19話 次期国王
「ティア、こちらへ」
「はい、国王陛下」
私は、お祖父様に手を引かれ玉座への広い階段をのぼる。
それに気づいた招待客たちの視線が徐々に集まってくる。
これから起こることを知っている、忠臣たちはすでに用意された席に座っていた。
ふと、おじい様の顔を見上げると、おじい様は笑顔で頷き招待客たちの方へ向き直った。
「皆の者、今宵の夜会に参加してくれたこと感謝する。今日は皆に発表したいことがあるのだ」
いつの間にか私の横に並んでいる伯父様は、いつものデレデレとした顔からは想像もできないほどきりっとしている。
招待客たちが互いに顔を見合わせ、さまざまな憶測をしている。
「多くの者がすでに心得ているだろうが、改めてここに宣言する。ファンベルツィアの正当な後継者は、リゼアイリア王国の王太子ルピアナティア殿下である。殿下の母は、我がファンベルツィアの元王太女だ。そして、そのエルフの血を受け継いだルピアナティア殿下に継承権がある。王太子であるダイスの即位後はルピアナティア殿下に継承権を戻す」
高らかと宣言された言葉に、会場の皆が湧いた。ただし、一部を除いては。
歴史を重んじるファンベルツィア王国において、反王家派掲げる勢力。
そう、メーマック侯爵を筆頭とした新興貴族たちである。
彼らの歴史は浅い。ファンベルツィアは公国から王国へと成った際に、貴族法を改正し、功を上げたものには等しく爵位を与えていたのだ。
その法により爵位を手にしたのが、現在の新興貴族たちである。
「それと同時に、私、ダイス・ファンベルツィアは、正当な後継者が即位するまで、婚姻をしないことをここに宣言する!」
お祖父様に続けた伯父様の宣言に、一様に騒ぎ出す。
「正式な後継者とはいえ、ダイス王太子殿下がご結婚なさらないのは関係ないのでは?」
進み出てきたのは、メーマック侯爵だった。
少し離れたところには、あの男爵令嬢もいる。
「いらぬ後継者争いを起こさぬようにと、殿下ご自身がおっしゃっているのにですの?」
「この国のことはこの国で対処するべきかと」
いけしゃあしゃあと言ってのける侯爵。
持っていた扇を広げ、口元を隠す。
お父様直伝の極寒零度の視線で、威圧感を出しておくことも忘れない。
「わたくしには関係ないと、あなたはそうおっしゃるのですね?」
「姫がそうお思いになるのでしたら、そうなのでは?」
そう言って、侯爵はハッハッと背をのけぞらせて笑う。
「………そう、でしたら、あなたはわたくしを次期国王とは認めないと……」
「えぇ、あなたは、あくまでも他国の王女に過ぎませんから」
「………ファンベルツィア国王の王命に背くと言うことで良いのですね?」
「………えっ?」
いままでの勢いはどうしたのか、一瞬にして顔を青ざめさせる。
(自分の言ったことの意味も分からないなんて、やはり、リゼアイリアの狸どもに比べれば遥かに小物ね……)
ゆっくりと壇上の階段を降りていく。
「だって、そうでしょう?陛下はわたくしを後継者に据えると直々におっしゃったの。それも、この全貴族たちが集う王家主催の夜会にて。それを、先程、あなたは否定したわ。立派な反逆罪よ?…………それにね、わたくしは、これでも大国リゼアイリアの王太子なの。こんな侮辱を受けて黙っているとお思い?」
カツカツとヒールの音を立てながら、しかし、優雅に。
青白くなったメーマック侯爵の前へと進み出る。
「そうねぇ、あなたが担当する財務局の決算、領内の西にある娼館、屋敷の地下……………あら、ご気分が優れないようですけど、大丈夫でして?屋敷に戻られてはいかが?…………ただ、今頃、あなたの屋敷には騎士団がいるでしょうけれど」
言い終えると同時にぱっと笑顔をつくり、扇をパチリと閉じた。
「……そ……んな、馬鹿な………」
「あら、それはこっちのセリフよ。こんな頭の足りない男が侯爵になれるなんて………。他の貴族たちを侮辱しているのかしら」
吐き捨てるようにそう言うと、待機していた騎士たちに合図をし、メーマック侯爵を連れて行かせた。
「さて…………。あぁ、ごきげんよう?ガンゼル男爵令嬢様?」
「っ!!」
「あらあら、そんなに、怖がらないでくださいまし。ガンゼル男爵令嬢。あぁ、そういえば、あなたにお尋ねしたいことがございましたの。王宮庭園にいた男たち………それから、わたくしが道中で出会った覆面の男たちをご存知ではございませんか?」
にっこりと笑って話しかける。
そして、その内容に、周りの皆が顔を青ざめさせていた。
「ぞ、っ……存じ上げません」
「あら、そう?ですけれど、彼らが言っておりましたのよ?」
そう言うと、指をパッチンと鳴らした。
現れた巨大な映像。
『ひぃぃぃっっ!!こ、殺さないでくれっ!!』
『雇い主は誰だ』
『ガッ……ガンゼル男爵令嬢だっっ!大金をもらう代わりにっ!邪魔な女を消せって言われて!まさか、王族だったなんて知らなかったんだっ!!!』
顔のすぐ横に突き刺さる大剣に怯えながら、ペラペラと喋る男。
その周りをよく見てみると、大量の血痕と頭と体がバラバラになった覆面の男たち……それから倒れ込む騎士たちが映っていた。
そして、場面は切り替わる
『困るんだよねぇ〜、僕の御主人様、今忙しいの。僕も早く持ち場に戻らなきゃなんだぁ?だから、早く喋ってくれない?』
『……っあ、ぁ……、や、雇い主は知らないっっ……』
『まだ、喋ってくれないのぉ?』
ズドン!と強い衝撃音がすると、床に転がる怯えた男の首のすぐ横に、短剣が刺さっていた。
『ガンゼル男爵だっ!!あそこの女が目障りな女を消してこいって!!』
というところまでで映像は終わった。
「まぁ、随分と敵対心を抱かれていたようですけれど……。ちなみにこちらの映像、ファンベルツィア王国王宮魔術師に鑑定してもらったので、なんの加工、捏造もございません」
ミルフィーナ嬢は、拳を強く握りしめ、ブルブルと小刻みに震えている。
その愛らしさを売りにした顔は見る影もなく、まるで般若のように顰められている。
「ガンゼル男爵令嬢、一国の王女を害そうとした罪は、極めて重い。ガンゼル男爵共々、爵位剥奪の上、死刑に処す」
「「なっ!」」
「………あろうことか、ファンベルツィアの正当な王位継承者の命を奪おうとしたのだ、当然の責であろう」
ディー伯父様は、今までに見たことがないほど、怒っており、その冷ややかな眼差しは、王者の風格を感じさせた。
「メーマック侯爵を始め、ルピアナティア殿下の暗殺に関与したものを徹底的に洗い出し、法の下に処罰する」




