まれた。


 そして、彼の耳に静かに声だけがこびりついた。


「世界を見よ」

 


【剣豪の道】完



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