3話 立太子の儀
「ここに手を当てろ」
父は柱に埋め込まれた透明な神石を指差す。
言われた通りに手を当てると、辺りが真っ白になった。
「っ!ここは!?」
先程の神域でもなく、父もいない。
どこまでも続く真っ白な空間。
『いらっしゃい、わたくしの娘』
『大きくなったなぁ』
美しい美声が聞こえたかと思うと、目の前にふわりと何かがあらわれた。
(創造神………)
会ったことなんてないはずなのに、すぐに頭がそう思った。
『驚くのも無理ないわ。あなたの【魂】が【あなた】になってからわたくしたちとは会っていないのですもの』
『可愛い〜、可愛い〜!』
『………ちょっと黙ってロゼイド』
『だって流石わたし達の娘だよ、ロゼリア。すっっっごく可愛い!!』
人間離れした美貌の女神が興奮している男神を冷ややかな目で見ていた。
『……ともかく、成人おめでとう、ルピアナティア。あなたは立派な女王になるわ』
「ありがとう存じます」
『それから、ルピアナティア。君の体には2つの魂が入っている。1つ目は我らが娘【ルチア】という光の女神の魂。そして、2つ目は【スティア】という聖女の魂』
「聖女?」
『あぁ。スティアはルチアに生涯仕えた史上最強の聖女だ』
『ちなみに、大人しく、知的なルチアに反して、スティアはとてつもない猛獣………いえ、お転婆娘だったわね』
『きっと、ルピアナティアの剣の強さは彼女の魂の影響だろうね』
聖女と聞いて神秘的な姿を想像していたが、話を聞く限り、どうも破天荒な女性だったようだ。
聖魔法を使うことから聖女と呼ばれるようになったが、元々はルチアの薔薇騎士で生涯仕えると契約し、剣を持って勇猛果敢に戦場の前線を切るような人らしい。
「魂が2つ……。?では、前世は?あの日本という国で過ごした前世はなんですの?」
普段はほとんど思い出すこともない記憶だが、私には確かに異世界での前世の記憶があったはずだ。
私の魂が2つあるということはどちらかが、異世界の魂の環に入ってしまったということだろう。
『普通、魂はその世界の環から抜けることはできないわ』
『だが、スティアはある事がきっかけで、この世界の魂の環から抜けてしまったんだ……』
と、創造神ロゼイドが話し終わるか否かの時に、真っ白だった風景がパズルのピースが欠けるように、崩れだした。
「わっ!」
足元が欠け、バランスが崩れる。
『あら、もう時間のようだわ。私達の娘、ルピアナティア。あなたの御代に幸多からんことを……』
『我らが創造神の祝福をそなたに授けよう………』
ふわりと微笑む二人。
ガラガラと崩れていく空間から、闇の中にに放り出される。
ふわりとした浮遊感の後、カチッと意識が戻った。
「……っ!」
目の前には透明な神石に当てた両手がある。
「どうやら、無事に終えたようだな」
背後から聞き馴染みのあるテノールが聞こえた。
パッと手を離し、振り向くと、気怠げなライトグリーンの瞳と目が合う。
「お父様……」
「……ふむ、立太子後はその様になるのだな」
父は私の手を指差しじっくりと観察している。
何事かと思い手に目を向けると、そこにあるはずのものがなにやらおかしい。
(んん?あれれ?これ、こんなグルグル巻きついてたっけ!?)
右手の人差し指にあったはずの精巧な薔薇の意匠の指輪。
【薔薇乙女の指輪】は、美しい銀の大人しめのものだったはずだが、今は存在感たっぷりに、まるで蔦が巻きついているように、三重ほどになっている。
その美しさはさることながら、なんというか、とても強そうである。
「威力が確認したいのならば、後でアルバートでも叩いてみたらいいんじゃないか。とにかく、今はここを出るぞ」
「はい」
そうして神域を後にし、薔薇騎士たちの待つ入り口へと足を進めたのだった。
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