10話 母を知る(2)
黒いカラス……ならぬ、イシュアをため息混じりに見やる。
「まったく、あなたは本当に……」
「そうは言ってもティア様。俺はティア様以外に姿をみせる必要はありませんからね」
面白そうに笑いながら私の前に膝をつく。
「報告がございます」
「賊のことでしょう?誰の手引か、つかめたの?」
すると、イシュアはニヤリと笑った。
つかめたんだな…。しかも、他にも面白いことまで。
「もちろんですとも。黒幕はファンベルツィア貴族、ガンゼル男爵でした」
「ガンゼル男爵……」
確か、ガンゼル男爵家は、新興貴族で、つい最近男爵位を叙勲したはずだ。
「ガンゼル男爵には、娘がいたわね」
「その娘が、最近王宮に入り浸っているとしたら?」
イシュアが不敵に笑う。
「王妃の座が狙いね?」
馬鹿だわ。
ダイス伯父様を狙うのに、わたくしが邪魔だったのね。
「中々振り向かない王太子の元に、他国の王とでも婚姻を結べる大国のお姫様がやって来た。となれば……」
「事情を知らない新興貴族は、焦る……」
「特に、ガンゼル男爵は、元々ファンベルツィアの人間というわけでなく、流れの商人で、ファンベルツィアが王国となった際、この地に定住したようですよ」
「それなら、知らなくても頷けるわね。本来、公国時代からここに住んでる者ならば、母のことは知ってるはずでしょうから」
母を知っているならば、私を知っている、王家の事情を知っている。
そして、ダイス伯父様が未だに誰とも結婚しない理由も…。
「ガンゼル男爵は、どうしても娘を王妃にしたいようですね」
「王妃なんて決して楽なものじゃないのに…。きっと地位がほしいだけなんでしょうね」
そうか、でも、令嬢は王宮に入り浸っているのか…。
ふと、ひとつのこれから起こるかもしれない事に思い至り、顔をしかめて、イシュアを見る。
「……明日からはすぐ近くにセルエドを立たせましょう」
「俺も明日からは近くにいますよ。もちろん、人からは見えないとこですが。あぁ、あとは、寝台の下に剣を忍ばせておいてください。ま、ティア様のことだから短剣は常に持ってるんでしょうがね」
と、言われたので、ネグリジェの裾を太腿のところまで捲くりあげて、短剣を見せる。
「ちょっ!そんなとこに隠してもの見せなくていいですし!しまって、しまって!!……まじで、俺、帰ったら陛下から目潰しされるかも………」
ざまぁ、これも、日頃の行いのせいね。
イシュアとひとしきり話したあと、ぐっすりと熟睡させてもらった。
朝、寝室に面しているバルコニーのすぐ下の庭に、返り討ちにされた暗殺者たちが転がっていることなど、知らないふりをして、美味しく朝ごはんを食べた。
……ただのお姫様だったら気付かないんだろうなぁ。想像もできないけれど。
ひとつ、注文をつけるとしたら、もっと静かに処理しろってこと。お蔭で何回か目がさめたわ!
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