9話 事件発生
あの夜会から早くも数日たったある日。
「で?ティア様、どうします?」
そう聞いて来るのはアル。
一緒にいるテルも渋い顔をしている。
それだけ、アルが持ってきた案件は実に奇妙でやっかいなものだった。
「|ピクツィエス男爵令嬢(バカ女)が接近した有力貴族の子息たちが、次々に取り巻き化、又は深く眠りについてもう何日も目を覚まさない、と……。」
困ったことになったわね。
少し考えた私は左の指をパチンと鳴らした。
シュタッ!
どこからともなく現れた男。
彼は私の影。
ま、簡単に言うと隠密?密偵?そんな感じの業務をする人。
「ユリア・ピクツィエス男爵令嬢についての報告を…。」
「は!」
数日前の夜会にて出会った甘ったれ令嬢。
放っておいても良かったが、腑に落ちないこともあったので念の為動向を探らせておいた。
「ユリア・ピクツィエスはピクツィエス男爵の庶児でつい最近、男爵の養女として屋敷に迎えられたようです。男爵が引き取る以前についてはまだわかっておりません。先ほどクロイツ卿よりも報告があった通り、ユリア・ピクツィエスは有力貴族の子息たちに積極的に接近しており、その接近した子息たちは皆同様にユリア・ピクツィエスの取り巻きとなるか、深い眠りにつくかの2択です。どうやら、違法魔術の使用が疑われます」
なるほどね…。
ただ、甘ったれ令嬢が男爵に引き取られるまでどこで何をしてたか分からないとなると、非常にやっかいだ。その上、違法魔術とは……。
「報告、ありがとう。できるだけ、ユリア・ピクツィエスの過去について洗ってちょうだい。」
「承知いたしました。我らが主、ティア様。」
私がコクリと頷くと影はスッと消えた。
「やはり、ピクツィエス男爵令嬢が原因か?」
「ふつーに考えっとそうだよなー。」
テルは顎に手を当てて考え込んでしまい、アルは苦い顔をしてポリポリと頭を掻いている。
私は無意識に鼻の下に指をおき、考える体勢をつくっていた。
「あ、出た!!ティア様のライト譲りの考えポーズ!!」
さっきまで真剣な顔をしていたテルが、急にはしゃぎだすものだから鼻の下で支えていた腕が机からズルッと滑り落ちた。
私はキッ!とテルを睨む。
「テル?私が真剣に考えてるの分からない?」
「え?や、分かるけ…」
「じゃあ、黙りなさい。」
しょぼぉーん、と捨てられた犬みたいにへこんでいるテルは放っておき、私はまた、考えを巡らせるのだった…。