7話 あなた、誰?
新しい人物が登場します!
「いやぁ、ルピアナティア殿下は本当にお美しい!!」
「殿下!我が家の長男は非常に優秀で!!」
「まて!私が先だ!!」
「何を言っているの!?殿下は私たちとお話しされるのよ!」
「そうですわ!!」
「あぁら、何をおっしゃるの?殿下は私たちとお話しされるのよ!」
あのぉ~。そろそろ勘弁してくれませんか?
私の大事な大事な表情筋ちゃんたちが悲鳴をあげて逃げようとしておりますの。
「皆様、申し訳ないのですが、わたくし、陛下に用がありまして」
死にそうな表情筋を酷使して微笑みを浮かべる。
「あぁ!それは、いけない。お引き留めしてしまい申し訳ありません!」
身振り手振りで邪魔はしません!というような様子を大袈裟に伝えてくる貴族ども。
あぁ、面倒くさい。
テクテクテクテク。
って、父はどこだよ!
チッ!
「あなた、ティア様でしょ?」
不意に背後から声をかけられた。
『ティア様』?
不審に思い、胸元に仕込んである短剣をこっそりと握っておく。
それを見た隠れた護衛騎士がそっと警戒の色を示した。
笑顔を貼り付けて振り返ってみると、そこには、赤茶色の髪に濃茶色の瞳を持つ令嬢がたっていた。
ただ、次の瞬間私は固まった。
それは、彼女が淡い水色のドレスを着ていたから。
今夜の私のドレスは淡い水色のドレス。
妖精をイメージしてつくられたドレスはふんわりとした裾の部分が特徴で、金糸の刺繍がポイントだ。
この国の貴族の常識として、国王及び王太子の衣装の色と、自身の衣装の色が被らないようにしないといけないという、暗黙の了解がある。
国王や王太子の衣装の色は招待状の紙の色だ。
今回は私と父が水色の衣装を着るため、水色の紙で招待状を出した。
王家の人間、特に国王や王太子は臣下の屋敷で行われる夜会等にはほとんど出向かないため、その場合衣装の心配をする必要はない。
だから、今夜の夜会には水色はおろか、青系統の衣装を身に纏うものはいないのに…………いや、いないはずなのに。
どういうこと?この子どうして入れたの?
門番に止められなかったのかしら……
「……あなた、どちらのご令嬢かしら」
それに、不思議に思ったことがもう一つ。
私は………彼女を知らない。
いえ、あの自慢ではないのですが、私、国内の貴族の顔と名前なら赤ん坊以外全員覚えているのよ?
貴族の顔と名前なら下は男爵から上は公爵まで、全員。
なのに、この人誰にも当てはまらない。
言い得ない奇妙さに薄っすらと背筋が冷たくなった。
この人は、一体……
「あたしは、ユリアよ」
ユリア。
は?終わり!?終わったの?
嘘だ。どこのユリアだよ。おい。
ユリアなんて、そこらかしこにいるんだよ!
やっべ、そろそろ、ガチの表情筋死滅エンドが。
「ユリア様ですか。申し訳ないけれど、どちらの、ユリア様でして?」
私がそう問いかけると、今度は瞳をうるうるさせて身を縮めます。
「きゃっ、ユリア怖いわ!そんな顔で睨んでくるだなんて……私はただ、挨拶しだけなのに……うぅっ……」
えぇ、この人マジ、何?
急に泣き出すなんて……
って、そういう問題じゃなくて!!
もうやだぁ!!この人、怖いよぉ!