6話 いざ出陣
コンコン
「アルバート・クロイツでございます」
「どうぞ」
なるべく凛とした声でこたえる。
「失礼致します」
従僕たちによって扉が開かれ、私を見つけたアルは石のように固まっている。
アルは、普段見慣れた騎士の格好ではなく、男性貴族の正装をしている。
暗い赤と黒の衣装には繊細な銀糸の刺繍が施してあり、まさしく高位貴族にふさわしい装いである。
サラサラの紅炎の髪は後ろになでつけてあり、形のいい額が顕になっている。
少しだけ垂れた前髪がなんとも言えぬ色気を醸し出しており、普段の駄犬具合を上手く隠していた………
のだが……
「……ミオナ、お茶を入れ直してきてくれるかしら」
「かしこまりました、ティア様」
空気に徹していたミオナに新しく紅茶を用意するよう頼み、部屋から出す。
パタン、とミオナが扉を閉めて出ていったのを確認し、口を開いた。
「アル、いつまでそうして固まっているつもりなの?」
「は!? し、失礼しました。国王陛下、並びに王太子殿下。クロイツ公爵家が長男、アルバート・クロイツ。ただいま、参りました」
「………ふん、貴様が今日の護衛か」
父は固まっているアルに更に追い打ちをかける言葉を投げつける。
「も、申し訳ございません。此度の夜会では警備の配置の都合上、私が大役を任ぜられましたっ!」
思ったよりガッチガチのアルに内心呆れ返る。
「アル、少し落ち着きなさい。そんな様子で大丈夫なの?」
「だ、大丈夫かと…」
いや、そこは大丈夫です!!って胸を張れるくらいにはしようね。うん。
「ティア様」
「ん?」
扇を忘れたため、取りに行こうとしていたところで声をかけられ、アルの方を向こうと振り替える。
「今日もお美しいですね」
と、驚愕の一言。
あ、危うく目が飛び出すところでした!!!
いや、わかんない。わっかんないよ!?
どうしたのよ!!マジで!?
「どうしたの、アル!頭、うった!?!?お父様、どうしましょう!アルが可笑しいわ!?急いで治癒魔法を、あっ、いや、お医者様!?え、どうしよう!!!!」
「落ち着け、ティア。心配要らん」
心配しかないし。
「いや!だって、アルが変なこと言うんだもの……」
ふっとアルに顔を向ければ何故かアルは顔を手で押さえてその場にしゃがみこんでいた。
??
お父様はそんなアルに近づき、ポン、とひとつアルの背を叩いた。
それから、アルに何かをボソッと告げる。
「ねぇ、何してるの?」
そう問いかけても返事はなく、父とアルはずっとボソボソ話しあっている。
話が終わるのを戻ってきたミオナに入れてもらった紅茶を飲みながら、待つ。
あら、この紅茶、美味しい。
ニコッとミオナに微笑むと、ミオナが口を押さえて壁に向かって悶えた。
「うはぁっ!!かわゆい!可愛すぎる!これじゃ、クロイツ様も早死にね」
「???」
「………はぁ。ティア、取り合えず行くぞ」
話しは終わったらしいが、何故か父は少々疲れて戻ってきた。
「はい」
何が取り合えずなのか、全く分からなかったが、まぁいいか。
私はミオナから扇を受け取り、父の手に手を重ねて会場へと向かった。
「っ!国王陛下、並びに王太子殿下にご挨拶申し上げます!」
王家が入場する扉の側に立っていた二人の騎士が私たちに気付き敬礼する。
「御機嫌よう、シャルフィー卿、セシル卿。ご苦労さま」
城で働くものの顔と名前くらい覚えることは容易い。
それに加えて、彼ら二人は近衛騎士だ。よく見かけるのだから、そうそう忘れない。
「……そろそろか」
「えぇ、そうですね」
「では、扉を開けます」
『リゼアイリア王家、スフェルラート・ロゼイド・ロズマリン国王陛下、ルピアナティア・ロゼリア・ロズマリン王太子殿下のご入場!!』
カーンカーン!
という、入場の合図があり、開かれた大きな扉から私と父は足を進めた。
いざ!出陣じゃぁ!!!