1話
「そうだねぇ、今日は私たちが住んでいる王国の7英雄についてお話しようかね。」
「わぁ!僕そのお話大好き!」
「私も!私も!」
平民が暮らすパーチェ地区の一角で老婆がたくさんの子どもに囲まれていた。
「いいかい?このシエル王国は昔はそれはそれは小さくて弱い国だったんだ。お金も食べ物もない、兵士もほとんどいない、民は他国の侵略に怯えながら貧しい生活を送っていたんだ。」
「そこでなんとかこの国の現状を変えたいと立ち上がったのが今の国王アルトゥ様の祖父君にあたるゴルト様だね。ゴルト王はまず信用していた大臣に国を任せ、自ら協力者を探しに旅に出たんだ。そこで初めに出会ったのが…」
「私知ってるわ!賢者アートルムね!」
老婆はにっこり微笑み、女の子の頭を優しく撫でる。
「よく知ってるね、そう、アートルム様は、国を変えようと王が自ら動いたその心意気に感激し、王に忠誠を誓ったそうだ。彼は1人でシエル王国へ戻り、王国の繁栄に力を注いだらしい。アートルム様は剣術にも魔法にも秀でていた、それを兵士に指導し、戦力の強化、そして枯れた土地であったこの国に雨を降らせ、農民とともに畑を耕して、食糧問題解決への架け橋を作ったとされているよ。」
「ただアートルム様は表舞台にあまり姿を現すことがなかったから色々謎が多いんだよ。あくまで伝説さね。」
「私アートルム様のそういうミステリアスなところ大好きだわ!」
「ふふ、リナはほんとにアートルム様が好きだねぇ…次に出会ったのは勇者ヴァイス様だよ。彼が道端で倒れているところを王が介抱したため、恩を返すために忠誠を誓ったそうだ。」
「ゴルト王ってとっても優しい王様だったんだ!」
「あぁ、彼ほどの人望がなければ、この国が大陸を統一するなんて有り得なかっただろうね、ヴァイス様はそのまま王に付き従い、山賊などの敵から王を守ったそうだ。彼はかの大戦争の中で最も戦果をあげたとされているよ。」
「そんなに強かったの?」
「そうさ、剣を抜けば敵無し、まさに天才だったとされる。」
「かっこいいなぁ、やっぱり俺は将来ヴァイス様みたいな剣士になりたいなぁ。」
「ふふ、ケイでもきっとなれるさ、ヴァイス様は小さい頃弱虫ないじめられっ子だったんだけど、剣術の師匠に出会ってからは見違えるような成長をしたそうだ。次に出会ったのがグラキエース様だよ。彼女は冷気を操る魔法使いで、魔力の強さは世界一とされていた、同時に素晴らしい美貌の持ち主で言い寄らぬ男はいなかったそうだ。」
「でも性格悪かったんでしょ?」
「ふふ、氷に触れてるようだったとゴルト王も言っていたそうだね。それも彼女の魅力だったに違いないよ。彼女もまた王に付き従い共に旅をしたんだ。」
「次に王が出会った仲間は、そう、とある宿屋で食事をしているときだった。グラキエースの美しさにやられたんだろうね。四人の男達が彼女に絡んできたそうだ。彼女が力を出せば、周りにも被害が出てしまうから、強くは出れなかったんだろう。そこに現れたのがアルゲントゥム様だよ。」
「『君たち…か弱い女性に寄って集って…情けなくないのかい?表に出たまえ、僕が相手をしてあげるよ。』と言い放ち男達を連れ出すと、アルゲントゥム様は、まるで燃え盛る炎のように、あるいは凛と咲く薔薇のように舞い、四人の男も蹴散らしたそうだよ。」
「なんでそんなに詳しく残ってるの?」
「アルゲントゥム様は自伝を残していらっしゃるからね。そこにはグラキエース様が頬を赤らめて『ありがとう騎士様…』と言ったと書かれていたそうだが、その付近ページだけ凍らされていて解読が不可能だそうだね。」
その場は笑いに包まれた。
「ふふ、でもアルゲントゥム様は優秀な火の魔法騎士だったんだよ、グラキエース様についてくる形にはなったが、彼女が忠誠を誓う王ならば、ということで彼も王に付き従ったんだ。」
「ちょっと動機が不純だね。」
「ふふ、そうだね、でも彼は戦争中に敵の軍団に遭遇した王を一番近くで守り抜いたと言われているよ。なんやかんやでゴルト王に最期まで仕えていた忠義の厚いお方だ。」
「さてそろそろお昼の時間だね、続きは午後にして私の家においで、みんなの大好きなパイをやいてあげよう。」
「はーい!」
「まずはお買い物に行こうかね」
お婆さんは子どもたちに支えられながらゆっくりと立ち上がった。
シエル王国は大きく分けると4つの区画に分かれている。1つは王が暮らす城と城を警備する兵士の住むゴルト地区、次に貴族が暮らすノーベル地区、商店が立ち並ぶオーロ地区、そして平民の暮らすパーチェ地区。
この王国の身分差は今のアルトゥ王の時代から始まったものである。それまでシエル王国は王族と平民の2種類にしか別れていなかったが、アルトゥ王は魔力を持つ優秀な人材を集め、金と領土を与え、貴族とした。貴族は初めは国務をこなすが、ある程度役職が上がると、次は平民の暮らすパーチェ地区の一部を管理させられる。ゴルト王により繁栄したシエル王国は、増え続ける平民の管理に明け暮れていたため、貴族の中でもさらに優秀な貴族にその一部分を任せることにしたのだ。
任された区画は完全にその貴族に一任されるため、国は余程のことがない限りは介入してこない。そのため貴族の中には良からぬ事を企む輩も当然いるのだ。
「いつきてもすごい人!」
「そうだねぇ、みんなはぐれないようにね」
商人の区画オーロ地区、ここに来れば揃わないものはないと言われるほど大きな商店街である。
「いらっしゃい、婆ちゃん、いつものパイ生地かい?」
「あぁ、頼むよ」
「おっけー待っててね!」
ガタイの良い青年が腕まくりをして応える。すると外がざわつき始めた。
「婆ちゃん、子どもたちを店ん中入れた方がいいよ。貴族がきたっぽい。」
老婆が外を見ると平民達が道を開け膝をついていた。その間から兵士を従え現れたのは貴族のクルトであった。
貴族と平民の身分差は厳しいもので、目を合わせてはいけない、すれ違ってはいけないなどがある。これを破った時は、最悪その場で首をはねられる。アルトゥ王がなぜそこまでの権力を貴族に与えたのか、真意は定かではない。
急いで老婆は外へ飛び出す。
「みんな、はやく店の中へ!」
子どもたちは店に目掛けて走り出す。
がリナが転んでしまう。
クルトと兵士が彼女の前で立ち止まる。
「なんだぁ!?このガキは、まだ貴族様に対する平民の態度も知らねえのかよ?俺はこういうガキがいっちばん嫌いなんだ…。おい!誰かこいつを俺の屋敷の牢に入れとけ!後でみっちり教育してやるよ…フヒヒッ」
「…ハッ。」
甲冑を来た男がリナにゆっくり近づく。するとその間に老婆が割って入り、膝をついた。
「なんだ、ババァ、てめえに用はねぇんだよ、どきな。」
「どうかお許しください、私が目を離したことに責任があります。どうかこの子は許してやってください…」
老婆が地面に頭を擦りつけ許しを乞う。
が、
「邪魔だなぁ…おい、こいつ殺していいよ。」
周りの平民がどよめいた。
「はっ?…しかし…」
「聞こえないのか?お前も平民だろうが、お前の家族を養ってやってるのは誰だよ?」
兵士は俯き、唇を噛み締めた。
「…ハッ。」
兵士がゆっくり剣を抜く。
「やめろよ!殺すことなんかないだろ!」
パン屋の青年が飛び出してきて、さらに間に入った。
「そうだそうだ!」「許してやれよ!」
「いくらなんでも酷すぎるわ!」
民衆が沸き立つ、青年の勇気ある行動が彼らに勇気を与えたのだ。しかし
クルトが上着から杖を取り出し、叫んだ。
「爆発せよ」
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「ぐぁあああ!!!!!!!!」
辺りは静まり返った
クルトの魔法により青年の右腕が吹き飛ばされたのだ。
「しっかり!!」
あまりの痛みに錯乱する青年に老婆は駆け寄る。
商店街は一気にパニックになった。
「うるせぇんだよ!魔力も持たねぇ平民風情がよ!あーあ、もうめんどくせぇ、おい、こいつとババアさっさと殺して。」
「…ハッ。」
兵士が剣を振り上げる。
「…御免!」
「いやぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
少女は老婆と青年に振り下ろされていく剣を見ていることしか出来なかった。しかし少女はハッキリと見た。その間に一瞬で入り込んだ影を…!少女はいつか見た肖像画の人物に彼が良く似ていることに気がついた。
「アートルム様…?」
キイィィィィン!!!!!
金属と金属が激しく触れ合う音。
間一髪、振り下ろされた剣は、割り込んだ男の剣により止められた。
「なっ!」
男は兵士の剣をジリジリと押し返し、勢いよく跳ね除けた。体制を崩した兵士は思わず尻もちをつく。
「何者だ!」
男を見上げ兵士は叫ぶ。
「兵士さん…そこまで堕ちちゃいけねぇな…」
「だ、だまれ!」
兵士は座ったまま剣を握り直し薙ぎ払おうとした。
同時に兵士の顔に飛び込んできたのは
男の靴だった
男の蹴りは兵士の顎を砕き、後方へふっ飛ばした。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
周りから歓声が上がった、男は手を挙げてそれに応える。
「婆さん、そこの兄ちゃんとお嬢さん連れて逃げな」
「わ、分かった。」
周りの人も老婆に手を貸そうと集まってくる。
少女は近づいてきた女性に抱えられる中、貴族の杖がこちらに向けられていることに気づいた
「みんな危ない!!!!」
少女が叫んだ。
とっさに気づいた商人達がクルトを止めようと走り出す。
が、遅すぎた。
「アハハ!死ね…!」
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クルトが詠唱しようとしたその時、彼は懐に飛び込んでくる影を見逃さなかった。
地を蹴り、後ろへ飛び退いた瞬間、目の前を男の大剣が風を切り裂く轟音とともに過ぎる。
「アハハ!やるねぇきみ…!」
「ゲス野郎が…!」
男はもう一度大剣を振るう…がそれはまた空を切った。
貴族は男の背後に回り込み、杖を向ける。
「死ねよ…爆発せよ」
決着はついたように思われた。だが
「黙れ…!」
「は?」
貴族の魔法は確かに詠唱を終えられて、発動するはずだった。
だがなにもおこらない。
「お前!まさか!」
男はゆっくり振り向き、貴族の顔に右手の掌を向ける。
「凍りつけ…!」
(ははっこれが7英雄の1人グラキエースが使ったとされる氷魔法か…あほくさ、しかもさっき使われた魔法は詠唱上書きして取り消すって…どんな文献でも見たことねぇぞ…)
貴族は開いた口が塞がらなかった。
いや、もう動かすことさえ叶わない。
首から肩、肩から腰へ、腕へ、足へ
徐々に感覚が消えていく。
目の前に広がっていく水晶はさぞ美しかっただろう。
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氷像と化したクルト
周りにいた人々はあまりの出来事に唖然としていた。
「あ、あの!!!!」
静寂を払った少女の声
佇んでいた男がゆっくり振り向く
「お名前は…?」
男はニッと笑って叫んだ。
「俺はシュヴァルツ!7英雄の1人アートルムの孫だよ」
拙い文ですみません…
他の書いてる時に浮かんだものを書きました。
異世界というか時代設定が現代じゃないほうが書きやすいですね…笑