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冷酷王の愛娘  作者: 水無月 撫子
第三章 ティアと母シェルリア
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    13話 記憶



「シエル!!シエル!どこぉ??」


(ここは……!)


 美しい澄んだ水、まるでおとぎ話の世界のような場所。


 さっきまで目の前に存在した泉だ!!


『あら、いらっしゃい。シェリー』

「今日はね、精霊術を勉強したんだよ!!」


 自慢げに話している母。


 12、3歳くらいだろうか。

 年相応の……可愛らしいお姫様だ。


 泉の精は、母からシエルと呼ばれていたようである。


「ねぇ、シエル?」

『なぁに?シェリー』

「シエルは、運命ってあると思う?」

『あら、どうして?』


 泉の縁に座っている母は、う〜ん、と考える素振りをした。


「最近ね、夢を見るの」

『夢?』

「きれいなプラチナブロンドの髪をしている王子様の夢」

『それはそれは、かなり具体的で断定的な夢ね。』


 先程から泉の精は、何かを知っているように思えた。


(まるで、そうなるのが当然……というような訳知り顔をしている気がする。)


「とっても、素敵な人なの!私の隣に立って私を支えてくれる……」

『シェリー………。いつか、そんな人に出会えると良いわね』

「えぇ。出会ってみたい……」


 夢見がちな、しかしどこか諦めたような少女の顔がそこにはあった。



 ……目の前がうっすらと曇って揺れる。




(また、景色が変わったのか。……ここは、王宮の謁見の間か?)


「ついに来られたか……」


 お祖父様の顔に少し緊張が見られた。


 謁見の間には、お祖父様の他にお祖母様と伯父様、お母様や他の官僚たちもいた。


 その中には、エルメス公爵の顔もあった。


 そして、謁見の間の扉が開かれる。


 


 揺れるプラチナブロンドの髪……。澄んだライトグリーンの瞳。


 整った顔立ちだが、どこか冷たさを感じる。圧倒的な支配者の風格。



(お、お父様!!)


(そして、後ろからひょこひょことついてくる、テル!?ん?いや、あれは……。)


「ファンベルツィア公王。急な訪問で申し訳ない。」

「ご機嫌いかがかな。リゼアイリア国王。」

「とても、良い。……あぁ、やっと見つけた…」

「ちょっ!!おい、ライト!」


(嘘っ!あれ、誰!?私の知ってるお父様と違う!!!)


 テオドール大公が言っていたとおりだ。


(まるで宝物を見つけた少年のような顔……)


「麗しい姫君。私と結婚してくださらないか。」


 あたりが静まり返る……。


 そして、お母様は………




「スフェルラート陛下。御機嫌よう。………寝言は寝てから言ってくださいな、常識を取りに帰ってからもう一度いらしてくださいませ。」


(辛辣ぅぅぅぅ!!!!)


(お、お母様、めっちゃ言うやん!!おっと、ごめん遊ばせ。ついつい興奮してしまって…)



「ふっ…」


(えっ、ちょっとキモいわ……そこ、笑みをこぼすような場面ではないですよ、お父様!?)


「それでこそ、我が伴侶……」


 父が何やらつぶやく。


 しかし、その声はお母様たちには、聞こえていなかったようだ。


 お母様はまだ静かに怒りを滲ませ、お祖父様たちは呆然としている。




 目の前が白くなり、うっすらと見えてきたのはよく見覚えのある場所であった。



(王城の庭園……、ロゼイド宮殿の庭園だわ。)


 小さな東屋には、二人の男女が仲睦まじく腰掛けていた。


 心配気なプラチナブロンドの男性と、お腹の大きいハニーブロンドの女性……。


『シェリーがあなたを妊娠していたころね』


 泉の精が語る。


『シェリーが一番幸せだった時よ……愛する夫とその間にできた愛おしい子』



 泉の精は、どこか懐かしいような愛おしいような目でそれを見ていた。


 のどかな光景だ……そう思った。


 柔らかなお母様の笑い声と愛でるような目をした父の姿。私が見たこともないような宮殿の光景である。


(お父様の庭園といえば、死体が転がってるのが常である…)


 あれは、ニ歳ほどだったか。

 まだまだ私が無垢な頃。

 お父様とお茶をしようと、ロゼイド宮殿へ押しかけたときだった。使用人たちの静止も聞かず、庭園に入ってしまったのが悪かった……。


 無造作に転がされた真っ二つの血まみれの塊に驚き、ひっくり返ったことは記憶に鮮明に残っている。



「私の愛おしい子……。例え、私がいなくなっても、どうか、健やかに育ってね」

「シェリー、そんなこと言うな。お前に何かあれば、俺はどうやって生きていけばいいんだ?」


「女々しいわよ!?この子がいるのだからこの子に全力で愛情を注いで!!いい?」


 やはり、母は強し……ということなのか。こんなお父様は初めてである。


「シェリー、愛してる」


 戸惑いながらお母様に軽い口づけを落とすお父様。


 幸せそうな光景が広がっていた………。





「殿下!!!頑張ってください!!あと、あと少しです!」


「うーー!はぁ、はぁ……」


 額には大粒の汗、息は苦しそうに上がっている。


(私の出まれた日?)


 そして………


「おぎゃぁぁぁーー!!」


 王城が揺れるような大きな泣き声。

 いや、実際揺れていたかもしれない。


「すごい……わ……精霊が…祝福してる………」


 息もとぎれとぎれになりながら、母は、嬉しそうにそういった。


「可愛らしい王女様でございます」


 侍女の手から渡された私を母が力強く抱きしめた。


 プツリと目の前が暗くなった。

 明るくなった視界に映ったのは元いた泉だった。



『シェリーの最期は見ていないの』


 泉の精は悲しそうに顔を伏せた


『私は泉の精。ファンベルツィアの守り神の一人。隣国へ行ってしまった愛おしいあの子になにもしてあげることができなかった』


 ぽつり、ぽつりとこぼされる言葉に深い後悔が滲んでいた。


『あの子が愛する家族とともに幸せに暮らせるよう祈っていたけれど、それは叶わなかった。でも、シェリーの一番の幸福はあの夫とあなたに出会えたことだったと思うわ』


 優しい、慈愛を込めた笑みだった。


「お母様はあなたのことも話していたわ。お母様の友人の『シエル』はあなただったのね」


 そう、覚えている。私には生まれたときからの記憶があるのだから。目が開くようになる前だったから声しか残っていないけれど。お母様の柔らかな声、お父様の慈愛に満ちた声。


 でも、初めて目を開いたあの日、お父様の憎悪に満ちた冷たい瞳に子供ながらに傷つき怯えた。だから次第にもう二度と戻らない美しい記憶は忘れようと心の底で蓋をしていた。


『……ティア。あなたは精霊の愛し子。どうか、清い心を持ち、正しい瞳で見、多くの声を聞きなさい。あなたを残したシェリーもきっとそれを望んでる』


 抱きしめられたところから熱が広がる。


 温かい、心地良い……


【わたくしの愛おしいティア。どうか、強く育って。いつまでもあなたを愛しているわ。あなたに天の祝福を、女神のキスを】


『どうか、あなたに天の祝福を、女神のキスを』

「!ねぇ、それってどういう意味?お母様も昔仰ってたわ」

『ふふ、これは愛しい子に贈る愛の祝福。ファンベルツィアでは、生まれた子にそう言って子の幸せを祈るのよ』


 あぁ、そうか、私愛されてたんだ。

 お母様に、愛されてたんだ。


 お母様は私を産んだせいで死んだのに、私を愛していてくれたんだ。


 泉の精は、ぽろぽろと泣き出す私の背を優しくさすってくれた。


『あなたのお父様は不器用だから。でも、あなたのことを一番に思っているのは彼のはずよ』


 お父様のことは、正直わからないけれど。

 でも、きっと、昔の記憶が色褪せてしまってもこの懐かしい幸せな記憶は残っていくのだろう。






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