5話 禁忌の塔
立太子の儀式、初日を無事に終え、ソファに身を委ねた。
「やっと、終わったわ……」
遂に正式な立太子を経て、王太子の座に着いた。
これで、もう後戻りはできなくなる。民のために、国のために………その身を捧げるのだ。
「お疲れさまでございました、ティア様」
「えぇ。ミオナもお疲れ様。今日は早めに休んでね。まだ、後一週間はバタバタするでしょうから」
「ふふっ、忙しいのには慣れておりますわ。今はティア様のお世話をすることが優先ですよ」
「……そうね。いつもありがとう、ミオナ。今度、何か贈り物をするわ」
「有難き幸せにございます」
微笑みながら淹れてくれた紅茶は、いつもと変わらぬ優しい味がした。
常に自身の周りに張っている結界のレーダーが二人の人物を捉えたため、ミオナにはそのまま下がってもらった。
「……あなたたちも、今日はお疲れさまでしたね」
「薔薇騎士団長ルーク・ライデンハルト。ティア様にご挨拶申し上げます」
「犬の親玉はいっつもお堅いなぁ〜。……はいはい、挨拶するからそんな睨まないでよ。影隊長イシュア・ディルコート。只今参りました」
イシュアは、薔薇騎士たちのことをよく『犬』と呼んでおり、その度に騎士と喧嘩を起こしている。
おちゃらけた雰囲気のあるイシュアとは対極に、ルークはかなりの真面目であるため、この二人の相性は、もう最悪だ。
「こんな所で、喧嘩をしても何の利にもならないわ。さっさと明日の打ち合わせを始めるわよ」
「はっ!」「は〜い」
やっと席に着いた二人に明日の予定が書かれた紙を渡す。
「明日の予定はそこに書いてあるとおりよ」
素早く予定に目を通した二人は、あからさまに眉を顰め、表情を固くした。
「ヴェレーノア元側妃を訪問……」
「賛同しかねます」
「魔封じの施された禁忌の塔で何ができるって言うの?」
「お会いにならずとも、明日の夕刻には御前に引き摺り出されます」
「態々会いに行く必要は感じないなぁ」
二人の反対は最もだ。
一口紅茶を飲み、再び口を開く。
「それでも、わたくしは行くわ」
二人は呆れきった顔をしながらも、苦笑した。
「こうなったら言う事聞かないんだよなぁ〜、我が主は」
「仕方ありませんね。殿下がその目をされた時は、我々がなんと言おうと止まりませんから。無駄に反対して、飛び出していかれても困りますしね」
我儘っ子を見るような目で見られたことは、絶対に許さないが、なんとか、二人を説得し、明日の予定を押し進めることに成功した。
翌日……
「ティア様、本当に禁忌の塔に行かれるのですか?」
「えぇ、そのつもりよ」
日も上らぬ早朝に、私は身支度を整え、『禁忌の塔』へ向かった。
広大な敷地面積を誇るロズマリン王城には、狩猟大会なども行われる深い森が存在している。
その森の中にはいくつかの塔が点在しており、『禁忌の塔』もその中の一つである。
王家に関わる重罪人を幽閉するための塔……。
その存在を隠すように、塔には特殊な結界が張られており、容易に見つけ出すことはかなわない。
今回の護衛はたった二人。
ルークとイシュアである。
あまり大勢を連れて移動して父に見つかっても面倒だ。
極限られた少人数かつ精鋭を選び、三人で塔に向かうことにした。
戦力的に言えば、私達三人で一国くらいなら軽く潰せるレベルだけどね……
二人を近くに寄せ、そのまま複数人用の転移魔法陣を開く。
『空よ。禁忌の塔へ我らを導け』
白の光に包まれたと思うと、私室の風景は霞のように消え、目の前にはどんよりとした雰囲気の流れる塔があらわれた。
ヴェレーノア元側妃は、私の母であるシェルリア側妃を毒殺した犯人である。
彼女は、私が産まれた騒動に乗じて、侍女を買収し、母の飲む薬湯に毒を混ぜさせた。
毒はほんの少量であったが、産後の身では、耐えることなどできなかったのだろう。
母は父の帰りを待たずに亡くなってしまった。
私が正式に立太子した今、私を産んだ母は、今日をもって王国の母、王妃となる。
側妃に据え置かれたままだった母は、死後ではあるが、戴冠式を行い、正式な公表が行われる。
それに伴って、王妃を殺めたとして、元側妃ヴェレーノアは、公開処刑される手筈だ。
ティアはこれから会う人物を睨むかのように、塔を見上げた。
次回の投稿は5月12日(水)です!




